npban_0430.002

東南アジアはビジネスチャンスの宝庫

ANAがアジア事業売り上げを3倍にしたデータ運用の秘訣

2016/4/30

経済成長が留まるところをしらないアジア市場。特に、伸びしろのある東南アジアはビジネスチャンスの宝庫。

その東南アジアで飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を上げているのが、航空大手ANAだ。

アジア域内でのANAの国際便数は2012年比で約1.5倍増の60便、アジアの航空券売り上げは約3倍増と、売上は右肩上がり。

ANAのアジア事業が好調な背景の一つには、データを活用した徹底したローカライゼーションがある。

アジア市場で生き残るためのヒントをANAアジアオセアニア室マネージャーの渡邉勝氏(以下、渡邉)に話を聞いた。

アジア市場におけるターゲット明確化の必要性

──いつ頃からアジア市場でANAはデジタル戦略を強化し始めたのですか

渡邉:本社主導で仕組みは以前からありましたが、活用・強化したのは、私がシンガポールに着任した後の2014年半ば頃からです。

私がシンガポールに着任する前から、ANAの事業戦略は、日本人以外のローカルマーケットへのアプローチ強化と言っておりましたが、当時、予算やマンパワーの課題もあり、デジタルを強化しきれていませんでした。

たとえば、シンガポールに住む日本人は約3万人と、市場はとても小さいことはご存じの通りです。

当然、事業を拡大し、収益を増やすためには、アジア各国の日本人以外のお客さまにご利用頂く必要があります。

ちょうどその頃から、日本政府の政策によるビザ緩和や円安によって、東南アジアの訪日需要も伸び始めていたため、各国の訪日需要の囲い込み施策を考えているうちにデジタル施策へ集中的に費用を投下したいと思うようになりました。

また、私がちょうどシンガポールに来たタイミングで、アジアの販売目標の設定方法を変えたことも、デジタル施策を強化する要因となりました。

もともとの販売目標は「シンガポール-羽田・成田のチケットをこれだけ売り上げましょう」と特にターゲットはお客さまの目的地や国籍等によるカテゴリ化はされていませんでした。

そこを我がチームは「日本人の日本行き」と「外国人の日本行き」等がわかるようにターゲットを変え、お客さまからの視点で販売目標とその進捗管理を強化できるようにしてくれました。

──なるほど。そこで紙媒体に加えデジタル施策を強化する必要が出てきたわけですね。

そうです。特に、シンガポール人にアプローチする場合、紙媒体では効果が図りにくいと考え、デジタル施策を増やしていくことにしました。

そこで、以前から取り引きのあったマイクロアドさんに相談し、デジタル施策を後押ししてもらうことになりました。

日々データを見ていると地元のひとたちの行動がわかってくる

──これまでどのようなデジタル施策を実行してきたのか

最近だと、スターウォーズのR2D2 ANA JETでチャンギ空港にチャーター便を飛ばし、その飛行機がシンガポールに滞在している時間を活用したキャンペーンを実施しました。

具体的には、シンガポールのチャンギ空港が独自にスターウォーズと提携したこともあり、チャンギ空港とANAのタイアップによって、抽選で40名のお客さまに、「R2D2 ANA JETのビジネスクラスで食事も楽しんで頂きながら、スターウォーズの映画を見れる、というキャンペーンを企画しました。

このキャンペーンでは、紙媒体は使わないと決め、すべてオンラインで告知をするようにしました。このデジタル施策も奏功し、プレスリリースの瞬間からキャンペーンの応募が勢いよく入りました。

こうした経験からも、アジア市場で戦うにはデジタル施策が非常に重要であるということ再認識しました。これまでの営業も大切ですが、それだけでは、マーケットの成長スピードについていけないと感じています。

──デジタル施策で気をつけていることは

マイクロアドさんのサポートを受け実施しているデジタル施策で学んだことですが、「運用が非常に大事」だと思っています。

別の言葉でいうと、日々データを見て感じる疑問を一つひとつクリアにすること、そのプロセスにおいて各国の人たちの習慣や考え方、行動や一つずつがわかってくるので、どのような施策を打てばいいのかが見えてくる。

最新テクノロジーの導入ではなく、こうした日々のデータ運用から見えることが最も重要だと思います。

「アジア」は、最近注目されていますが、一つでくくられて見る傾向があります。

しかし、国によって人々の習慣や行動特性は異なります。さらにいうと、同じ国のなかでも地域や生活水準などで行動パターンが違ってきます。

こうした特徴を、データから見える疑問を払拭することによって新しいアプローチ方法が見えてきます。

たとえば、ベトナムではCốc Cốc(コック・コック)という検索エンジンが人気で、Googleより使われているということは日々のデータ運用をしていなければわからなかったことです。

グローバリゼーションよりも、ローカライゼーション、そしてその先のパーソナライズが、アジア市場で生き残っていくために必要だと思います。
 02 (6)

丸投げ厳禁 連携の緊密化も重要

サイトまで誘導してもらうのがアドテク、来てもらうコンテンツを準備するのはわれわれと役割は分かれていますが、ここをデジタルエージェントに任せきりにしないことが大切だと思います。

──任せきりにしないために、どのようなことに気をつけていますか

われわれの目標や戦略を詳細に共有することにしています。

マイクロアドさんに「クライアント側がここまで情報開示するのは非常にめずらしい」と言われるほど、具体的な目標値だけでなく、やりたいことを明確化し、アジアではこうやりたい、ここまでやりたいと、詳細なターゲットを共有するようにしています。

情報共有をしっかりすれば、提案する側の理解が深まり、われわれが本当にやりたいことを達成するための提案を受けることができます。

デジタル施策を仕掛け、アジアのANAファンを増やす

──今後はどのようなデジタルキャンペーンを打つ計画ですか

今伸びている訪日需要を取り込むためにアジアの複数国をカバーできるWIFIキャンペーンや北海道キャンペーンなどを考えています。

シンガポールだけでなくインドネシアやマレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどの周辺市場でもしっかり足場を固めたいですね。

注力すべきは、自国キャリアが強い航空市場で、ANAファンをどのように増やすかということ。そのために、デジタル施策のほかに、アジアの航空会社との提携強化も重要になると考えています。

また、中長期的には、このまま行くと訪日ブームは、どこかで落ち着くので、この流れを止めないために、日本が一丸となって海外の人たちが何度も日本に行きたいと思ってもらえる流れをつくることも重要だと考えています。

さらには観光だけでなくビジネス目的で訪日する人を増やす施策も重要だと思います。

シンガポールはMICE(企業会議・研修旅行・国際会議・見本市)や海外企業の誘致で成功しており、アジア統括拠点を置いている企業も多いため、定期的にビジネスで訪れるひとはたくさんいます。日本が参考にできるところは多くあるように思えます。やはりここでもデジタルをいかに活用できるかが勝負になると思います。

東南アジアの次はインドという巨大市場も待っています。これからもいろいろな施策で勝負していきたいですね。

アジア市場の訪日需要はまだまだ伸びる見込みだ。マイクロアドとタッグを組みデジタル戦略を促進するANAのアジア事業はどこまで拡大するのか、今後も注目していきたい。

(執筆:細谷元、編集:岡徳之)