“テクノロジー失業者”は49%、AIは文系の仕事を奪うのか?

2016/6/24
分が悪い文系職種  
2015年末、野村総合研究所(NRI)と英オックスフォード大学の共同研究が、多くの人事関係者を驚愕させた。
49%──。10~20年後、AI(人工知能)やロボットに代替される可能性の高い仕事に就いている人の割合は、およそ半数に及ぶと結論付けたのだ。
この研究のベースとなった論文「雇用の未来(THE FUTURE OF EMPLOYMENT)」(2013年)でも、米国では47%の人がAIに仕事を奪われる確率が高いと指摘しており、結果に大差はない。
そして、2016年1月、本研究を推進したマイケル・オズボーン准教授は、NRI主催の講演会にて「今後、会計監査係員・税務職員・行政書士・弁理士といった職業は機械化の可能性が高い」と指摘した。
また、NRIは「公認会計士・弁理士・司法書士などの複雑かつ高度な業務であってもコンピュータ化の可能性が高い」と記した。
共同研究によると、今後、労働力不足が大きく、自動化が進みやすい領域についてはロボットの導入が進み、さまざまな専門情報や数値の整理が行われるという。
AIにとって、高度な情報の扱いはお手の物だ。大量のデータの解析が進めば進むほど、機械は勝手に学習し、精度の高い解を出せるようになる。だからこそ、こうした職種は、機械に代替される可能性が高い。
文科省通知は「文系廃止論」?
2015年6月、文部科学省が出したある通知書が、「文系廃止論」だとして世を騒がせた。
「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」と題する書面において、教員養成学部や人文社会系学部に「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」よう求めたのだ。
一方で、エンジニアなど理系職種は人手不足が叫ばれて久しい。
「IT人材白書2016」によると、2011年、IT人材が「大幅に不足している」もしくは「やや不足している」と答えたIT企業は64.7%だったのに対し、2015年には91.2%となった。
機械から身を引く、隙間を見つける
理系の躍進に、文系の凋落──。“テクノロジー失業”時代が到来し、文系人間は本当に淘汰されるのか。
MITのデジタル・ビジネスセンターの特別研究員トーマス・H・ダベンポートとハーバード・ビジネス・レビューの寄稿編集者ジュリア・カービーがAI時代の人間の強みと生き残り策を書いた『AI時代の勝者と敗者』(トーマス・H・ダベンポート、ジュリア・カービー著、日経BP社)では、AIに仕事を奪われない戦略として以下の5つを掲げる。
注目すべきは、テクノロジーを理解し、機械ができない大局的な洞察をする、あるいは機械の先を行くといった難易度の高い戦略が掲げられる一方で、機械から身を引く、自分の仕事に自動化されない隙間を見つけるなどの“文系的”な戦略も、立派な戦略として認められたことだ。
解説では、むしろ機械から身を引く人材を生かすことが企業の競争優位を生み出す──とさえ語られる。
AI時代、文系職種がサバイブしていく方法は、いくつもの道がありそうだ。
そこで本特集では、営業、マーケティング、人事や広報などのバックオフィス、弁護士などの文系職種の未来像や労働環境の変化について、さらにはサバイバル戦略について考察していく。
広告営業マンはいなくなるのか?
本特集1回は、シミュレーション小説「広告代理店の営業マンは5年後いなくなる」をお届けする。
文系の花形である広告代理店の仕事は、2020年に消えるかもしれない。「おもてなし力」とガッツで仕事を取っていた営業やバイヤー、プランナーは、AIに対して為す術もなく……。文系崩壊の模様を描く。
第2回は、キリンのデジタル戦略の舵を取る上代晃久氏が登場。IoTの進展により、スーパーや商品の陳列棚やカート、ひいてはビールジョッキまでが機械と化し、ビッグデータを貯めていく時代が到来しつつある今、広報や宣伝、マーケティングや営業らの仕事はどのように変わるのか──。
第3回以降では、文系職種の今後を占う。
回転寿司チェーンのあきんどスシローでは、来場客の入店状況やデモグラフィー、寿司レーンに流れている寿司の種類をデータ解析し、リアルタイムで流すべきネタがレコメンドされるシステムが導入されている。
しかし、同社の水留浩一社長も、各店舗の店長に対して「これを食べてほしいんだという、店長の意思をレーンに流せ。システムに頼りすぎるな」と檄を飛ばしているという。果たして、その意図とは?
