(Bloomberg) -- 都心の大型再開発で高層ビル建設が続く中で三井不動産と三菱地所、住友不動産の大手不動産3社は、資金の借入残高が過去最大に達している。日本銀行のマイナス金利政策で一段と進んだ低金利が大型プロジェクトを支えており、東京都は丸の内や日本橋など再開発で10兆円の経済効果を見込んでいる。

3社の16年3月期(前期)有利子負債はいずれも1980年代後半から90年代始めのバブル期を上回り、過去最高だった。三井不動産は2兆2262億円、三菱地所は2兆2910億円、住友不動産は3兆1589億円に達した。負債が増えているにもかかわらず、3社とも支払い利息は減少しており、三井不の取締役常務執行役員の佐藤雅敏氏は、「低金利で金利負担が減っている」と述べた。

政府は今月、国家戦略特区の規制緩和を活用し都内で新たに6つの大型再開発に関する計画を発表。都は承認済みの22件と合わせた計28プロジェクトの経済波及効果を約10兆円と見込むとの試算を打ち出した。東京駅前の超高層の国際金融・ビジネス交流拠点や国際観光拠点、虎ノ門地区での外国人向け住宅やインターナショナルスクールなどの生活環境整備が盛り込まれている。

大型再開発が続く背景について、みずほ証券の石沢卓志上級研究員は「資金調達がやりやすく、不動産価格は今後も上昇が見込まれるので、不動産業界は事業拡大の方針をたてるところが多い」と話す。石沢氏はさらに政府が再開発を後押しする効果を挙げ、「特区は国として持続的に発展できるための基礎固めのインフラ整備だ。規制面で後押しされることで、強いエリアはより強くなる」と指摘する。

デフレ脱却に向け異次元金融緩和を進めてきた日銀は1月、マイナス金利政策を決定。長短の市場金利が一段と押し下げられ、長期金利の指標となる10年物国債利回りはマイナスになった。日銀の統計によると、2月の国内銀行の貸出約定平均金利は0.793%となり、1月を下回って統計開始以来の最低を記録している。三菱地所広報部の長嶋彩加氏は、前期の平均支払金利は0.96%と、データがある86年3月期以降で過去最低と述べた。

日銀が20日発表した貸出先別貸出統計によると、3月末の不動産業向け貸出金残高は67兆6991億円と70年の統計開始以来最大。また、1-3月の設備資金新規貸出額は前年同期比で製造業や個人向けが落ち込む中、不動産業向けは77年の統計開始以来最大の3兆7447億円となり、全体に占めるシェアは28%(前年同期は24%)に伸びた。

丸の内や虎ノ門

安倍晋三政権は、成長戦略の中核として国家戦略特区構想を位置付けており、高層ビルが建築しやすくなる容積率の緩和や税制面の優遇などを通じた民間投資の促進などを掲げている。

三菱地所は約30棟のオフィスビルを保有する丸の内エリアで再開発を続け、地上390メートルの日本一の超高層ビルを建設する計画だ。森ビルは虎ノ門に超高層ビル3棟の建設で4000億円の総事業費を見込んでいる。

森ビルの辻慎吾社長は4月の記者会見で、虎ノ門エリア一帯での再開発計画について「東京オリンピックまでチャンスだと思う。この4-5年が勝負だ」と意気込みを語り、「今の金融の情勢は投資がしやすい、借り入れがしやすい」との見方を示した。

好調は続くか

大和証券の芹沢健自クレジットアナリストは、「大手不動産会社のバランスシートは拡大しているが、クレジット面では大きな問題はないとみている」と述べた。利益水準が上がっていることや、不動産価格の先高観などが見込まれるため、大手不動産会社にとり事業環境の好調が続くとの見方を示した。

三井不は今期(17年3月期)の連結業績予想で、純利益が3期連続、売上高は5期連続のそれぞれ過去最高を見込んでいる。

これに対し、みずほ証の石沢氏は、足元の不動産需要は堅調としたものの、「景気全般の足取りが悪くなり、消費増税の見通しなどで先行きに関して不透明要因が出てきた」と指摘。不動産市況の先行きは「不安要因が大きくなってきた」と話している。

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