LINE上場前夜。韓国人トップが語った言葉

2016/5/1

社内集会でマイクを握った男

2016年4月21日、東京・渋谷にあるオフィスタワー、ヒカリエの9階では、LINEの社員たちを一堂に集めた全体集会が開かれていた。
古参幹部から新入社員まで顔をそろえたホールで、マイクを握ったのは、ひょろりとした韓国人男性だった。
「日本市場で成功させたモデルを、グローバルに展開し、各国に合わせてローカライズしてゆきます」
LINEが本社を構える東京・渋谷のヒカリエ。
繰り返されたキーワードは「スマートポータル」。パソコン時代に多くのサービスの玄関口となったポータルサイトの存在を、スマートフォンに最適な形にLINEが“再定義”していくという強い意思を改めて示したものだった。
LINEの存在の大きさは、日本にいれば、誰も否定できないだろう。
2011年6月に誕生したLINEは、いまや世界2億1840万人の月間ユーザーを抱える巨大サービスに成長した。
とりわけアジアの主要4カ国(日本、台湾、タイ、インドネシア)では高い市場シェアを誇り、これまでの主な収益源だったモバイルゲームや広告にとどまらず、音楽や動画といったコンテンツから、モバイル決済やタクシー配車といった実生活の領域にまでビジネスを拡大しようとしている。
「あのフェイスブックも、LINEのサービスを常に研究している」
男がスピーチに散りばめたそんな言葉は、世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)であるフェイスブックには規模でこそ劣るものの、新サービスの開発ではLINEが先を行っているという強い自負心が透けて見えた。
確かに、メッセージアプリは驚異的なスピードで進化している。
日本人の約半分がLINEを使っている。
人工知能を利用して、ユーザーに対して自動応答をする「bot」のサービスもすでに発表しており、ハイテクの聖地であるシリコンバレーを凌駕するような勢いをみせている。つまりLINEは間違いなく、その先頭集団にいる。
そんなLINEの全社員に向け、この壮大なビジョンを語っていたのは誰なのか。
シン・ジュンホ──。
何を隠そう、この韓国人男性こそ、いまから約5年前にLINEを世の中に生み出した実質的な開発責任者だ。
肩書きこそ海外戦略を担当する取締役の一人だが、社内には彼が“LINEの父”のような存在であり、また表には一切出てこない「もう一人の経営者」として疑う者はいない。ちなみにこの場では、株式上場を見越したストック・オプションを社員たちに付与することを、経営陣が検討していることも発表された。

10年越しの夢

「ネイバーにとって、日本市場での成功は10年越しの悲願だった」
あるLINEの経営幹部はこう打ち明ける。
ネイバーとは、LINEの株式100%を保有する韓国の親会社だ。インターネットの検索サービスを中核とした新興企業だったネイバーは2000年から、日本に拠点を構え、日本での大成功を夢見て、地道にITサービスの開発に取り組んできた。
オンラインPCゲームのハンゲームに、情報サイトのネイバーまとめ……。
この間、ネイバー(及び過去のNHNジャパン)は、いくつかの小さなヒットは生み出せた。だが、それでもネイバーには、日本全体を席巻するようなサービスはつくり出せなかったというじくじたる思いが残っていた。
そんなタイミングで、韓国から送り込まれたシン・ジュンホが、数年間の苦心の末に生み出した空前のヒット作こそが、LINEだったのだ。
このように、LINEというサービスや企業を読み解く際に、日本だけでなく、韓国からの目線を加えると、まったく違った地平が見えてくる。
何度も浮上しては消える上場観測や、アジアを中心としながら北米を目指した海外展開、さらには会社の意思決定の仕組み……。いずれも韓国のフィルターを通すと、日本でスタンプを連打しているのとは、まったく異なる景色が見えるはずだ。
そう考えた記者らはLINEのルーツを探り、上場を控えた今を探るために韓国へ足を運び、事実を一つひとつ積み上げてきた。
LINEの親会社、ネイバーがある韓国へ飛んだ。

