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「HRテック」時代始まる

【新】「一億総活躍社会」で、最後の“人材バブル”到来か?

2016/6/12
第1回:「同一労働同一賃金」、本丸はサラリーマンの賃金改革か

24年ぶりに全国で求人倍率1倍超え

人材ビジネス市場が活況だ。

業界王者リクルートの2016年3月期の人材メディア領域の売上高は、前年同期比18.7ポイント増の3592億円に到達。

人材派遣事業も好調で、前年同期比より31.8ポイント高い8900億円を記録した。

業界全体としては、特に人材紹介業の伸びが著しい(下図参照)。

「人材ビジネス市場に関する調査結果2015」(矢野経済研究所)によると、2014年度の人材紹介業の市場規模は前年比18.6%増の1850億円となり、2015年度は2040億円を予測している。
 人材バブル特集図表.001 (1)

その背景には、好景気による人材需要の高まりがある。

厚生労働省が発表した4月の有効求人倍率は1.34倍で、全都道府県で1倍を超えたのは実に24年5カ月ぶりとなった。

これは、雇用が増えていることの証明であると同時に、15歳から64歳までのいわゆる生産年齢人口が1996年から減少に転じ、今年4月は7600万人になったこと。つまり、人手不足による影響も見られる。

皮肉にも、人口減少が有効求人倍率や失業率の改善に貢献しているわけだ。

加えて、アベノミクスが掲げる「一億総活躍社会」も人材ビジネスにとって追い風だ。

改革の目玉、「同一労働同一賃金」が実現に向かえば、転職がしやすくなり、人材の流動化は進むと推察される。

「非正規から正規へ」の流れが加速すれば、人材紹介市場や求人広告市場が潤う。

リクルートは国内市場を捨てた?

だが、人材ビジネス業界に詳しい立花証券のアナリスト入沢健氏は、「リクルートの国内人材ビジネスの成長率がディップやマイナビなど競合に比べて低いのが気になる」と指摘する。

「あえて、国内人材ビジネスから距離を置いているようにみえる」(入沢氏)。

別の業界関係者も、「人材ビジネスが、合理性の高い仕組みに移行して以来、儲からなくなっている」と語る。

「昔は効果が出ても出なくても馬鹿のようにもうかった求人広告だが、オウンドメディアによる採用強化、ソーシャルリクルーティング、indeedなど求人検索プラットフォームの台頭などにより、尻すぼみが予測される」(同)。

台頭するHRテック

実際、リンクトインやウォンテッドリーなどのソーシャルリクルーティングサービス、indeedやビズリーチが提供するスタンバイなど、アグリゲーション型の求人検索プラットフォーム、さらには採用管理ダッシュボードを提供する採用支援システム(ATS)など「HR(ヒューマンリソース)テクノロジー」サービスが、ここ1〜2年の間に数多く誕生している。

リクルート出身で現在は KAIZEN platform IncのCEOの須藤憲司氏は、こうしたHRテック企業の勃興を受け、「求人広告や人材紹介などの一部はテクノロジーに置き換えられる可能性が高い」と言う。

だが、広告の利益率の高さに比べると求人検索プラットフォームやATSのそれは、高いとは言えない。

だからこそ、須藤氏は「今後の人材ビジネスは、福利厚生領域、タレント(人材)マネジメントシステムから、かつてシステム会社が担っていたような業務委託の領域など会社の人件費とそれに付帯する金を狙い、異業種の領域にまで踏み込んでいく可能性が高い」と言う。

果たして、HRテックの進展は、人材ビジネスを活況に導くのか。あるいは、合理性の高い仕組みをつくったがゆえに、かえって儲からないジレンマを抱えることになるのか──。

本特集では、まずは前半の4回で、同一労働同一賃金を含んだ「ニッポン一億総活躍プラン」が人材市場に与える影響を考察。

次いで後半6回にわたり、リクルート、インテリジェンスなど大手、あるいはウォンテッドリー、ビズリーチ、ビザスクなど新興企業が手がけるHRテックへの取り組みや、業界の今後の動きについて、綿密な取材をベースに分析していく。

*特集の目次
*Part1:同一労働同一賃金の本質
【第1回】「同一労働同一賃金」、本丸はサラリーマンの賃金改革か?
【第2回】【八代尚宏】同一労働同一賃金は「雇用流動化」の切り札だ
【第3回】「同一労働同一賃金」実現のポイントは、30歳正社員のコース分け
*Part2:HRテックの台頭
【第4回】【インフォグラフィック】HRテックの台頭で変わる人材ビジネス
【第5回】【ビズリーチ南】採用管理システムに進出。「新卒サービスもやる」
【第6回】【ウォンテッドリー仲暁子】脱転職屋、ビジネスSNSを強化
【第7回】HRテックを有効活用するための「2つのキーワード」
【第8回】HRテックの進化で、増える「新しい働き方」
【第9回】アナリストが分析する、リクルートの戦略と死角
【第10回】【インテリジェンス社長】AIの次は「LINEバイト」の正社員版
【第11回】【最終回】 須藤憲司、人材ビジネスが直面する2つの衝撃

(バナー撮影:鈴木愛子、デザイン:福田滉平、図表作成:青葉亮)