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どうしてデザインが重要なのか

【ウジトモコ】NPに女性ユーザーが少ない理由をデザインから分析

2016/6/8
昨年からプロピッカーとしてコメントさせて頂いているウジトモコです。今回、6月に刊行した『生まれ変わるデザイン、持続と継続のためのブランド戦略』(ビー・エヌ・エヌ新社)をもとに、「ビジネスとデザインの密接な関わり」、「デザイン戦略とは何なのか」「誰でも使えるようなブランドデザインのフレームワーク」などのエッセンスを散りばめた連載を、全3回でお届けしたいと思います。

機能的デザインと感情的デザイン

さて、前回の記事では「デザインは誰のためにあるのか」という問いに対して、「ユーザー中心のデザイン」の考え方を紹介しました。

また、「デザインは問題解決の手段でもある」と言う考え方が、現在の主流になりつつあるというお話もしました。

今回は具体例として、「NewsPicks」に女性ユーザーを増やすための「問題解決のデザイン」について、

1)機能的なデザイン面

2)感情的なデザイン面

を組み合わせた視点(筆者の専門領域)から、解説したいと思います。

(デザインリサーチから戦略立案、ユーザーレビューといった実装に至るまでのステップは、本連載ではカットします。ご興味のある方は、ぜひ文末に紹介する「生まれ変わるデザイン、持続と継続のためのブランド戦略」に詳しく書きましたので読んでみてください。)

「ぱっと見」の印象と「使ってみて」の印象

よく、「第1印象に2度目はない」などと言います。前回の記事では「ビジネスの戦略が人間の五感と近づいている」とも書きましたが、この五感の中の「視覚」は、人間の脳と特に深く結びついています。

近年はこの分野の研究が進んできて、人間が何か大事なことを決めようとする「意思決定」や、好ましく思ったり、疎ましく感じたりする原因となる「印象」にも大きく影響していることが分かってきています。

「意識は、そこに存在する情報より、捨てられた情報によって成り立つ度合いの方が遙かに大きい。」

ユーザーイリュージョン-意識という幻想』という書籍の中で、デンマークの科学者であるトール・ノーレットランダージュ教授はこのように述べていますが、情報量がますます増える今日にあって、多くのユーザーに人気を誇るアプリケーションのデザインの多くは、よりフラットに、そしてシンプルにそのデザインを進化させています。

みなさんも「シンプルなデザインは良いデザインだ」とか「引き算のデザインが問題解決への道だ」なんていう記事を読まれたことはありませんか。

いくつかその例を紹介しましょう。

アプリはありませんが、アメリカで躍進を続けるニュースサイト「Quartz」などは、その良い例です。

背景色は白、アイコンやグラフィック、カラーもほとどんどなく、とてもシンプルです。けれども、コンテンツは決して地味に見えず、男女どちらからみても「クール」で「知的」に見えるデザインとなっています。
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見せるべきものを見せる配慮(前回の京都市が看板を減らしている試みに似ていますね)がユーザーからストレスを減らし、コンテキストが素早く伝わり、さらに、メディア・ビジネス・プラットフォームとしての斬新さや新しい可能性などについて、ユーザーが直感的に感じやすい仕様となっています。

ちなみに「選択肢が三つあると人は真ん中を選びたがる」とか、ボタンがたくさんありすぎると「(選択ができずに)選択をやめてしまう」などという行動経済学の話を聞いたことはありませんか。

いずれも「見せるための見せない工夫」という意味では、上記で紹介したものと同じ考え方になります。

NewsPicksのデザインの課題

ではここで、NewsPicksと同じような紺色を使っているにも関わらず、デザインの印象がだいぶ異なる(すっきりしていてスマートな印象です)「McKinsey Insights」のアプリと比較することで、新しいユーザー獲得へのデザインの課題がどこにあるのかさらに考えて見てみることにしましょう。
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McKinsey Insightsの特徴としては、以下の点などが挙げられます。

1) サイトもアプリも「ホワイトスペース」が上手にとってあってすっきりしていること。

2) あらかじめ、ユーザー自らに記事ジャンルを選択させるなどして、表示がシンプルであること。

3) 画面上に存在するリンクボタンがそもそもとても少ないので操作が直感的に理解できること。

4) 女性の姿(写真)やビジュアルが美しい記事サムネイルがバランス良く選ばれており、モーション(動き)が軽くしなやかでとてもエレガントであること。
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みなさんいかがでしょうか。こうしたデザインの特徴をNewsPicksと比較すると、目に見える「解決できる課題」がいくつも残されていることがわかると思います。

女性向けだからといって、ピンク色にすれば人が集まるというわけではありません。「こうありたい」という姿を示しているところに人は集まるのです。

軽視されがちな「ブランドデザイン」

さらに、「ブランドになるデザイン」についても考えてみたいと思います。使いやすく、「空気のような存在」「居心地の良い関係」を築くことでブランドになる場合もありますが、使いにくくてもブランドになることもあります。それは、使いにくさが進化して、独自性のあるものにまで一般化できた場合です。

世界中に存在する、ひとくせある道具たち、車、貴金属、宝飾、電化工業品、アプリケーションがそうです。ただ、中途半端だと「ひとくせあるけど、気になる。目が離せない。手放せない」ということになりません。

それでは、NewsPicksのデザインは、どうでしょうか。私の視点からは「中途半端に面倒くさくて(使いにくくて)、とはいえ、とりわけ個性的でもない」そんなデザインに見えます。モテ系というよりは、チャンスを逃しがちなデザイン。女性にモテなさそうなデザインに感じます。

記事やピッカーさんのコメントはこんなに素敵なのに。デザインの影響で女性に使ってもらえないのはなんだか、もったいなくありませんか?

(みなさんはどう感じているのでしょうか。コメントをお待ちしています)

デザイナーは、ディレクション次第で力量が変わる

ここで、いったんデザイナーの立場に立って「なぜ、NewsPicksはこのデザインなのか」を考えてみましょう。デザイナーは基本的にアーティストとは違う人種です。頼まれたことに対して、成果を上げたい、世のため人のために尽くしたい、必要とされて感謝されたいという人がほとんどです。

つまり、NewsPicksがこのデザインとなっているのは、「あることをオーダーしたからこうなっている」か「あることをオーダーしていなからこうなっている」かのどちらかです。

そして、これは推測ではありますが、現状のNewsPicksのデザインは「せねばならない」ことに追われ、ユーザーに対する「デザイン」については、十分な対策、つまり「デザイン戦略について」が施されていない、あまり考えられていない状態なのではないでしょうか。それは「デザイナーの仕事だから…」と。

デザイン戦略を学べば、未来は明るい

デザイン戦略というと堅苦しく、難しく思われるかもしれません。けれども、実情として、「自社のアイデンティティ」や「よその会社にはあり得ない素晴らしい気風」などをきちんと「デザインという言語」に翻訳し、ガイドライン化して共有しているところは少ないと感じます。

なぜNewsPicksは女性ユーザーが少ないかと言えば「どうすれば女性に親しんでもらえるか」という視点でデザインの戦略を立てていないし、ちゃんと考えていないのではないでしょうか。

ですから、今後は「女性にも親しみやすく、男性のユーザーも逃さない」デザイン戦略を立ててみるのは、いかがでしょうか。

※次回は実際にデザインの戦略を立てるプロセスを紹介します。
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(バナー写真:iStock.com/scyther5)