2016年3月、教育・福祉分野で飛躍を続ける会社が、東証マザーズ上場を遂げた。「障害のない社会をつくる」というビジョンを掲げ、就労支援、幼児教室・学習塾といったサービスを展開しているLITALICO(リタリコ)だ。同社を率いるのは、1985年生まれ、若干31歳の長谷川敦弥。経営陣に名を連ねているのは、金融やメーカーから、経営コンサルティング、ITまで、異業界出身者たち。しかも、代表・長谷川と同じく、その多くが30代だ。ビジネスシーンの最先端で活躍していた各企業の若いコア人材が、続々とLITALICOへと集結している。――それはなぜか。現在、同社の事業を率いる事業責任者として手腕を発揮している3名に取材を敢行。この業界、そしてLITALICOに飛び込んだ理由と、働く魅力について語ってもらった。

障害は社会の側にある。異業界で培った力で社会変革を加速させる

取締役 中俣 博之
1984年生まれ。筑波大学第三学群卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。新規事業開発をはじめ、国内・海外企業との提携・買収案件や、海外支社での経営企画・戦略を担当し、帰国後はゲーム開発の部長職などを歴任。2014年7月株式会社LITALICOに入社。同年10月、取締役に就任。
幼少期からの経験より、いつかは福祉や教育の領域で仕事をしようと思っていたものの、就職活動のタイミングでは、その分野で自分が惹かれる組織はほとんどなかった。だからまずは「ビジネスパーソンとしての力を付けたい」と思い入社を決めたのが、当時はまだ笹塚の雑居ビルにあったDeNAでした。
入社後は南場さん直属の社長室に配属され、ネット事業の基礎をイチから叩き込まれました。その後海外企業の買収やアライアンス、採用責任者、海外支社での経営戦略、ゲーム部門の管掌など、非常に多様な経験をさせてもらいました。
そんな刺激的な日々を送り、20代後半にさしかかった頃、ふと考えたのです。優秀な仲間と、最先端の業界でイノベーティブな仕事をやり続けることが、自分の使命なのかと。
インターネット業界には優秀なプレイヤーが数多くいます。極論、私じゃなくても代替がきく。ただ、障害に関わる社会課題や現代の教育の在り方そのものを根本から問い直すところに、人生を懸けてコミットしているビジネスパーソンは少ない。
「ネット事業の前線で培った力で、日本の教育や福祉業界の進化を年単位で加速させることに寄与できるのではないか」という考えに至り、自分の原点に立ち返る決断をしました。
転職してからも、一層充実した日々を過ごしています。充足感の源泉は、KPI達成がそのままユーザーの安心や希望に直結していることにあります。私たちのサービスはお客様の家庭や人生における切実な課題の解決に直接関わるものです。
たとえば「LITALICO発達ナビ」という発達障害のある子どもをもつ保護者向けポータルサイトでは、子育てに関する不安や悩みがシェアされ、ユーザー同士が支援しあうコミュニティが育ちつつあります。
胸を締め付けられるような、切実な悩みに対して先輩パパ、ママからの共感と応援の言葉、実践的なアドバイスが届けられています。こうしたサービスの開発・改善に携わりながら、日々、背筋が伸びる思いがします。 サービスの改善をはじめ、私たちの進化が、安心と希望の進化につながるのです。
だから、停滞は許されない。私たちは、障害は「人」ではなく、「社会の側」にあると考えています。例えば、私はメガネをかけていますが、メガネやコンタクトレンズが世の中に無ければ、私は見ることに「障害」を感じるでしょう。しかしメガネが発明され、それを身につけることが自然だと思える文化があれば、見ることに「障害」はありません。
「LITALICO発達ナビ」も、子どもの発達に対する不安や悩みを安心して共有でき、専門家からの助言を得ることのできるコミュニティをウェブ上に設けることで、保護者の方が感じる「障害」を取り除きたいとの思いから立ち上がりました。
社会の側にある偏見や無理解に向き合い、新しいサービス、プロダクトをつくりだし、制度や仕組みを整えていくことで「障害のない社会をつくる」というビジョンは実現できると信じています。
そうしたビジョンの下、集まった仲間の中には、教育・福祉以外の業界でキャリアを積んできた者も少なくありません。私の場合はインターネット業界ですが、異なる分野で培ってきた力で、教育・福祉分野の課題解決を加速させることができる。このことに責任の重さとやりがいを覚えます。

