SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。在宅勤務などの働き方や、オフィスに対する考え方の変化、リユース品市場の拡大などにより、オフィスの在り方が変化を見せている。今回はオフィス家具市場の動向を見る。

オフィス家具販売額は回復傾向

まず、オフィス家具の市場動向を確認する。
オフィスデスクやキャビネット等のオフィス家具市場は、景気に影響されやすいという特徴がある。2008年のリーマン・ショック時は、企業の倒産が相次ぎ、2009年のオフィス家具の需要は大幅に減少した。その後、景気が回復するにつれ、企業も採用人員を増加させ、オフィス移転を行う企業が増えており、オフィス家具の需要も堅調に推移している。
また、オフィス移転以外にも、レイアウトや家具を変更することにより効率的な運用・改善投資をする企業もあると考えられ、リニューアル需要も拡大している。たとえば、10年前はデスクの幅の主流は1,400mmであったが、PCの小型化や固定電話の減少により、デスクの幅は現在1,200mmが主流になってきている。
 
なお、主要企業である岡村製作所とコクヨの営業利益をみると、基本的には、景気動向に影響されやすい業界であることがわかる。
 
 

大規模オフィスビルの供給は続く

次に、オフィス移転の動向についてみるため、大規模オフィスビルの新規供給量を確認する。森トラストによると、東京23区の大規模オフィスビル(オフィス延床面積10,000㎡以上)の新規供給量を延床面積ベースでみると、2011-2015年にかけて、年平均117万㎡が新規供給されている。今後2016-2020年にかけては、年平均109万㎡と見込まれており、2011-2015年よりも鈍化するものの、大規模なオフィスビルの供給は続くとみられる。
 
延床面積の規模別では、10万㎡以上のビルが2011-2015年には全延床面積の36%であったが、2016-2020年には58%と増加する予定である。
 
東京23区内では、2021年以降に完成予定の大規模開発が相次いでいる。計画は、特に大手町・八重洲エリアと新橋・虎ノ門エリアに集中、2021年以降に完成予定の再開発のうち、床面積等が判明しているものは東京23区内で340万㎡程度(2016年6月時点)である。そのため、2021年以降もオフィス家具需要は堅調に推移する可能性が高い。

オフィス家具4大メーカー

次に、オフィス家具事業者について確認する。オフィス家具の参入企業は、岡村製作所、コクヨ、イトーキ、内田洋行が4大メーカーといわれている。
岡村製作所、イトーキ、内田洋行はオフィス家具から製品・サービスを拡充した一方、コクヨはステーショナリーから出発し、オフィス家具へ参入した経緯がある。
具体的には、岡村製作所は店舗用商品陳列棚・冷凍・冷蔵ショーケース、コクヨはステーショナリー、イトーキは物流設備機器やセキュリティ設備機器等、内田洋行は教育・情報関連をオフィス家具以外に展開している。
 

空間提案型と単体販売に二極化

ここで、オフィス家具のトレンドを確認する。オフィス家具事業者は、従来オフィス家具単体を直販、またはメーカー系列の販売会社や代理店経由で販売することが多かった。
しかし近年では、大手オフィス家具事業者を中心に、主に大規模オフィスに対して、要件調査からレイアウトの提案、オフィス家具・什器の選択・搬入、アフターフォローまで、オフィス空間をトータルで提案するソリューション提案に注力している。ソリューション提案の場合、その空間に合ったオフィス家具を提案できるため、収益性が高いと考えられる。
レイアウトの提案などを行うようになったため、建築設計事務所やデベロッパー経由でも受注を受けるようになった。ただし、大規模オフィスビルの移転やリニューアル等、大規模な案件を受注するには、ほとんどの場合、競合他社とのコンペに勝つ必要がある(コクヨによる)。
一方、中小企業のオフィスには、オフィス家具を単体で販売することが多い。中小企業はコスト削減のため、オフィス移転やリニューアルのときは、内装業者に依頼し、オフィス家具は自社でそろえるためである。
近年では、インターネットやカタログ等による通販が拡大し、アスクルやビズネット等、オフィス家具の通販を展開する事業者も増えている。
2016年1月には、オフィス家具事業者のプラスが、自社開発オフィス家具のEC販売やオフィスプランニングを手がけるオフィスコムを買収。製品企画・調達・物流等での相乗効果を促進し、オフィス家具通販の拡大も図る姿勢を見せている。