LINEと韓日経営

ただ、誤解してほしくないのは、「LINEは日本企業か、韓国企業か」という不毛な議論を展開するつもりはない、ということだ。
「韓国企業と言われるLINEですが、そもそもアジア企業だと思っています。日本で上場をすれば、これまで以上に日本の経済圏にも貢献できます」
冒頭の社内集会で出澤剛社長が語ったように、グローバル化の社会で、企業の国籍だけを論じることに意味はない。しかし韓国からの目線も踏まえてLINEを読み解くことで、その実像を深く理解できるようにもなるはずだ。
特集では、まず第1回で、LINEが2014年に上場申請をしてからの2年間に何が起きていたのか、をネイバーの視点からひもといた。さらに2016年の上場の舞台裏についても独自情報を交えて紹介する。
また、第2回では、記者が実際に韓国に足を運び、LINEという巨大な子会社が誕生したことで、親会社であるネイバーに与えた影響をリポートする。
第3回では、ネイバーが日本に進出してから、LINEが大ブレークするまでの過程を、“LINEの父”であるシン・ジュンホの歩みとともにインフォグラフィックで紹介する。
第4回は、ネイバーの創業者であり、LINEの成功を裏で支えた李海珍(イ・ヘジン)取締役会議長の謎に包まれた素顔を紹介する。
第5回では、フェイスブックやワッツアップと肩を並べる存在となったLINEの世界展開について、韓国にあるLINE子会社が果たす役目をリポートする。
第6回では、サムスン電子やヒュンダイ自動車など、財閥系の韓国グローバル企業と比べた際の、ネイバーやLINEの強みや課題について、分析を加えた。
第8回では、LINEの人気キャラたちを生み出した韓国人アーティストの素顔を紹介する。
ここまでだと、韓国側の話だけだと思うかもしれない。
LINEは、日本と韓国双方の視点から分析する必要がある。
だが、第10回以降では、LINEという会社が日本で成功した要因について、日本独自の取り組みも紹介していく。
注目の「LINE Pay」という決済サービスに加え、通信分野ではMVNO、コンテンツでは音楽やゲーム、ライブ配信など、LINEが相次いで取り組むサービスの現状について、分析を加える。
それだけでなく、旧NHNジャパン時代に買収したライブドアが果たした役目についても、取材を進めている。
LINEは、日本での成功を機に誕生した巨大なポテンシャルを持ったプラットフォームだ。
世界でさらなる飛躍を遂げる可能性がある今だからこそ、LINEがたどってきた源流、現在の立ち位置、未来への課題と可能性を、丁寧に論じていくことに意味があるはずだ。
韓国企業としてのLINEと日本企業としてのLINE──その全貌を描いていく。
爆速成長アプリを生んだ日韓ハイブリッド経営
LINEの秘密
  1. LINE上場前夜。韓国人トップが語った言葉
  2. LINE上場、足止め2年間の全舞台裏
  3. 上場でLINEは韓国本社を超えるのか?
  4. 【インフォグラフィック】“LINEの父”シン・ジュンホの逆転劇
  5. 神出鬼没 謎に包まれたネイバー創業者の悲願
  6. グローバル化の鍵握る、韓国の黒子たち
  7. 韓国を牛耳る財閥とLINE。その実力を徹底比較
  8. 韓国のアプリ「監視社会」は他人事か
  9. LINEキャラを発明した韓流作家の素顔
  10. 【チョン・ヤンヒョン】LINEの父に伝えた、日本市場「3つの秘訣」
  11. 【パート2】LINEに流れる「ライブドア」の遺伝子
  12. 株式会社「ライブドア」が消えた日
  13. ライブドアが教えたLINEの“稼ぎ方”
  14. ゲーム事業との“離婚”。そしてトロイカ体制へ
  15. 【舛田淳】シンと私は分身のような存在だ
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  17. 【パート3】LINEがフェイスブックに勝つ方法
  18. 決済で最先端ゆくウィーチャット。7億人の衝撃
  19. 絶対王者「ワッツアップ」を襲う、ロシアの異才
  20. スポティファイ来襲直前。LINEミュージックの誤算
  21. ついにLINE上場を認める、東証の“本音”
  22. 【編集後記】LINEに眠るドラマ
  23. 【番外編・上】ホリエモン、LINEのライブドア軍団を語る
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  25. 【番外編・下】ライブドアがあったら、iPhoneをパクっていた