研究開発、政策提言から協業推進まで。「社会課題のR&D」を推進

社長室長 深澤 厚太
1984年生まれ。東京大学文学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。非営利セクターの経営支援や製薬企業のオペレーション改善等に従事。休職の上、NPO法人Teach For Japanの立ち上げに1年間参画。カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBA取得。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに復職し、エンゲージメント・マネジャーとして国内外の案件に従事。2016年1月株式会社LITALICOに入社。
日本の教育を変えたい。これが私の「働く軸」になっています。きっかけは留学先でのスウェーデン人学生との出会いです。
年の近い彼が、自国の社会課題や、課題解決のためにどんなキャリアを歩みたいのか、しっかりと自分の言葉で語るのを目の当たりにしてショックを受けました。自分はその時大学生でありながら、何故大学で学んでいるのかすら語れなかった。――これが原体験にあります。
世の中にどんな課題があって、その解決のためにどんな職業選択がありうるのか、さらにそのためにはどんなスキルが必要なのか。日本の教育では、そういったことを考え、学ぶ機会はまだまだ少ない。それ自体が社会課題だと思いました。
大学卒業後は、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、まずは自分自身が世の中にある職業と課題を知るべく、様々なプロジェクトに参画。入社3年で一旦会社を離れ、公教育の課題解決にチャレンジするNPO「Teach For Japan」の立ち上げにフルタイムで関わりました。
その時感じた、「よりスケール感のある環境で、自分のキャリアのすべてをかけて日本の教育を変える仕事にトライしてみたい」、という想い。それがLITALICOに入社した理由につながります。
LITALICO入社後は社長室長として、いくつかのプロジェクトを掛け持っています。その一つが「LITALICO研究所」の企画・運営です。教育と就労に関する社会課題解決に向けて調査研究を行うだけではなく、政策提言にも積極的に着手。提言のいくつかはすでに実際の政策に反映されています。
精神障害分野では、人工知能を活用した自殺予防プロジェクトなど、UBIC社との協業推進にも携わっています。 LITALICOでの私の仕事は、研究開発とアイデアの事業化であり、言うなれば社会課題のR&D推進。
一企業だけでは限界もあり、文部科学省をはじめとする行政機関や大学、他の企業と連携をしながら進めるプロジェクトも少なくありません。各セクターが連携して、社会課題を解決していく機運をつくっていくことの一端を担えればと思っています。
LITALICO研究所の所長には、鳥取大学大学院の井上雅彦教授をお迎えしました。社内外のタレントを集めた「オールスター軍団」とも表現できるような素晴らしい仲間に囲まれ、日々刺激を受けつつ、プロジェクトの推進に取り組んでいます。

意思決定に一切のブレがない。真摯な経営者と、社会を変える

執行役員 小助川 将
1980年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、経営コンサルティング会社に入社し、大企業からベンチャー企業の経営支援業務へ従事。株式会社リクルートにて新規事業立上げや組織開発コンサルティングなどに携わった後、グリー株式会社で事業企画やゲーム事業部門の推進責任者を担当。2015年4月、株式会社LITALICOに入社。Qremo事業部長を務め、同年11月、執行役員に就任。
これまでに、新卒で入社した経営コンサルティングファーム、リクルート、グリーといった会社で、企業・事業再生、新規事業立ち上げ、M&A戦略立案、組織開発、事業開発・推進など様々な経験をさせてもらいました。
LITALICOに転職したキッカケは、娘と息子への教育が自分にとってホットトピックだったこと。子どもへの教育を考える上で、親の大事な役割の1つに、多様な機会を子どもへ届けることだと考えるに至りました。
偶然、娘と息子が熱中して受講をしていたのが、LITALICOが展開している「Qremo」(子ども向けのIT&ものづくり教室)だったこともキッカケの1つでしたね。
LITALICO入社の最大の決め手になったのが、代表・長谷川との出会い。長谷川と話し、「障害のない社会をつくる」というビジョンに対してまっすぐで、一切のブレがない人物だと感じました。
経営や組織開発に関わるコンサルタントを長らくやってきたなかで沢山の経営者と議論する機会をいただいてきましたが、ここまで肝の据わった人、社会変革を人生をかけて本気でやろうと思っている人はなかなかいません。ビジョンに基づいた意思決定を一貫してきた経営のスタイルに共鳴し、惹かれました。
LITALICOで働く上での魅力は、「障害のない社会をつくる」というビジョンに対し、ゼロベースで何をやるのがいいのかということをとことん考え抜き、実行できるところにあります。「社会をなんとかしたい」という熱い想いと高い視座を持って挑戦したい人にとってはエキサイティングな環境です。
年齢や立場の違いを超えて、自由闊達に議論できる組織文化も当社の特徴のひとつです。「部下だから上司の言うことを聞かなければいけない」といった権威主義や形式主義的な考えを持っている方には向きません。
新規事業開発が加速していることもあり、若手の抜擢や本人希望の異動も多く、1200名を超える組織でありながら、ベンチャー企業としての魅力も備えていると思います。
長谷川の社長就任から5年で社員数が10倍に伸び、急成長に伴う組織課題も少なからず出てきました。ビジョンに対して真摯に向き合うことのできる仲間とともに、課題解決に取り組むことにやりがいを感じます。

取材後記

マーケットはグローバル化し、常に成長が求められるビジネスシーンにおいて、LITALICOは特殊な存在かもしれない。LITALICOの「成長」は、結果の産物。そこで働くビジネスパーソンたちの優先順位は、「成長」ではなく、「社会を変えること」。
――取材を経て、そんな印象を強く感じた。LITALICOに集結するメンバーは、一貫してそのビジョンに強く共感・共鳴し、社会を良い方向へ変えようと、真摯に仕事に向き合っている。
「社会課題の解決」を真剣に考え、その実現に向けて、如何なく手腕を発揮できることが、LITALICO最大の魅力なのだろう。だからこそ、真に社会貢献を考える各界のハイ・パフォーマーやスペシャリストがLITALICOへと集結しているのだ。
(取材・文 眞田 幸剛)