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【SPEEDA総研】コンテンツ産業における日本アニメの実態と今後を考える

2016/5/7
SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。一般的にコンテンツ産業に属するものはたくさんあるが、日本においてアニメは重要な位置を占めている。今回は、日本のコンテンツ産業とアニメの業界構造に触れながら、今後の方向性について考える

TVアニメと製作委員会方式の発展

日本のコンテンツ産業においてアニメは重要な位置を占めているが、そのビジネスモデルは非常に複雑な権利構造を有する。

その要因の1つとして、現在のアニメ製作は、製作委員会方式が主流であることが挙げられる。

従来のTVアニメは、TV局、広告代理店、スポンサーとアニメ制作会社が、番組として共同企画もしくはアニメ制作会社の企画を採用するという形でつくられていた。

この場合、作品の著作権者は主にアニメ制作会社であった。

一方、製作委員会方式は、1995年に放送が開始された「新世紀エヴァンゲリオン」(エヴァ)の大ヒットにより、急速に普及したといわれる。

これは作品ごとにTV局、広告代理店、おもちゃメーカーなど、著作権(版権)ビジネスを目的とした企業が1つの作品に対して共同出資する方式であり、作品の著作権も出資者による共同保有となる。

注:「製作」は、作品の企画から制作作業、マーケティングなどの全体の流れを指し、「制作」は、アニメーターにより実際の原画や動画を作成する工程を指す

メディアミックス戦略が主流に

製作委員会方式の確立とともに、マーケティングにおいてはメディアミックス戦略が主流となった。これは、1つの原作からアニメ、ゲーム、漫画など複数メディアにて展開する手法である。

メディアミックスの成功例としては「ポケットモンスター(ポケモン)」が挙げられる。

ポケモンは1996年にゲームボーイ用ソフト「ポケットモンスター 赤・緑」(任天堂)が発売されてから、今年で20周年を迎えた。

ゲームを原作として、アニメやキャラクター商品などさまざまなジャンルへ拡大し、子どもから大人まで世界中に幅広いファンを獲得、世界的なIP(Intellectual Property、知的財産)となっている。

下記は、代表的なコンテンツの発表年(初公開時の作品形態は問わない)と、把握可能な数値を用いて累計売上金額を推計したチャートである。

期間に対する規模の大きさでポケモンが際立っている。
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各社IPに触れる機会を拡大

近年は、日常的に何らかのIPに触れる機会が格段に増えた。

これは、製作やマーケティング手法の変化に加えて、IPの注目度やコンテンツ全体としての稼ぐ力によるところも大きい。

一方で、コンテンツをつくる側が異業種へ積極展開を進めた結果でもある。

具体的な事例として、たとえばコンビニでは、頻繁にアニメコラボ企画ののぼりを見かけるようになった。

季節や期間、地域などが限定されていることもあり、ファンにとっては確実に特定の店舗を利用するインセンティブになっているほか、従来のターゲットではなかった層が目にする機会も増えた。

以前は一部のコアユーザーにしか知られていなかったラッピングカー(いわゆる痛車)も、最近は自動車メーカーによる公式痛車の情報を定期的に目にする。

2013年にはトヨタから「シャア専用オーリス」が発売された。また、グッドスマイルレーシングは、自動車レースSUPER GTに初音ミク仕様のクルマで毎年参戦し話題となっている。

JR東日本山手線では、アニメ「ラブライブ!」の電車車体広告(ラッピングトレイン)が不定期に実施されている。

山手線の1日あたり平均通過人員数は100万人を超えており、相当数に見られていることになる。

山手線の広告掲載料をみると、11両1編成の4週間で800万円となっており、一般的なアニメ作品の売上を考慮するとコンテンツとしての強さを感じる。

大規模な鉄道企画としては「500TYPE EVA PROJECT」も記憶に新しい。

これは山陽新幹線500系においてエヴァをモチーフにした内外装の車両で運行、主要駅でグッズ販売やカフェなどを展開するプロジェクトである。

なお、博多・新大阪間の複数の自治体をまたがっての運用となるため、車両広告の規制に違反しないよう「500 TYPE EVA」という表記以外は外装面での広告的表現はなされていない。

