「グローバル人材」という言葉がよく使われているが、「グローバル人材」という「人種」がいるわけではない。あくまで「あなたという人材のグローバル化」でしかない。「人材」が本題であり「グローバル」は応用範囲。--こう語るのは、株式会社アゴス・ジャパンの代表取締役であり、日本では高校生、大学生、ビジネスパーソン、アスリートに至るまでのグローバル人材育成・サポートの第一人者として知られる横山匡氏。同氏は特にグローバル人材の育成に長けており、経営する株式会社アゴス・ジャパンは、毎年約2000人の大学・大学院留学希望者を指導し、欧米トップレベルのMBAにおいては日本からの合格者の7割以上を輩出している。そんな横山氏に、今の時代に求められる「グローバル人材」の定義と、それを目指すビジネスパーソンに求められるアクションプランについて伺った。

日本人が目指すべき「グローバル人材」の本質的な定義

「グローバル人材」という人種やカテゴリーがあるわけではない。あえて「グローバル?」と問わなければいけないこと自体が「まだそこに至っていない」ということを物語っているのかもしれません。なぜなら、世界を舞台に活動することが前提になっている人は、あえて「グローバル人材」とは呼ばないからです。
オリンピックで活躍するアスリートのことを、「グローバルアスリート」と呼ぶ人はいません。同じように、世界各地でツアーをするミュージシャンのことを、「グローバルミュージシャン」と呼ぶ人もいませんね。
世界を舞台に活動することが前提になっている世界では、「グローバル人材」という言葉は使われていないと思います。それをあえて語らなければいけないのは、世界で生きる、世界で活動することがまだ「普通に」できていない分野なのではないかと思います。
たとえばそれはビジネスの世界であったり、教育の世界であったり、官公庁や政治の世界であったり、いわゆる今の社会における大半の分野のことになるのですが。
では、本物のグローバル人材とはどのような人たちでしょうか? もしかしたら、世界で、海外でものすごいパフォーマンスを発揮するスター選手のようなひとを想像する人もいるでしょう。
たしかにそのような人もいますが、かならずしもそうではありません。アウェイの環境でも自分らしく機能できる、もっというとアウェイがなくなっていくことなのです。そして最近は、「日本人で内向きな若い人が増えている」と言われますが、この「内向き」という言葉にこそ、実はヒントがあります。
そもそも内向きになれる国というのは、いい国ですよね。それだけ居心地がよくて、「そこにいよう。そこにいたい」と思える国ということですから。つまり、「内」とは、自分にとって「外へ出る」というよりは「内側を広げる」というとらえ方ですね。
でも一番の内側は「自分」ですよね。「内向き」=「内好き」であればドーナッツの真ん中の穴、「自分への興味」もちゃんと埋めてほしいと思います。そこが「内向き」のど真ん中ですから。内向きの究極化がグローバル人材への第一歩だと感じます。
本物のグローバル人材とは、そんな自分にとって居心地のいい場所を、日本だけでなく海外にも作っていける人のことなのです。「グローバル」と聞いて思い浮かべる世界地図に、自分で勝手に国境線を引いたりせず。「外へ出る」というよりは「内側を広げる」というとらえ方ですね。
何も世界200カ国を飛びまわって、がむしゃらにはたらけるスキルを身につけろと言っているわけではありません。「どこでも、だれとでも、そこそこ、自分らしく振舞える人材」、これが私が定義するグローバル人材です。
株式会社アゴス・ジャパン 代表取締役 横山匡
1958年、東京都生まれ。オートバイデザイナーだった父の仕事の関係で、14歳からの2年間をイタリアで、16歳からの10年間をアメリカのロサンゼルスで過ごす。現地の高校を卒業後、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に進学。大学時代には日本人として初のUCLAバスケットボールチームのヘッドマネジャーに就任。卒業後は日本に帰国して留学指導・語学教育に携わり、のちに株式会社アゴス・ジャパンを設立。世界の名門大学・大学院をはじめ、海外への留学指導を通じて、世界を舞台に活躍したい人材のキャリアサポートを行う。UCLA時代の経験「なぜ日本人がUCLAバスケ部のヘッドマネジャーになれたのか」が、昨年7月NewsPicksに掲載された。

