DeNA・筒香、西武・森を輩出。世界に羽ばたく中学生育成法

2016/6/2
横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智、埼玉西武ライオンズの森友哉を輩出した中学硬式野球チームの堺ビッグボーイズは、少年競技人口の減少が顕著に進む現在、大阪で最多クラスの部員数を誇っている。
その数108人(加えて小学生19人も所属)。遠方から通う選手も珍しくなく、岡山県倉敷市や和歌山県新宮市から車で4時間かけて来る子もいたという。
練習場を訪れると、日本では特異なメニューに目を奪われた。コーチが転がしたボールに対し、選手たちはグローブを正面ではなくあえて逆シングルでキャッチする。ボールをつかむと、横手からジャンピングスローで華麗にさばいていく。
 
「中学ではなかなかやらないような練習だと思います」(久富恵介コーチ)
逆シングルでの捕球は日本では基本の逸脱と考えられ、どんなゴロでも正面に入ってシングルキャッチするように徹底させられる。アマチュアからプロまでその教えはおおむね変わらない。
一方、メジャーリーグのショートは三遊間のゴロに対し、逆シングルで捕球することが大半だ。そのほうがグローブの操作性が高いことに加え、その後の送球体勢に流れのまま入りやすい。
あえて言い切れば、日本は「捕るために捕る」一方、メジャーは「投げるために捕る」。同じ野球でも、日本と世界の常識は大きく異なるのだ。
「将来は世界に通用する選手になりたい」という河村
小学1年から野球を始め、中学入学と同時に堺ビッグボーイズに来た河村龍星は、こうした練習のおかげでグラブさばきが上達したと胸を張る。
「小学生の頃は、逆シングルで捕るような練習はなかったです。でも、やってみると、逆シングルで捕りやすい場合も多い。自分の体の右側に来たボールは、逆シングルのほうが捕りやすいです」
ロボットのような表情
堺ビッグボーイズがあらゆる意味で“非日本的”な練習に舵を切ったのは、7年前にさかのぼる。ちょうど森友哉が中学2年生の頃だった。
それまでは一般的なボーイズチームのように、週末になると朝から晩まで練習漬けだった。
だが、1980年代前半に立ち上がったチームの1期生で、監督を経て代表に就任した瀬野竜之介は、ある頃から疑問を抱いていた。
堺ビッグボーイズは過去に全国2連覇、世界大会に日本代表を15名ほど輩出してきたにもかかわらず、プロに進んだ者は2名しかいない。中学年代で輝かしい成績を残す一方、高校以降で伸び悩む選手や、長く野球を続けない場合が多かった。
「こっちは一生懸命教えているのに、なんで子どもたちは野球を続けないのだろう?」
近隣の強豪ボーイズを見渡すと、同じように中学のときに優秀だった子が、その後長く野球を続けていないことに気づいた。
「やっぱり、指導者のやり方が違うんちゃう?」
そう思って堺ビッグボーイズの選手を改めて見ると、目が輝いていない。練習から勝利を義務付けられ、まるでロボットのような表情だ。
瀬野は一念発起し、チームの在り方を根底から変えることを決意する。
瀬野は堺ビッグボーイズの監督を9年務めた後、代表に就任
中学の指導は「慌てる必要ない」
日本では甲子園への憧れが大きく、中学でも「高校へのステップになるように」と考える指導者が多い。
一方、堺ビッグボーイズは視線をもっと先に向けた。
「教育の意味を考えると、大人になったときにその子がどういう人間になっているかが大事。16〜18歳で、どういう選手になっているかではありません。だから長いスパンで見たら、中学3年間の指導を慌ててやる必要はない」
「この3年間で結果を出さなければとなると、長い練習時間になったり、勝つための練習になったりすると思います。でも人生という長いスパンでこの3年間に何をするべきかと考えたら、いい意味でじっくり練習できる。その分、目の前の試合では勝てませんけど、ここがゴールではありませんから」
瀬野は改革の一歩として、練習時間を大幅に縮小した。それまでは夜7時くらいまで行っていたが、午後2時には終了。しかも昼からは自主練習の時間に充てている。
やらされる練習→やる練習へ
その際、指導者に伝えたのは「とにかく怒らず、じっくり観察しよう」
子どもはいきなり自主練習と言われても、何をしていいかわからないのは当然だろう。小学校の自主時間を思い返せばわかるはずだ。