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アニメ市場規模を確認

ここで、アニメの市場規模を確認する。

日本動画協会では、アニメ産業の市場規模について、アニメ制作に関わる企業の売上高から算出した狭義の市場規模と、一般消費者が支払った金額(製作委員会の売上)の合計から算出した広義の市場規模の2つの観点から調査を行っている。

2014年は、狭義の市場規模が1,847億円、広義の市場規模が1兆6,296億円となっており、両者には大きなかい離がみられる。
 日本アニメ-01_修正_広義・狭義の市場規模

なお、ヒューマンメディアの調査によると、ゲームやライブ、広告などを含む日本国内メディア・コンテンツ市場規模は2014年に総額12兆円。

単純比較はできないが、広義の市場規模はコンテンツ市場規模の1割強を占める計算になり、この規模がコンテンツ全体におけるアニメの影響度とも考えられる。

かい離の要因は「商品化」

市場を構成する細かい内訳を確認する。制作会社の売上には「TV」、コンテンツ全体としての売上には「商品化」が、それぞれ押上要因となっている。

商品化とは主にグッズ販売などによるライセンス収入であり、両者の売上の差が著作権(版権)の有無によるものであることが如実に表れている。
 日本アニメ-03_修正_狭義の市場規模内訳

 日本アニメ-04_修正_広義の市場規模内訳

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版権事業は企業の業績を安定化

版権の影響度は、個別企業の業績にも表れる。アニメ制作を行う日本の主要企業について、SPEEDA格納データを基に業界平均を算出し比較した。

売上高、営業利益率ともに平均を上回っている企業については、収益に対する版権事業の貢献が比較的大きい。

なお、海外企業については、日本と同様の事業形態と規模を有するプレーヤーが非常に少ないため、今回は考慮していない。
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具体的な3社をみると、企業ごとのセグメントは単純比較できないものの、いずれも利益率が低く変動の大きい映像制作事業を、推移の安定した版権事業が補う構図となっている。

なお、創通の主な制作作品としてはガンダムシリーズが有名である。IGポートはプロダクション・アイジーなどのアニメ制作会社を傘下に持つ。エヴァの各話制作協力に入っているほか、「攻殻機動隊」は世界的に話題となった。
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制作会社の利幅は小さい

逆に、業務全体に占める制作業務の割合が高い、もしくは版権力が相対的に弱い企業では、収益安定化が難しくなるといえる。

また、製作委員会方式でアニメ製作を行った場合、制作会社が得ることができるのは制作費(アニメ作品自体の売上)のみとなることが多く、それを各工程に関わった多くの中間事業者で分け合うため、そもそも1社あたりの収益が少なくなりやすい構造となっている。
 日本アニメ-02-アニメの制作工程

まとめ

アニメは従来TVを主体として展開してきたが、近年は通信技術の進歩や各種メディア形態の変化などに伴い、アニメ作品の露出方法も多様化した。

機会の拡大に伴い、アニメ数も増加傾向が続いている。

1年間に制作されるTVアニメタイトル数は、1990年代後半に100タイトルを超え、2011年以降はさらに増加ペースが加速、2014年には過去最高の322タイトルとなった。

このような環境変化に対応するため、制作工程の見直しや新しい描画技術の開発など、徐々にではあるが現場の改善も進められている。

またネットの発達により、制作会社が主体的にマーケティングを行うことが可能となったため、製作委員会方式に頼らず小規模展開からファンをつかむケースも増えてきている。

しかし、大きくは改善されていない領域も依然としてある。

日本アニメーター・演出協会の報告書では、アニメーターの厳しい労働環境や賃金体系など制作現場の実態についてまとめられている。

アニメを盛り上げる施策としては、アニメ作品やキャラクターの売り方、完成したコンテンツの輸出などが注目されがちだが、大前提は制作である。

従来のマーケティング手法を継続するならば、制作会社に十分な利益が行き渡るよう収益モデルを再構築することは必須だろう。

時代の変化にあわせて、制作会社が主導するスタイルへの切り替えを業界全体で支援することも、1つの可能性としては考えられる。

今後も日本のアニメらしいアニメが生み出され続けることを願いたい。

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(写真:iStock.com/Cristian Baitg)