これまで回転寿司のレーンに何を流すかは、店長の腕次第だったが……。(写真:あきんどスシロー提供)
第4回は、会計士、弁護士など「士業」の未来像について占う。数値や定型的な文書を扱う会計士は特に、“消える仕事”として認識されやすいが、監査法人や弁護士たちはどのような先手を打っているのか。
第5回は、営業職編だ。テクノロジーの進展とビジネスの高度化により、営業マンの仕事は複雑化してきている。
事業の複雑化によりステークホルダーが増え、複数の意思決定者の許可を取る必要が生じるようになったうえに、見込み客はオンライン上で製品のリサーチを重ねてから営業マンに連絡する時代。
営業マンの存在は、どう変化するのか。
セールスフォースや第一生命の事例を引きながら、解説する。
400%求人が増えた職種、減った職種
続く第6回は、企画職などのクリエーター編だ。博報堂グループでデジタル領域のクリエイティブ作品を通じた提案を行う博報堂アイ・スタジオの平林誠一社長は、これからのクリエーターに求められる素養として「技術への興味」を挙げる。
「エンジニア同様にプロダクトを作れる必要はないが、技術の仕組みや構造をおさえておく必要はある」(平林氏)
たとえば、サービスを支えるサーバーには、メールサーバーが何台、アプリサーバーが何台、データベースサーバーが何台必要かなどの構成に興味を持てなかったら、クリエーター失格だという。
顔分析を使って自分の“職種顔”を鑑定することができるシステム。こうした画期的なプランを立案できるのは、文系の強みだ(写真:https://dna.h-mp-recruit.jp/より)。
一方、単純な「データ重視」だけでは限界があるとの指摘もある。
第7回に登場する東京大学大学院情報学環教授の吉見俊哉氏は、学術的な観点から「理系偏重」の流れに異を唱える。
吉見氏によれば、理系の知は、目的が決まっている場合に、その目的を果たすための手段として役に立つ。一方で文系の知は、目的や価値そのものをつくり出すことに意義を発揮するという。
そのうえで、「新たな価値やイノベーションを生み出すのに文系の知は不可欠であり、文系の素養がない理系は、どこかで行き詰まる」と指摘する。
第8回ではAIが変えるビジネスの未来像に知見が深い、経営共創基盤パートナーの塩野誠氏と日本における初のスーパーコンピュータを開発するベンチャー起業家齊藤元章氏が対談。人工知能と、人の脳がつながる未来について、語り合ってもらう。
そして第9回では、人事、広報など管理部門の未来像を追う。人事は、今後採用や育成、優秀な人材の引き留めなどに、いかにAIを活用するかが問われる時代に突入。一方、広報は、メディアの人間との昵懇ぶりを武器にするような古典的なタイプは退場を余儀なくされる。
データを活用し企業と利用者の距離を縮めるアイデアを出し、実行していくストーリーメイク力とデータへの知見が問われる。
そして最終回は、今後の職業の将来性を予測するうえで欠かせない、現在の転職市場における求人の伸び率ランキングを掲載。
理系のとある人気職種は3年前に比べ、400%求人が増えたが、その一方で40%代に落ち込んだ文系職種もある。
それら職種とは、何か。100種以上の職種の求人伸び率を一挙に掲載する。
(構成:佐藤留美、デザイン:福田滉平、青葉亮)