(Bloomberg) -- 日本で初めて「ピンクスリップ(解雇通知)パーティー」を主催したヘッドハンティング会社が株式上場を計画していることが分かった。リーマン・ブラザーズなどのバンカーがかつて訪れていた六本木ヒルズにあるバーでのイベント開催から7年、会社は急成長を遂げている。

会員制求人サイトなどを運営するビズリーチ(本社:東京渋谷区)は、8月から新規株式公開(IPO)に向け主幹事証券会社の選定作業に着手、今後5年で東京証券取引所に上場したい考えだ。南壮一郎最高経営責任者(CEO)がブルームバーグの取材で明らかにした。

ビズリーチはモルガン・スタンレーのバンカーだった南氏が創業、世界的な金融危機に見舞われた2009年にビジネスを開始した。それから7年、日経平均株価は2倍になったが、日本では英バークレイズなどの外資系金融やシャープ、東芝といった事業会社でも人員削減が進められ、人材が流動化している。

ビズリーチは、このほどビジネス拡大のため約40億円の資本調達を実施、ヤフーや米セールスフォース・ドットコム、電通などの投資会社のほか、グリーなど10社が出資した。

「ハートランド」から7年

南CEO(39)は8日のインタビューで「企業としてのミッション、ビジョンを創るのに7年かかった」と振り返り、「今ようやくパブリックビークルになるためのスタートラインに立てた」と述べた。今後は調達した資金により「テクノロジーとデータで社会の生産性を上げるという使命を実現していきたい」と語った。

南氏は09年4月、六本木ヒルズのバー「ハートランド」で、解雇通知を受け取ったバンカーやヘッドハンターら約300人を集めた転職活動パーティーを開催した。当時はリーマンショックの最中で、日経平均は26年間で最安値を付けていた。当時ヒルズにはリーマンの東京本社があり、現在は米ゴールドマン・サックスやグーグルがオフィスを構えている。「ハートランド」は今はない-。

現在は当時に比べより多くの日本人がインターネットを仕事探しに活用するようになってきている。ビズリーチの転職サイトは約66万人のビジネスマンが利用しており、会員の年収は750万円から5000万円が中心で、国内外の求人企業4900社と1400人のヘッドハンターが登録している。

南氏は今年1月、各国の首脳やグローバル経営者など政財界を代表するリーダーが集結するダボス会議に出席した。14年には世界経済フォーラムにより「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出されている。

一億総活躍社会への「地図」

同社は15年、求人検索エンジン「スタンバイ」を立ち上げた。働きたい「場所」や職種に関する「キーワード」を入力すると多彩な情報を閲覧できる。求人情報が地図上に表示されるため、特に子育て中の主婦や定年退職した高齢者が自宅の近くで仕事を探すのに便利だ。現在、日本全国で400万件以上の求人情報が集約されている。

日本では少子高齢化による労働力不足が懸念される中、政府は「一億総活躍社会」を掲げ、全ての国民が活躍できる社会を目指している。アベノミクスでは成長戦略の一環として女性の社会進出も促している。

南CEOは、「一億総活躍社会において、シニアや子育て中の奥様方がどうしたら働けるかというと、家や保育園の近くなど「位置」が重要になってくる」と指摘。また、「スタンバイ」を使い、「試しに自分の家の住所を入れてみると、隣のよく行くパン屋さんなどで人材を募集していて驚くことがある」と話した。

モルガンSから楽天イーグルス

ビズリーチは東証に上場の際には1000億円以上の時価総額を想定しているという。現在同社の過半の株式は南CEOが保有、野村ホールディングスの関連会社でベンチャーキャピタルのジャフコが第2位の株主で、ヤフーの投資会社YJキャピタルが続いている。

設立当初2人だった同社には、現在は652人の従業員が働いている。1年以内にさらに150人増員し、3年以内には1000人体制にする計画だ。ビズリーチは東京、大阪、名古屋、福岡、シンガポールにオフィスを持つ。

南氏は米タフツ大学を卒業後、1999年にモルガンSに入社。東京で企業の合併・買収(M&A)の助言業務を担当した。その後、香港PCCWグループの東京支社の立ち上げ、楽天イーグルスの創業に携わった。

上場までの道のり

同社は12年7月期から4期連続の黒字で、南氏によれば16年7月期も黒字の見通しだという。営業収益や最終利益の詳細については、未上場企業のため開示していない。厚生労働省の発表によると、4月の有効求人倍率は1.34倍と1991年以降の最高水準となっている。

南CEOは、「働くという人間の行為にデータとテクノロジーを持ち込んで、人と企業の生産性を上げていきたい」と抱負を述べた。その上で「公的な会社になる以上、価値あるサービスをきっちり提供し利益を出し、成長をドライブする仕組みが整っていること」が重要だとし、「不特定多数の株主にきっちりリターンを返せるようになったら上場したい」と語った。

英語記事: ‘Pink-Slip Party’ Organizer Born During Crisis Prepares for IPO (1)

(第15段落以降にコメントを追加しました.)

記事についての記者への問い合わせ先: 東京 日向貴彦 thyuga@bloomberg.net, 記事についてのエディターへの問い合わせ先: Marcus Wright mwright115@bloomberg.net, 平野和, 持田譲二

©2016 Bloomberg L.P.