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ベイスターズの野球マーケ【7回】

お家騒動の大戸屋に、ベイスターズ社長が見る異色タッグの可能性

2016/6/23

6月23日、定時株主総会が行われ、取締役選任の議案が賛成多数で可決された──。

これは、株式会社横浜DeNAベイスターズの話ではない。国内外に416店舗(2015年3月末時点)を展開するジャスダック上場の大手飲食チェーン、株式会社大戸屋ホールディングスの話である。

もちろん、本連載に「大戸屋」の名を登場させたのには理由がある。この株主総会で選任された社外取締役の一人が、ベイスターズの球団社長を務める池田純なのだ。

大戸屋といえば、気軽に家庭的な和定食を味わえるというイメージが広く定着している一方、現経営陣と創業家との間でいわゆる「お家騒動」が勃発していることが先日来表面化していた。

なぜプロ野球球団の経営者が、お家騒動に揺れる大戸屋の社外取締役になったのか。そして、それは双方にとってどんな意味を持つのか。答えを確かめるべく、社長の池田に話を聞いた。

横浜スタジアムの課題は飲食

社外取締役選任のきっかけは、組織の不協和音によるブランドイメージ低下を危惧する関係者からの打診だったという。現職の球団社長が上場企業の社外取締役を務めた前例は聞いたことがない。

それでもいくつかの理由から、池田はそのオファーを引き受けることに決めた。

最初に感じたのは、ベイスターズの経営がまったくの異業種から評価されたということだった。

「素直に喜ぶべきことだと思いました」

そう言って、池田は表情を和らげる。

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さらに、オファーをくれた企業が飲食チェーンだったこともポジティブな判断材料だった。池田によれば、飲食チェーンの再建に関与することはベイスターズ側に一定のメリットをもたらすという。

「今季から横浜スタジアムとの一体経営が始まりましたが、来場者の満足度が最も低い項目が『飲食』です。ベイスターズ主体で開発、販売を開始したビールやから揚げ、ホットドッグなどは好評をいただいていますが、スタジアム全体の飲食の評価はまだまだ低いまま。大戸屋の再建に力を貸しつつ、ベイスターズ側も課題の『飲食』を改善するヒントが発見できるかもしれないという意味で、双方にとってプラスになると考えています」

他業種から広がる可能性

池田が飲食に注目するのは、その先に無限の可能性を感じているからでもある。

「ベイカラ(から揚げ)やBAYSTARS LAGER(ビール)など球団のオリジナル商品を、横浜のデパートや、家の近くのコンビニで買えるようにできないか、ということを最近はずっと考えています。それが実現すればスタジアムに行けないときでも、自宅でちょっとした球場観戦気分を味わってもらえるようになります」

「そうやってボールパークを超えて楽しみを提供していくためには、ベイスターズというブランドが、野球の世界だけではなく、他業界でも認識してもらえるようになる必要がある。飲食業界でブランドを築いた大戸屋には、私たちの知らない、学ぶべきことがたくさんあるはずです」

スポーツ産業に必要な流動性

球団経営の現場に身を置いて5年。それはスポーツ業界の特殊性や閉鎖性を痛感させられた歳月でもあった。

「たとえば、経営を担う人材の流動性がほとんどないことです。他の業界では、実績を残した経営者が業種を超えて会社を移ることは珍しくなくなっていますが、スポーツはどこか特殊な業界だと認識されている面がある。プロ野球もそうですが、異業種の実績を兼ね備えた経営人材の流動性に乏しいままでは、スポーツ産業は発展していかないと私は考えています」

「私がベイスターズで取り組んできた経営再建の手法は、過去に製菓や金融などの分野でも実績を残せたとおり、決してプロ野球ビジネスに特化したものではなく、B to Cのビジネス全般に生かせるものだと考えています」

「スポーツと異業種の間で経営者の行き来が生まれ、スポーツビジネスが将来へ向けて一歩成長するきっかけとして、社外取締役選任のお話はポジティブに受け止めるべきだと判断しました」

社外取締役の意義は何か

池田は一個人、一経営者として、40歳という若さで上場企業の社外取締役を務めるという「経験」そのものに価値を感じていることを否定しない。

「経営者はどれだけ経験を積めるかが勝負」。その哲学に従った判断でもあった。

「根幹にあるのは、私自身がブランドやその再生に強い関心をもっているということです。お家騒動が世間に広く知れ渡ったことで、大戸屋のブランドは少なからず傷ついてしまうことになる。お家騒動などの組織内の混乱は、お客さんにはまったく関係がない。月に1度の出社という社外取締役の立場から何ができるかを見極める必要はありますが、自分の経験をもとに多少なりともお力になれるのではないかと考えています」

「正直なところ、社外取締役に何ができて、何ができないのか、現段階ではまだわかりません。日本では名のある経営経験者にいわば“紋所”として加わってもらったりしているイメージがありますが、これを機に、社外取締役の本当の意味を自分なりに理解したい。企業統治、ガバナンスという点から必要とされていることは頭では理解していますが、自身で経験することによって、経営者として社外取締役の意義を理解していきたいと思います」

ベイスターズと大戸屋という異色のタッグは、今後、どんな展開を見せるのだろうか──。(文中敬称略)

(写真:©YDB)