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市場失速の兆し

スマートフォン市場の重力に逆らうような勢いは失速したようだ。

現在4230億ドル規模のスマートフォン業界は、約10年間にわたって売り上げが加速してきた。だが、消費者がこれまで機械的に行ってきた端末アップグレードには、もはや頼ることができない。ほかのハードウェア部門が長年うらやんできた高利益と着実な売上成長は危機にさらされている。

市場失速の兆しは何カ月も前からくすぶっていたが、アップルが第1四半期の売上高が13年ぶりに減少したことを発表して明確になった。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は4月26日(米国時間)、iPhoneの画期的な発売から9年が経った現在、市場の「成長がストップしている」ことを認めた。

調査会社ストラテジー・アナリティクスはその翌日、第1四半期のスマートフォン出荷台数が3%減少し、史上初のマイナスになったと報告した。

「パーティーのような市場が今後どれだけ続くことができるのか、疑問に思わざるを得ない」と、市場動向を追跡しているペンシルベニア大学ウォートン・スクールのデビッド・スー経営学教授は語った。

消費者がスマートフォンをアップグレードする頻度が低下し、新規購入者を見つけるのがさらに困難になるなかで、スマートフォンメーカーはPCメーカーと同じように何年にもわたる売上低迷に耐える運命にあるように思える。

業界はまだ、スマートフォンに代わる次の大きなアイデアを見いだしていない。ちょうど、PC離れが進んでいた時に登場したiPhoneシリーズのようなものを求めているところだ。

部品メーカーへの圧力

業界ではロボットや自動車、仮想現実(VR)ヘッドセット、「モノのインターネット」(IoT)として知られる接続された種々雑多なガジェットとソフトウェアなど、あらゆるものの開発に懸命に取り組んでいる。

だが、こうした技術の多くが主流になるまでには何年もかかるかもしれない。

その前に業界が何年間か不況に陥る可能性がある。モバイル向けチップやセンサなどの部品メーカーはすでに、かなりのダメージを受けている。

ソニーは4月、カメラモジュールの需要低迷を受けて四半期損失を計上した(NewsPicks注:原文では「画像センサの需要低迷」となっていたものを同社発表資料により修正)。日本のディスプレイメーカーであるシャープや韓国のメモリチップメーカーであるSKハイニックス、欧州のパワーマネージメント部品メーカーであるダイアログ・セミコンダクターはいずれも需要の低迷について警告した。

部品メーカーとチップメーカーの株価も4月末に急落した。5月に入っても修羅場は続き、東京株式市場で村田製作所の株価が13%急落した。同社はアップルなどのスマートフォンメーカーに様々な備品を供給しているが、通年の利益予測を13%引き下げたのだ。

「アップルによるスーパーサイクルの終わりがのしかかっている」とアビエイト・グローバルのアナリスト、ニール・キャンプリングは語る。同社は、スマートフォンメーカーが利ざやを増やそうとして部品メーカーに圧力をかけ始めると予想している。「そうしたことはサムスンのサプライチェーンでも起きつつある」

隣接事業に進出

業界では、スマートフォンの売上高は復活する可能性があると言われている。大半のスマートフォンユーザーは高速データ接続の恩恵をもたらさない古い技術を利用していると幹部たちは指摘する。

チップメーカーのクアルコムによれば、第4世代の通信規格である4G LTEを利用できるスマートフォンは16%にとどまる。同社はさらに、非常に多くの人がスマートフォンを一日中使用しているため、端末がすぐに消耗して定期的な買い換えが必要になると主張している。

だがそれでも、クアルコムは多様化を急ぐのをやめていない。直近の四半期に19%減少するなど売上高が落ち込むなかで、同社はドローンやスマートカー、スマートホームの分野に進出しようとしている。

とはいえ、こうした「隣接した事業」は今年25億ドル以上の売上高をもたらすとみられるものの、予想される総売上高の11%を占めるにとどまる見通しだ。同社はこの1年間に市場価値の4分の1を失った(ITセクター全体の市場価値は2%減だったのだが)。

いっぽうアップルは、iPhoneの売上低迷を「iCloud」や「Apple Music」、「App Store」のようなサービスで埋め合わせようと努めている。利益率はこうした事業のほうが高く、第2四半期にはこれらの売上高が20%増加した。

それでも、こうしたサービスが総売上に占める割合は12%にとどまる。

アップルの動向

多くのテック企業と同様に、アップルは自動車業界に探りを入れている。自動車業界では自動運転機能や高度なエンタテインメント・情報システムが、現在スマートフォンによく搭載されている部品やソフトウェアを販売する新たな機会を作り出している。

とはいえ、アップル製の車が実現するのはおそらく何年も先の話だ。そもそも製品化されるのか疑問視するアナリストもいる。同社の株価はこの1年間に26%下落している。

サムスンも「Galaxy S7」の販売の好調さを発表したとはいえ、スマートフォン以外のものに目を向けている。投資家が同社の次のヒット製品に関して懸念を表明するなかで、同社はVR機器を宣伝し、IoT分野に懸命に進出しようとしている。

長年にわたって、ブラックベリーやモトローラなどの企業向けにスマートフォンを組み立ててきたフレクストロニクス・インターナショナルは2015年10月、ナイキと提携した。

自動車部品や医療機器、フィットビットのウェアラブル機器といった製造事業を拡大するため、同社は衣服や靴の製造を開始したのだ。そのなかには技術を組み込めるものもある。

しかし、最大限に多様化したからといって、スマートフォン市場の悪影響から会社を守れるとは限らない。

テキサス・インスツルメンツは自動車や電話回線ネットワーク、産業機器メーカーからの部品需要が高まったにもかかわらず、第1四半期に売上高が4.5%減少した。ブルームバーグのサプライチェーン分析によると、同社の最大の顧客がアップルであることがプラスに働いていないという。

次なる大きな波

ストラテジー・アナリティクスのアナリストであるニール・モーストンは、1つの製品だけがスマートフォンに取って代わるのを想像するのは難しいと述べる。

そのため、企業はIoTやドローン、商用ロボット、ウェアラブル機器、スマートホームやスマートカー、そしてスマートなオフィスなどに幅広く手を出さなければならないというのだ。

「こうしたものを寄せ集めると、1つの大きな新しい部門というよりスマートフォンを超える次の大きな波になる」

この寄せ集めはパーティーを続けるのに十分なほど大規模だろうか。モーストンは懐疑的だ。ストラテジー・アナリティクスは、2020年までに接続された「モノ」の台数はスマートフォンの40億台に対して50億台になると推測している。

だが、IoT機器のほとんどは価格が1~2ドルで、5~10年は買い換えの必要がないとみられる。価格が数百ドルで2、3年ごとに買い換えられるスマートフォンの代わりにはとうていならないのだ。

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Adam Satariano、Ian King、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:Martin Ivanov/iStock)

©2016 Bloomberg News

This article was produced in conjuction with IBM.