ニューオフィスや健康経営を推進

次に、オフィス家具市場が、オフィスビルの動向のほか、政府が推進する政策にも影響を受けるため、どのような政策があるのかを確認する。
 
通商産業省(現:経済産業省)は、1986年に日本のオフィス環境をよくする「ニューオフィス化推進についての提言」を公表。これは、当時の米国と日本のオフィス環境の落差に注目し、発想された政策である。 ニューオフィス推進協会では、快適かつ機能的なオフィスづくりの普及・促進を目的に、1995年から毎年「日経ニューオフィス賞」を選出している。
また、2009年頃からは健康経営にも注目が集まっている。2015年度の経済産業省の健康経営に貢献するオフィス環境の調査「健康経営オフィスレポート」では、オフィス環境を整備することを推進。オフィス環境において従業員の健康を保持・増進する行動は、快適性を感じることや、コミュニケーションすること、休憩・気分転換すること、体を動かすことなど、7つに分けられる。
さらに、一人当たりのオフィス面積も約10㎡から約8.55㎡に縮小、今後在宅勤務の増加によりオフィスワーカーの減少も考えられ、オフィスに余裕が出る可能性が高い。健康経営のためにもコミュニケーションは必要であり、近年のトレンドとして、オフィスのコミュニケーションスペースが拡大していることから、カフェスペース等のリフレッシュスペースを新設する企業は今後増えていくと考えられる。
具体的には、SCSKはデスクスペースを1.5倍に拡大し快適性を高めるほか、ダスキンはカフェスペースを設置し、コミュニケーションを図っている。また、アマゾンジャパンではボルダリングウォールを設置することで、体を動かし気分転換にもつながっている。

勤務形態の変化も市場に影響

昨今のトレンドとして、勤務形態の変化がある。在宅勤務といった勤務形態の変化によって、オフィスで働く人口が減少するため、今後のオフィス家具の需要に影響すると考えられている。
自営型・雇用型を含んだ在宅型テレワーカー数をみると、東日本大震災直後の2011年から2012年にかけて急増したが、 2012年の930万人をピークに2014年には550万人まで減少している(国土交通省による)。 
2014年の「世界最先端IT 国家創造宣言」では、2020年までに全労働者数に占める週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を10%以上にすることを目指しているが、2014年度は3.9%、2015年度は2.7%となっており、普及していないのが現状である。
 
直近の報道では、 トヨタ自動車が総合職全体を対象に在宅勤務を拡大三菱UFJ銀行が在宅勤務を導入するなど、国内の大手企業が在宅勤務に対して意欲的なことから、今後在宅勤務が拡大する可能性は高い。
在宅勤務の拡大により従来のオフィス家具需要は減少すると考えられる。一方で、自宅での勤務を快適に過ごすための家庭用オフィス家具が必要になると考えられ、在宅勤務は必ずしもオフィス家具事業者にとってマイナス要因になるとは限らないかもしれない。

まとめ~参入業者の増加で差別化が必要に

2016年4月には無印良品がオフィス家具へ参入。無印良品やIKEA等の家庭用家具事業者の参入をはじめ、オフィス家具の通販事業者も勢いを増しており、オフィス家具業界は競争が激しくなることが予想される。また、環境省が事業者向けに「オフィス等から発生する使用済製品リユースのための手引き」を作成、リユースの取り組みを重視しており、オフィス家具の中古市場も拡大すると考えられる。
一方で、ユーザー側からみると、執務スペースでは機能性を重視したチェア、コミュニケーションスペースではカラフルなチェアなど、目的別にオフィス家具を選択できるようになった。また、一般的に高価格帯であったオフィス家具が、中古やレンタルなどを利用し低価格でそろえられるようになるなど、目的別・価格別で選択肢が広がっている。
単なる価格競争に陥ることを避けるためにも、オフィス家具事業者はターゲットを明確にし、より一層の差別化を図る必要がある。