「横横ベイスターズ」が実現。球団と行政のWin-Win関係

2016/5/28
2016年4月27日、横浜DeNAベイスターズと横須賀市は、ベイスターズのファーム施設の移転・強化に関する基本協定を締結したと発表した。  
現在、ベイスターズの総合練習場ならびに若手選手寮「青星寮」は横須賀市長浦町にある。
一方で、2軍戦を開催する本拠地球場は追浜公園内の横須賀スタジアム。同じ横須賀市内とはいえ車でも約20分を要するほどの距離があるのだが、これらのファーム関連施設を2019年3月をメドに追浜公園内の土地に集約するという。
このたび締結された基本協定書の内容は下記の通りだ。
この協定の肝はやはり、1と2にあると言えるだろう。
横須賀市が40億円以上出す目的
まず追浜公園内にあるプロ野球ファーム公式戦が開催可能なメインスタジアム以外の2つの球場を解体して、その土地にベイスターズの総合練習場(メイングラウンド・サブグラウンド・室内練習場)を横須賀市が整備。その費用は約20億円を見込むという。
これらは公園内に特例的に整備されるため、ベイスターズのバランスシートには記載されず、球団に固定資産税がかからない。
市はさらに、解体する第2・第3球場の代替施設を別の場所に整備する予定で、こちらには約22億円の費用を見込んでいる。
新たな選手寮は球団が約12億円かけて建設するが、その土地は特例的に公園内に用意される。総合練習場と選手寮の土地の賃借料は年間約1億8000万円で、2019年から20年間、球団が使用・管理することになっている。
2軍の本拠地・横須賀スタジアム
球団と自治体が協定を結びファーム施設の整備を行った事例としては、2016年3月にオープンした福岡ソフトバンクホークスの「HAWKSベースボールパーク筑後」があるNewsPicksの記事参照)。
このケースでは、筑後市が土地の取得と整備に約15億円を投じ(球団に20年間無償貸与)、そこに球団が約60億円で豪華施設を建設した。
一方、ベイスターズは20年間でおおよそ総額48億円の総額を拠出することになる。
スキームが異なるため単純比較はできないが、横須賀市が40億円以上の費用を負担している点はやはり目を引く。
ベイスターズにはそれだけ、ファーム拠点があること自体による地元へのさまざまな効果、さらにはファーム試合開催による地元への好影響、またスポーツ文化の醸成などの地域貢献に一定の役割を果たすことが期待されているのだろう。
理想的二拠点が完成へ
横須賀市との協定締結にいたった経緯を、池田純球団社長はこう説明する。
「長浦の施設は老朽化が進み、1987年の建設からときを経た今は安心安全な施設とは言い難くなってしまった。またサブグラウンドがなく、ファーム公式戦を行うにも制約があり、プロのファーム施設として満足に練習できる環境とも言い難い」
横須賀市長浦町にある総合練習場
「DeNAがベイスターズの経営権を取得してからの4年間、神奈川県内の各市などとも協議を繰り返し、いくつかの具体的な選択肢を検討してきた。その結果、地理的な条件や練習環境の充実度、経済面、これまでお世話になってきたという歴史からも、横須賀市から『ぜひ残ってほしい』とご提案いただいた内容が最適だという結論にいたった」
前述のホークスや北海道日本ハムファイターズなどは、ファームをファンサービスの重要な拠点と位置づけ、さまざまなビジネス戦略を展開している(NewsPicksの過去記事参照。ホークスはこちら、ファイターズはこちら)。
ベイスターズも、一新されるファーム施設にビジネスとしての可能性を感じているのだろうか。
池田社長は、「将来は別にして、ファームの意義をビジネスにまで拡大する意図は現時点ではまったく持っていない」と明言する。
「ファーム移転の最大の目的はあくまで、1軍のチームが強くなり、勝つこと。そのために、ハマスタ(横浜スタジアム)まで車で30分という首都圏の好立地な環境において実現しうる、最高の練習環境を選手たちに提供する」
育成出身の左腕投手・砂田毅樹は2016年、先発ローテーションに定着。
外野手の乙坂智は高卒5年目の今季、打撃でチームに貢献。
「横須賀の練習施設は、客席の出っ張りなどを横浜スタジアムとまったく同じ形状に改修して、より実戦的で、1軍での活躍に直結する環境を整えたい。横浜スタジアムで推し進めているコミュニティボールパーク化構想を、横須賀のファーム拠点にミニチュア版としてどう実現していくかが今後の課題」
「一方、横浜スタジアムから距離の近い横須賀スタジアム周辺にファーム施設が集約されることで、横浜と横須賀の間の、いわば『横横ベイスターズ』というアクティビティ(人の流れ)がより活発になることが期待でき、ファンサービスとしてもチームにとっても理想的距離感の二大拠点が完成することになる」
2016年にソフトバンクから加入した内野手の白根尚貴は2軍で3・4月度の月間MVPを受賞。
民間と行政が協力してできること
ベイスターズは2016年、横浜スタジアム(横浜市所有)の管理・運営権を友好的TOBというかたちで手にすることに成功した。そして自治体の協力のもとに、横須賀スタジアム(横須賀市所有)周辺の管理・運営権も取得することになる。
本連載の前回でも触れた「行政と協力する重要性」について、「この2つがまさに実例」と池田社長は語る。
「行政という言葉を見た瞬間に、『民間でできることは民間でやるべきだ』との声があがるのは理解できる。しかし、スポーツビジネスを成功させるには“ハコ”が必要だと私は考えており、新たに建設するのは資金的にも大変なこと」
「日本中に、『県立』『市立』といった市町村名を冠した球場や陸上競技場、体育館など、自治体が運営する施設がすでに数多く存在するわけだから、行政と連携し、上手に民間が主体性を取る仕組みを上手につくりあげ、その後は民間が主体となって運営・改修・ブランディングしながらもっともっと有効活用できるようにするのも一つの手法」
現在の横須賀スタジアム
「民間の発想なら、地域住民への利用機会の提供も必然的に考えることになる。そのためにはまず、上手に行政と手を組むことも有効な手段になりえる」
「今回の横須賀市との取り組みはその一つの実例だと思う。公的土地・公的施設・一時的大コストを行政が拠出し、既存の施設を含めベイスターズが運営・ブランディングしていくことになる」
「当然、球団はそれらの施設を通じてエンターテインメントを地域住民に提供していくし、選手の学校訪問などの取り組みをはじめ、『横須賀市民のために』という地域に貢献する意識も格段に強くなる。実は重要な点は、ベイスターズは横浜と横須賀両方のケースにおいて、ハコ自体のハードの所有は最小限にとどめながらハコの運営・利用の権利を獲得していること」
いち民間企業であるベイスターズを優遇しているとも見える今回の協定に対して、横須賀市民から不満の声は聞かれないのか。素朴な疑問をぶつけると、池田社長は「市民とのコミュニケーションは第一義的には市が担う役割」としたうえで、こう説明する。
「私たちとしては市民の方にもご理解いただけて、民間に任せたほうがいいと判断していただいたからこそ、行政との協定の締結につながったと理解している。行政と民間がWin-Winの関係を構築する手法は、他のスポーツビジネスでも活用可能だと思う」
ファーム施設の移転で、ベイスターズは、横須賀市はどう変わるのか。
新施設の供用が開始される3年後の春を楽しみに待ちたい。
(写真:©YDB)