独裁だから成功する。エステー会長・鈴木喬の暴れん坊人生
2016/6/11
エステー会長の鈴木喬氏は一橋大学卒業後、日本生命に入社し、保険の営業マンとして活躍した。50歳のとき、兄が社長を務めていたエステー化学(現エステー)に転じるが、生意気なせいで兄や古参役員から疎まれる。63歳で社長に就任。独裁体制で改革を断行して、過去最高益をたたき出した。御年81歳の暴れん坊人生、全20話を公開。
日本生命に就職
私は一橋大学を卒業後、家業には携わらず、日本生命に就職します。
家業とは距離を置いていましたが、上場するための準備が始まる頃、兄に「こっちに来て手伝ってくれないか」と誘われました。
東京証券取引所に行ってハッタリをかますとか、そういう役回りです。
法人相手の保険営業で培ったクソ度胸だけはありましたから、そんな辺りを期待されたのだと思います──。
上司の頭をぶん殴る
上司に中止を申し出ても却下されると思った私は、独断で統計表の作成をやめてしまいました。
毎晩10時くらいまで残業していたのが、午後3時には仕事がなくなっちゃった。
当然、上司は気にくわない。私も前から気にくわないなと思っていまして、飲みに行って説教された時、酔った勢いで頭をぶん殴っちゃいました──。
「民主主義」を否定
一夜明けたら、「鬼畜米英」が「民主主義」の伝道者です。偉そうにしていた大人や教師が手のひらを返して「民主主義」を口にしていました。
以来、私はリアリストです。きれいごとは言いませんし、信じません。
エステー化学の社長になった時も、一番初めにやったのは「民主主義」の否定でした──。
目指すは「コンパクトで筋肉質の会社」
社長就任演説で「聖域なき改革」の断行を表明します。
役員や幹部たちには疎まれていましたから、小出しにしてもいちいちもめるだけだと思ったのです。
掲げたスローガンは「コンパクトで筋肉質の会社」でした。従わない者は去れといったような感じでケンカも売りました──。
開発会議を廃止
エステー化学はもともと、防虫剤に和紙包装を取り入れたり、大ヒットした「シャルダン」で芳香剤市場を新たに創造するなど、イノベーティブな発想を持つ会社だったのです。
“高田馬場のソニー”なんて持ち上げられた時期もありました。そのDNAを取り戻すべく、開発会議を廃止して、自分が好きなようにやると宣言しました。
しかし、会社は動かない。当時私は63歳。社長としての経験も実績もないし、開発の経験もありません──。
経営改革のアクセルを踏む
「消臭ポット」以降、「消臭力」「脱臭炭」「消臭プラグ」「米唐番」とヒット商品に恵まれました。
その陰で経営改革のアクセルも踏み込みます。
組織のフラット化に取り組み、原則として課長職は廃止。管理職は部長相当のマネージャーだけにしました。
「世界一周研修」も始めます。特に成果は求めませんが、度胸と胆力を付けてもらうのが狙いです──。
暴走ブレーキ機能を自ら設置
エステー化学の純利益は過去最高を記録します。
前の年、エステー化学は委員会等設置会社に移行しました。私が暴走した時、社外取締役にブレーキを掛けてもらうためです。
もう一つの目的がありました。社外取締役に社長交代をサポートしていただきたかった。
私は本当に疲れていたのです──。
独裁体制は方向感覚を失う
独裁を続けると体も持ちませんが、組織もおかしくなります。
社内の抵抗がほとんどなくなるのです。何を言っても「賛成」「賛成」です。
批判がないと方向感覚に自信が持てなくなる。これはこれで怖いものです。
「やめろ」と言ってくれる人がいないとまずい──。
危機のリーダーたるもの
「へたすりゃ、会社が潰れるかもな」との思いが頭をよぎりました。
私は役員を集めて一席ぶちました。
「この会社は、真っ黒こげになった東京で露天商からここまでやってきたんだ。先行きなんていつも不安なんだよ。心配するな、俺についてこい」とね。
根拠なんかありませんよ。危機においては、大ボラを吹いて状況を笑い飛ばすようなバカ者でなければ、大将なんか務まりません──。
「消臭力」のCMに視聴者の反応は
テレビでは相変わらずAC(ACジャパン)の映像が流れています。その合間を縫ってエステーの企業CMを流すのです。
何を考えているんだと、ひどいバッシングを受けるかもしれない。
ドラマの映像が切り替わり、リスボンの町並みが映りました。そしてミゲル少年の歌声。「頑張ろう」とも「絆」とも一切言わない。「ショーシューリキー」だけ。
視聴者の反応は予想を超えたものでした──。
ミュージカルを続けるワケ
社長に就任した年から、ミュージカル「赤毛のアン」を主催してきました。
なぜミュージカルをやるのか。
財務部長からは道楽が過ぎると言われました。
「これをやっていなければ、今までに100億近い利益が積み上がってるんですよ」
社員からも「そんなカネがあるなら月給に回してくれ」とか、「ボーナスに回してくれ」と言われました──。
今ほど良い時代はない
『ALWAYS 三丁目の夕日』という映画がヒットしましたが、昭和が良かったというのはウソです。
あんなひどい時代にはかえりたくない。
今、さまざまな危機をあおり、格差社会を嘆き、昔を懐かしむ風潮が一部にありますが、昭和を生きてきた私からすると、今ほど良い時代はないと思っています──。
(予告編構成:上田真緒、本編聞き手・構成:南部健司、撮影:遠藤素子)
リーダーはバカ者であれ
鈴木喬(エステー 会長)
- 独裁だから成功する。エステー会長・鈴木喬の暴れん坊人生
- エステーの始まりは、戦後焼け跡バラックの露天商
- 日本生命からエステーへ転籍。キャリアなんか鼻紙みたいなもの
- 創業家の異分子、「カラスは黒」と主張して疎まれる
- 63歳「俺に社長をやらせろ」。危機感のない社内を改革
- 疎開先でのいじめ。父と二人三脚、表参道で再起を図る
- 衣装が虫に食われ悲しむ母。兄の発案で防虫剤をつくる
- 一橋大学時代に商売人への情熱が薄れ、一番楽な日本生命に入社
- 1年でクビ。座っているのが退屈で苦痛だった新人時代
- 上司には嫌われるが、一番偉い人にはかわいがられる
- 法人営業の誓い。従業員1万人以下の企業は相手にしない
- 「楽そう」「モテそう」で就職先を選ぶのは、大間違い
- 民主主義では会社は動かない。独断専行で改革を進める
- 実績・経験・勝算なし。「消臭ポット」ヒットの理由
- 私の暴走を止めて。独裁体制は批判がなくなり危ない
- チームワークと合議制では環境の急変に対応できない
- 震災自粛、ミゲル少年が歌う「消臭力」のCMに賭ける
- 矢も楯もたまらず放射線線量計を発売。大赤字を出す
- 覚悟・根性・運を持つ人はどこに? 後継者選びは難しい
- 反対されてもミュージカル「赤毛のアン」を続ける意義
- 君たちは優秀だ。自信と野心を持って生きよう