世界最多観客を呼ぶドルトムント流アナログコミュニケーション

2016/5/10
前回のデジタル戦略もさることながら、それ以上に私たちが驚いたのが、サポーターとのアナログなコミュニケーションをボルシア・ドルトムントが徹底していることである。  
セバスチャン・フランク氏は「欧州フットボールビジネス研修」に参加した新潟経営大学生からの質問に対して、こう答えた。
「チームが好調なときにユニホームを買ってくれるサポーターも大事ですが、私たちは長年メンバーシップを継続してくれている会員を大切にしています。ドルトムントにはサポーターの声に耳を傾けることを専門とする5人のスタッフが常駐しており、彼らはスタジアムで実施するファンクラブ代表者とのミーティングやサポーターとの会話、ダイレクトメールを通じたアンケートや電話調査、フォーカスグループインタビューなど、あらゆる手段で情報を集めています」
直前まで聞いていたデジタルマーケティングとは180度異なる、何というアナログさであろうか。
さらに驚いたことが、こうした手法によって集められた声が、しっかりクラブ全体に行き渡るシステムが次のように構築されている点であった。
ドルトムントの本拠地は毎試合、熱狂的なサポーターで満員になる。
サポーターと親密な距離構築
5人のスタッフによって集めた質的データは、3カ月に1回の割合でクラブ全体に報告されるかたちになっている。
先に述べたファンクラブ代表者とのミーティングにはマーケティング部長も参加し、その内容はクラブ役員によって文章化され、その後各部署のスタッフに共有される。
つまり、1年の間に4回もクラブがサポーターの声をもとにその施策を自主点検しているのだ。
「これによって、私たちはサポーターとの距離を親密なものに保てているのです」とセバスチャン氏が語るように、5人のスタッフが聞き取る内容は、情報発信の在り方、グッズのデザイン、アウェイのチケット購入方法やアクセス方法、スタジアム内のホスピタリティやファンサービスの質に至るまで、あらゆるものが含まれているのである。
サポーターは消費者ではない
彼らが集めたサポーターの声によって、ドルトムントはこれまでチケット、ユニホーム、スタジアムで販売されるビールの値上げを見送ってきた。ユニホームとビールの価格に関してはスポンサーからの値上げ要請を断っているのである(「BBCの記事参照」)。
こうした意思決定ができるのも、「サポーターはクラブが良くないときも熱心に支え続けてくれました。従って、私たちはサポーターを消費者としては扱っていません。一緒に価値をつくり出していく仲間と認識しています」(セバスチャン氏)という考え方がクラブの文化として根づいているためであろう。
クラブ内にファン支援部隊
ドルトムント公式サイトによれば、5人の専門スタッフはFanbeauftragte(ファン・ベアオフトラークテ=ファン支援部門)と呼ばれている(ドルトムント公式サイト参照)。
クラブの経営危機がすでに意識されていた2004年に設置された役職であり、サポーターの窓口となって部署横断的にその声をクラブに取り入れる役割を果たしている。
同様の部署はブンデスリーガのほかのクラブにも見られることから、ドイツのフットボールクラブでは一般的といえるかもしれない。
この点は、組織図の末端にファンクラブが置かれ、サポーターの声をクラブマネジメントに十分反映しきれていない傾向が強いわが国においては、模範にすべきといえよう。
ドルトムントから学ぶべき3点
前回、そして今回紹介したドルトムントの事例から私たちが学ぶべきは次の3点であろう。
1点目は、クラブが持つべきアイデンティティを確立させることである。
セバスチャン氏が、「あらゆるクラブが持っている歴史が大切です」と私たちに語ってくれた通り、その点に自分たちがよって立つべき場所が隠されていることが多い。
また、それはクラブ独自の資産であり、極めて模倣困難なブランドストーリーに昇華させることができる。
クラブにはカルチャーが必要
12年ほど前、筆者が京都パープルサンガ勤務時代に受講したオランダ・フェイエノールトの元GMロブ・バーン氏を講師とする指導者研修会で、彼はこんな指摘をしていた。
「各クラブはいち早く独自のクラブカルチャーを構築することが大事です。クラブカルチャーがあれば指導者の交代でクラブの方針がブレるのではなく、カルチャーに適した指導者を選ぶことができます」
「そして、そのカルチャーはクラブとサポーターが築き上げてきた関係と、地域の歴史に目を向ければできあがってくるはずです」
この指摘と、今回の学びは共通している。
歴史はブランドになる
実際に、筆者がこれまでに訪れた欧米のプロスポーツ組織(ドイツのボルシア・メンヘングラッドバッハ、オランダのVVVフェンロ、アメリカのNFL本部、NBAのロサンゼルス・レイカーズ、メジャーリーグのアリゾナ・ダイヤモンドバックス、NFLのアリゾナ・カーディナルス等)ではオフィスやホームスタジアムに、自らの組織と本拠地とする地域の歴史を象徴する写真やモニュメントが必ず設置され、クラブのブランディングやファン・地域との関係構築に活用されていた。
わが国のプロ野球でも、最近では過去の歴史を有効活用する手法が活発化しているが、今後はこれを球団・クラブのブランド・アイデンティティにまで昇華させることが重要になるだろう。
オフィス内に展示されたドルトムント設立当時(1904年)の街の様子。(筆者撮影)
ドルトムントを立ち上げた初期メンバーの写真も展示されている。(筆者撮影)
時代の波=モバイル化の進展
2点目は、時代の波を積極的につかみにいくことである。
ドルトムントではその波をモバイル化の進展と認識し、スマートフォン向けの積極的な「空中戦」を展開し、大きな成果を得てきた。
このように、社会の大きな流れを把握し、それに対し十分な投資を行っていくことは極めて重要であるが、わが国では「頭ではわかっているけど、実行までなかなかいけない」のが現状であろう。
一部の球団・クラブを除いて、その大多数が目の前に山積みになっている日々の仕事を片付けることで精いっぱいという状況である。
「身の丈を伸ばす」という発想
また、積極的な投資に耐えうる十分な財務基盤も弱く、不確実な売り上げに対して明確な費用が発生するようなアクションが取りにくいという苦しさもよく理解できる。
だからこそ、業務内容の見直しや外部組織との連携などを積極的に取り入れるべきだろう。その点はクラブのマネジメント層にいま一度経営資源の分配方法を検討していただきたいところである。
それによって「身の丈経営」を意識しつつも、「身の丈に合わせる」だけでなく、「身の丈を伸ばす方法」にも積極的に取り組むべきであろう。
サポーター=顧客資産
3点目が、クラブとサポーターとの心の通った関係性を構築することである。
ドルトムントでは5人の専任スタッフが実にアナログな手法でサポーターとのコミュニケーションを密に行い、その声をクラブに還元していた。
こうした活動は、わが国の球団・クラブでも業務の見直しを行えば比較的容易に行いやすいだろう。
大切な点は、サポーターの声に耳を傾け続けることを組織の文化にするとともに、組織の制度としてクラブ経営に組み込むことである。
サポーターをクラブの持続発展に向けた「顧客資産」として捉えるならば、ドルトムントに見られる文化と制度を取り入れることの重要性は火を見るより明らかであろう。
以上、前回とあわせ2回に分けてドルトムントに関する私たちの学びを共有した。次回以降は別の事例をもとに、ファン・サポーター、そしてスポンサーとの関係性構築に関して紹介していきたい。 
(写真:Alexandre Simoes/Borussia Dortmund/Getty Images)