小クラブの生き残る道。VVVフェンロのマッチングビジネス

2016/5/17
年間予算4億3000万円、平均観客数4300人──。  
本田圭佑、吉田麻也、大津祐樹の3選手がかつて所属したオランダ2部リーグ・VVVフェンロの現状である。
日本に置き換えると、年間収入4億2600万円(平成26年度)、平均観客数4733人(平成27年)を記録したJ3のAC長野パルセイロとほぼ同じ規模にあり、オランダ国内でも決して財政的に裕福なクラブとはいえない。
経費削減のため、ホームスタジアムの芝も2013年には人工芝へと切り替えられた(冬場のオランダ・ドイツでは、日照不足の影響も大きく、天然芝の管理費用は莫大。ボルシア・ドルトムントでは年間約1億円)。
シーコン・スタジアム=デ・クールのピッチ。
1時間圏内にビッグクラブ点在
さらに、自動車で1時間圏内にはエールディビジのPSV、ベルギーリーグのゲンク、ブンデスリーガのレバークーゼン、ケルン、そしてボルシア・ドルトムントが存在する。
もし、あなたがビッグクラブに囲まれた国境沿いのスモールクラブのマーケティング担当者であれば、一体何をどうするだろうか。
VVVフェンロがとった策は、自らが置かれている状況を強みに変えようとするものであった。
キーワードは「ノスタルジー」と「ネットワーキング」である。
「古くて小さい」を武器にする
フェンロの創設は1903年であり、ブンデスリーガのシャルケやボルシア・ドルトムントよりも古い。オランダの中では最も歴史あるクラブの一つだという。
ホームスタジアムのデ・クールは収容人数が8000人と非常にコンパクトであり、1972年の建設。お世辞にも近代的とは言えない。
一応、屋根付きであるが、それを支える柱が視線を遮るように立っている。監督が座るベンチも、よく見るレカロ製の高級革シートではなく、いまだに木製だ。
ミックスゾーンからピッチへと続く階段。
監督と第4の審判は白い木製の椅子に座るという。
屋根付きながら柱が視線を遮るつくり。
しかし、この古さを活用し、フェンロはビッグクラブとの差別化を図ろうとしている。
国際マーケティング担当のロバート・ピナー氏が、こう語る。
「ドイツのビッグクラブのスタジアムは巨大で現代風ですが、すべて同じようなイメージです。こちらは小さくてレトロ。選手とサポーターの距離も近く、フレンドリーでノスタルジック。だから『懐かしい時代の哀愁』をテーマにドイツ人サポーターの獲得に力を入れています」
ファンに懐かしさを意識させるアプローチ。
ピナー氏が今、最も力を入れているのが国境を意識したスポンサー同士のネットワークづくりだ。
2国間でスポンサーの交流促進
フェンロでは2012年に企業同士の交流促進を目的とした「ビジネスクラブ」を立ち上げ、スタジアム内に専用のラウンジを整備した。
上下ともに1階ラウンジの様子。
ピナー氏は、その背景についてこう話した。
「数年前まではオランダ企業だけを狙ってスポンサー営業を行っていました。しかし、クラブの立地やフットボールの持つ社交性を考えると、私たちが両国の企業同士のマッチングを行うことで活路を切り拓けると判断しました。なにせスタジアムを中心に円を描くと、オランダ・ドイツがちょうど半々になるのですから」
このビジネスクラブには、スポンサーはもちろんのこと、40歳以下の若手経営者も年間1500ユーロを支払えばパートナーシップ企業として参加することができる。
ここに顔を出せばフェンロ会長のハイ・ベルデン氏(メインスポンサー・シーコン社のトップ)をはじめ、地元有力企業の幹部と比較的容易に交流でき、若手ビジネスパーソン同士のネットワークも構築できる。
ビジネスクラブは大きな収入源
また、年会費にはシーズンシート1席やゲストの接待枠、駐車券も付随しているため、周辺の中小企業や若手スタートアップ企業にとっては非常に魅力的な会員組織であるといえよう。
試合日以外にもビジネスクラブの活動は活発に行われており、オクトーバーフェストの合同開催や、スポンサートップ20社を対象としたレアル・マドリード戦観戦ツアーなどが催されている。
「オランダとドイツでは文化やビジネス習慣が異なります。ビジネスクラブでの交流を通じ、お互いのコミュニティに溶け込みやすくなるお手伝いを私たちが行っているのです」(ピナー氏)
こうした方向性が評価され、ビジネスクラブの人気は年々高まっている。
メンバーシップ権を複数購入する企業も多く、平均観客数4300人中1300人がビジネスシート利用者である。
2015年9月時点でパートナーシップ企業は全220社あり、そのうちドイツ企業は35社まで増加した。また、ビジネスクラブの売上を単純計算しても約2億4000万円であり、その割合はクラブ収入全体の56%を占める。
このことからもフェンロにおけるビジネスクラブは大きな成果を上げていると言っていいだろう。
ビジネスラウンジ内での「欧州フットボールビジネス研修」の様子。
社交場として高コスパ
実際に、筆者も「欧州フットボールビジネス研修」に参加した新潟経営大学生たちとともに「ビジネスクラブ」の活動に参加してみた。
メインスタンド内側に建てられた2階建てのラウンジには、試合開始の2時間前からスポンサー企業の関係者が200名ほど集まり、クラブ関係者のプレゼンに耳を傾けていた。
2階ビジネスラウンジの様子。
その後はビールやワインのグラスを傾けながら参加者同士の交流が行われ、試合開始が近づくと1階のバースペースからそのまま観客席へと滑りこむかたちである。
ドリンクは飲み放題で、スナック付き。トイレも清潔で、筆者たちが訪れた9月の夜の冷え込みをしのぐこともできる。
厳格ではないものの、ドレスコードもあるため雰囲気も落ち着いている。ちょっとリッチにフットボール観戦を楽しむスペースとしてはもってこいであった。
ビジネスクラブで交流する会員。
さらに、試合終了後は選手や監督もビジネスクラブのラウンジに顔を出し、サインや記念撮影に応じるという徹底ぶり(この場面は見学できなかった。残念!)。
試合内容はともかく、社交の場としてのコストパフォーマンスは非常に高いと感じた。
マッチングビジネスの可能性
今回紹介したフェンロと同様の取り組みは、わが国では大宮アルディージャや浦和レッズに見られる。特に大宮は2009年からこの活動に取り組んでおり、タイミング的にはフェンロよりも3年も早い(大宮浦和の公式サイト参照)。
また、読売巨人軍のマーケティング戦略に関する全国ビジネスプランコンテスト「大学生のベースボールビジネスアワード」において、筆者のゼミ生が2014年に優秀賞を受賞した企画もまさにこの内容であった(「BASEBALL BUSINESS AWARD 2015」参照)。
わが国においてもこのような活動が活発化する背景には、広告効果を超えたスポンサーメリットに対する企業側のニーズの高まりがあるといえよう。
また、プロスポーツ組織にも、より具体的な効果を企業側に提供することで契約の継続や金額の上乗せを期待している側面もあると思われる。
従ってクラブ・球団スタッフには、広告料をもらうばかりでなく、スポンサーのビジネス展開を把握したうえで、それを促進できるパートナーを紹介できるノウハウやスキルが求められるようになるだろう。
またフェンロのように、スポンサー同士の交流を促進するに相応しい施設をスタジアム内に用意することも必要になる。
競技面のみならず、ビジネス面でも人材と施設への投資をさらに強化していきたいところだ。
(バナー写真:VI Images via Getty Images、文中写真:福田拓哉)