堺ビッグボーイズでもすぐに帰宅する者がいれば、グラウンドの真ん中で遊び出す子もいた。そこで普通の大人なら、「日本の子どもに自分で考えるなんて無理だ」となりがちだが、それでも指導者には「指導者は忍耐力。変化を待とう」と徹底した。
1、2カ月経つと、自分の課題に取り組む選手が出てきた。
日数を経るにつれ、その数は徐々に増えていく。グラウンドの真ん中で遊んでいた子たちはバツが悪くなったのか、自主練習を始めるようになった。
3、4カ月後には、ほとんどの子が自分たちで体を動かしていた。
中学生たちが自分で考えて練習するようになると、通常練習への姿勢にも変化が生まれた。朝に張り出した1日の練習メニュー表を見て、コーチに指示される前に自ら動くようになった。「やらされる練習」から「自らやる練習」に変わったのだ。
つまり子どもたちのメンタルが変わったと、瀬野が振り返る。
「大人が失敗に対して怒らないので、子どもたちから思い切ったプレーが出るようになりました。もちろんミスはしますけど、『怒られない』という回路ができて、いい意味でプレッシャーなくプレーできるようになりました」
選手たちは一様に明るい表情で練習に取り組む
自分で考える練習を増やすべき
練習時間が短くなった分、同時に効率化も図っている。
日本の練習で当たり前のように行われるティーバッティング、トスバッティング、シートノックを堺ビッグボーイズでは取り入れていない。時間を要する一方、リターンが少ないからだ。
たとえば、通常のティーバッティングでは横から投げられたボールを打つため、スイングでバットの軌道に変なクセがつきやすいという指摘もある(詳しく知りたい人は『落合博満バッティングの理屈』参照)。
だから堺ビッグボーイズではこれを行わず、置きティー(台の上にボールを置くティーバッティング)や正面ティーをしている。
正面ティーを行うことで、スイングで変なクセをつかないようにする
さらに言えば、日本ではシートノックに多くの時間を割く反面、世界で通じる野手がなか出てこない。シートノックの代わりにもっと、自分で考えるような練習に時間を割くべきだと瀬野は考えている。
一方、少年野球の多くの場合では背の小さい少年が思い切り振ると怒られ、バットを短く持ってコンパクトに振るよう指導される。バントばかりさせられるケースも珍しくなく、そうして野球を嫌いになる子が少なくない。
だから、堺ビッグボーイズではとにかく思い切り振るように伝えている。それが長い目で見てバッティングをかたちづくるとともに、子どもたちは野球の楽しさを感じとることができるからだ。
中学3年生の谷樹彦が、目を輝かせながら語る。
「小学校では『肩を開くな』とか、いろいろ言われたんですけど、ここではほとんど言われないので、萎縮せずに自分で考えてフォームをつくれます。三振しても怒られないので、思い切ってバットを振れるようになりました」
「指導者に『あれせえ』とあまり言われず、自分で考えて野球をできるのが一番いい」と語る谷
野球の合理化で選手に恩恵
もちろん、ただ思い切り振らせるわけではない。「体の中で打つスイング」をメニューや道具の工夫で習得させる。
「体の中で打つスイング」とは、簡単に言えば身体に打つポイントを近づけることだ。そうすることでボールに力を伝えやすくなり、カットボールやツーシームという手元で動くボールにも対応でき、ヒットにする確率を高めるための逆方向への打撃も身につけやすい。
こうした練習で、前述の中学3年生、河村龍星は打率が上がったという。
「置きティーなどで反対方向に打つように教えてもらったことで、反対方向にもヒットを打てるようになりました。コツは良くわからないけど、慣れてきたんだと思います」
連載2回目で登場した阪長友仁も堺ビッグボーイズでコーチを務めている
堺ビッグボーイズが追い求めるのは、野球の合理化だ。
旧来の日本式で「練習を長くやればうまくなる」という考え方では、選手や保護者の負担が増え、何より子どもが野球を嫌いになる可能性がある。さらに言えば、野球ばかりロボットのようにやっていては、自ら考えられる力が養われない。
合理的に野球を練習することで、何より恩恵を受けるのは選手だ。少年野球には教育の一面もあると堺ビッグボーイズでは考え、彼らの将来を見据えて育成しようとしている。
そうして行われたのが、トーナメント戦の廃止とリーグ戦の導入だ。
堺ビッグボーイズの試みは将来、日本野球界を変えることにつながっていくかもしれない。(文中敬称略)
(写真:中島大輔)
*次回は6月9日(木)に掲載予定です。