すべてのトップMBA合格者たちがまず始めにすること

しかし、企業で「グローバル人材を目指せ」と言われても、もしくは自分で「グローバル人材になりたい」と考えたとしても、具体的に何を、どのように目指せばよいか、イメージが沸かないという人は多いのではないでしょうか。
それはきっと、グローバル「人材」のほうが曖昧になっているからです。人材とはリーダーなのか、マネジャーなのか、手に職つけたスペシャリストなのか。つまり、海外を舞台に、自分はどんな人(材)になりたいのかを考えてみることがはじめの一歩になるのです。
ですから、グローバル人材を目指すための出発点は、「Self Awareness(自己理解)」を高めること。自分に今できることを知り、これからやりたいことを思い描き、それを自信と謙虚さをもって語れるようになることです。
英語を話せるようになることではありません。それは「伝える能力」としていずれ必要になりますが、それ以上に「伝える意欲」と「伝えたいメッセージ」を持つことが大切です。
MBA留学受験をサポートする弊社のプログラムでも、もちろん試験対策はしますが、それ以上に受講生たちが自分のことを知れるよう導くことに多くの時間を費やしています。そのため、彼らと「雑談」することも多いんですよ。
そのときに話すのは、「今一番ワクワクできる自分の将来像を教えてください」ということと、「なぜその将来像が明日実現できないのか」ということ。足りないものはなんなのか? 漠然と「海外でMBAを取りたい」と考えている人は、この質問にあまり上手く答えられません。
「自分に今できることも、これからやりたいことも思い浮かばない」という人もいるかもしれませんが、そのようなことはありません。それはその人の「生き様」に表れるものだから。ちなみに「キャリア」という言葉の語源は、馬車道・車道という意味があり、その人がたどる道のことなんですよ。
過去を振り返れば、自分がどういう価値観を持ち、何にこだわり、何にワクワクするのか、かならず見えてきます。たとえ途中ではたらく業界を変えたとしても、ビルドアップされたキャリアの過程で積み上げた「何か」がある。
スティーブ・ジョブズが言った「点をつなげる」という言葉。点は二つあって初めて線になるんですね。今自分が意識していない一つ目の点がいつか二つ目の点に出会ったときに線になる。
自己理解は「今すでに持っているかもしれない一つ目の点に意識を向け把握しておくこと」だと思います。日々のやり取りの中でも、受講者たちが「点」を見つけられる機会を提供できるようにはたらきかけています。
自分の将来像を思い描く際、他人と比べる必要はありません。減点主義の日本では、「自分よりもあの人のような生き方のほうが正しいのでは」と不安になりがちですが、「ザ・アンサー」ではなく「ユア・アンサー」で生きられればよいのです。
ただ、「ユア・アンサー」は「ユア・クエスチョン」から導き出せるので、自分が何にこだわり、何を起こしたり生み出したりしたくて、どんな日々を過ごしたいか」というような質問を持つことから始まります。
関連して、「能力を高めたい」という言葉をよく聞きますが「能力」という言葉も絶対値じゃないですよね。「私が持っている特性」をどこでどう活かせるかに気付けることこそが最も重要なのです。
これは交流のあるアスリートたちからも聞く共通項でもあります。「特性」の応用先が最適でなければ「成果」は出にくいですし、成果が出なければその「特性」は「能力」と分類してもらえないことがほとんどです。
MBAの受験でも、模範解答のような美しいエッセイを書ける人ではなく、自己理解のレベルが高く、それを過去の自分の実体験エピソードに乗せて魅力的に語れる人のほうが共感を得やすいですから合格の可能性も高まります。
「私の将来を買ってください」という出願のテーマに対して面接官がその人の将来像に魅力を感じるだけでなく「できそうだね」と納得することが必要です。魅力ある将来を描くだけならフィクションライターが勝っちゃいますもんね。

グローバル仕様に自分をギアチェンジさせるには?

そうして自己理解を深めた上で、「自分のやりたいことを成し遂げるには、やはり海外に飛び出すことが必要だ」と腹落ちしたならば、あとは「選択肢を知って、選んで、覚悟して、行動して、エンジョイ」です。
数ある選択肢の中から、留学や海外赴任を選んだとします。海外の人と接して、ともに何かを成し遂げる以上、日本にいるときの自分から「ギアチェンジ」する必要があります。そのために磨くべき資質が、
1. 知的・人的好奇心:グローバルアジェンダや出会う人に対して関心と当事者意識をもてること
2. 正しい意思伝達と意思受信:伝えたいメッセージをもち、伝える意欲を持ち、それを伝えられること。相手の話に耳を傾け、応援する気持ちをもてること。英語力はその一部
3. 多様性への対応力:自分とは価値観の異なる相手に耐えられ、異なる考えを理解でき、さらに考えが異なる人に感謝できること
4. リーダーシップ・イノベーションマインド:他人を巻き込んで思いを動かす行動力と、違いを生む発想力
この4つです。これらの資質は、どの国、どの業界にいても求められることでしょう。 しかし、繰り返しになりますが、この4つの前に、本物のグローバル人材を目指す上でもっとも重要、かつ出発点は、高いレベルでのSelf Awareness、自己理解だと日々実感しています。
「今一番ワクワクできる自分の将来像はどのようなものですか?」、「なぜその将来像が明日すぐには実現できないのでしょうか?」。足りないものは何ですか? 
世界を舞台に一番ワクワクできる、活躍することを目指すビジネスパーソンの方々は、この問いから始めてみてください。そして「どこでも、だれとでも、自分らしく振舞える人材」へ踏み出してください。