【小松美羽】日本人ではなく“地球人”として世界と向き合いたい
2016/5/8
日本文化は日本だけのものじゃない
──近年、小松さんの作品は世界でも評価されていますが、“世界”はどのように意識していますか。
私の公式HPでは「大和力を、世界へ」という言い方をしていますが、そもそも日本の文化って、日本だけのものじゃなくて地球の遺産なんですよね。
だから、私が描いているものは、すべての地球人がこれまで歩んできた歴史の恩恵です。
日本は、世界中から渡ってきた文化を温かく受け入れてきたと思います。そのうえで、すごく愛情を持って、日本らしいかたちで育んできた。
だから、ことさらに「これが日本の文化です」と主張するよりも、「こんなに素晴らしいかたちになったよ」と世界にお返ししてあげたいと思うんです。
たとえば、大英博物館に永久所蔵された「天地の守護獣」は有田焼で狛犬のフォルムを造り、絵付けを施したものです。
狛犬って古代エジプトやユダヤのケルビムが起源だといわれていますけれど、それがシルクロードを通って日本に渡ってきました。
そのとき、獅子を犬だと勘違いしちゃったみたいなんです。ネコ科からイヌ科になっちゃった。中国から朝鮮を通ってきたので「高麗犬(こまいぬ)」。それがすごく面白いと思うんです。
そんな狛犬を描くことは、日本だけでなく、その文化に関わるすべて国を尊敬することになるんです。
イギリスを訪れたとき、作品を見た方に「ガーゴイルみたいだね」と言われたんですけれど、ガーゴイルも古代エジプトが起源とされていて、国や時代を通して、その姿が変化したそうです。
私は「それなら、狛犬もガーゴイルも親戚みたいなものじゃん」って思えるんです。そうやって、いろんな文化がつながっていく。
日本のものは、日本だけのものじゃない。そう考えて文化を敬う気持ちを持つことが、本当の意味で和の心をもって共生することだと思います。
だから、私は日本人ではあるけれど、“地球人”として作品をつくりたいと思っています。
魂を削らないと作品じゃない
──日本の文化を日本固有であると強調するよりも、世界との関係で捉え直す視点が小松さんらしいと思います。作品の中では、男性や女性といった性についても一体化していると感じることがあります。
そうですね。私は魂って雌雄同体なんじゃないかと思うんです。輪廻転生があるのならば、男性が女性に生まれ変わり、その逆も、いろんな可能性があるんじゃないかと感じます。
私自身、どこかに自分が男性だったような記憶があるんです。女性をすけこましていたダメな男なんじゃないかなって(笑)。
海外でも私の作品に登場するモチーフについて「オスですかメスですか」などと聞かれることもありますが、「どちらでもないですよ。設定していないんです」と答えています。
──小松さんは、自分のためではなく、誰かと共鳴するために作品をつくるようになったと前回もお話ししていました。ご自身のブログのタイトルを「千年先のMIWA CODE」としていますが、作品がコードの役割を果たしているのでしょうか。
そうですね。私の絵は自分一人のものでなく、魂と魂をつなぐコードだと思っています。
だから、絵を描いて、それが共鳴することがうれしい。そのために、魂を削ることが楽しいんです。
それは全然つらくない。削れるくらいのものをつくらないと、作品にも伝える人にも失礼だなと思います。魂を削っていない作品なんて、ただの紙切れですから。
そうやって描き続けることが、私自身の魂の成長だと思っているんです。
作品を描くときは、筆一つとも真剣勝負です。筆にも八百万の神が宿っていると思っています。つくり手として、道具の言いなりになるのではなく、自分が使いこなせなきゃいけない。
だからいつもバトルをしているんです。筆が思うように流れないときには「何でちゃんと動かないんだ。カッティングの刑だ!」といって、筆先をちょっとカットすることも。
これに対して、筆が「やめろー」と叫び、私が「うるさい!」って怒る……そんなことを、一人でやっています(笑)。
それを乗り越えて、私と筆が一体になったときは、言葉にできないほどの快感です。
──ご自身に関して、さまざまなメディアで「実力不足だ」と繰り返している姿が印象的です。
今、現代アートって飽和状態なんです。美術関係者の中には、「数百年後にはほとんどがゴミクズになってしまう」という人もいます。でも、自分の作品がそうなってほしくない。
そのためには、もっと自分の力をつけなければいけない。だから、まだまだ実力不足だと自分に言い続けています。そうやって律しないと、すぐに調子に乗ってしまうことは、自分が一番よくわかっているので。
──今後、個人としてやってみたいことはありますか。
壮大過ぎるかもしれませんが、世界中の子どもが読む美術の教科書をつくりたいと思っているんです。今の美術の教科書はお勉強が中心ですけれど、本来の美術の教科書って、子どもの夢を育てるようなものであるべきだからです。
夢を追い続けること、希望を持ち続けることの大切さは、私が絵以外で一人の人間として伝えられることだと思っているので。
私は、子どもの頃から画家になれると勘違いしてここまできましたけれど、大人が子どもの持っている“夢の芽”を摘んでしまうことは、いくらでもあると思うんです。そこでダメにならずに夢を持ち続けてほしいし、持ち続けられる世界であってほしい。
根拠はないのですが、70歳くらいになったときにできたらいいですね。私が著者としてどーんと出ている感じです。
そしてなにより、画家として作品をつくり続けること。世の中は、悲観的に見ればすべてが悲観的に見えると思いますが、すべてが希望であると見ることもできます。私が祖父や動物の死に希望を見出したように、そんなメッセージを伝えていきたいと思っています。
(プロフィール写真:是枝右恭、写真提供:風土)
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