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三木谷社長が、ドローンを語る

楽天が“オールスター”で挑む「ドローン産業革命」

2016/4/26

世界的にも先進的

「完全自動制御のドローンで、実際にショッピングをしたものが届くのは、世界でも初めてではないか」

4月25日、楽天が、ドローンを使った配送サービス「そら楽」をスタート。楽天の三木谷宏史社長は会見で、ドローンにかける思いを語った。

5月9日からスタートする第一弾のサービスの舞台は千葉県のゴルフ場。ゴルフ場でプレーする顧客が、アプリでゴルフ用品、軽食、飲み物などを注文すると、実際にドローンが商品を届けてくれるというサービスだ。
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まずはゴルフ場での展開に限定されるが、今後は、過疎地への配送、災害時の緊急物資の輸送にも活用。ゆくゆくは楽天市場の商品の配送にも使っていく見込みだ。

「プランはすでにいくつかあるので、できるだけ早い段階で大規模な展開をしていきたい」(三木谷氏)。

楽天の取り組みは、世界的に見ても先進的と言える。

世界でも、ドローンによる配送はスイスやドイツなどで“実験”されているが、商用ベースでの実用化には至っていない。2013年にドローンの配送を発表したアマゾンも未だ足踏み状態にある。

ドローンの第一人者

そんな中、なぜ楽天はいち早く実用化できたのか。

1つ目の理由は、政府の後押しだ。

三木谷社長が「驚くほどアグレッシブ」(三木谷社長)というほどに、安倍政権は、ドローンに入れ込んでいる。ドローンを成長戦略の柱の一つと位置づけ、3年以内にドローンによる宅配の実現を目指すと宣言。航空法を改正して、ドローンの商用利用を想定したルールづくりに取り組む意向だ。

2つ目は、人材だ。

今回、楽天が配送サービスに使用するドローンは、楽天と自律制御システム研究所(ACSL)が共同開発したものだ。

自律制御システム研究所の社長を務めるのは、「ドローン開発の第一人者」である、野波健蔵氏。1998年からドローン開発に取り組んできた、プロ中のプロだ。

三木谷氏とともに会見する、野波氏。「今日、空の産業革命が始まった」と語った

三木谷氏とともに会見する、野波氏。「今日、空の産業革命が始まった」と語った

半年前に、野波氏が三木谷社長に自社のドローンを売り込んだところ、とんとん拍子に話が進み、今年1月には事業化が決定。3月には楽天からの出資が決まり、今回の事業スタートに至った。

ACSLは、東京大学エッジキャピタル(UTEC)からも出資を受けており、ドローン研究で著名な鈴木真二・東京大学大学院教授など、東大の研究者たちともコラボレーションしている。

つまり、今回のプロジェクトは、当代一流のドローン研究者たちに三木谷社長を加えた “日本オールスター”によって運営されていると言っても過言ではない。

一次元から三次元へ

この“日本オールスター”による取り組みは、単なるひとつの事業にとどまらないだろう。この取り組みの成否は、日本全体のドローン事業にも影響を与えるだろう。

では、三木谷氏と野波氏は、ドローン事業についてどのような展望を抱いているのか。今後の課題は何なのか。アマゾン、中国勢など海外のライバルとどう差別化するのか。

2人の質疑応答の要約を以下にまとめた。

<三木谷氏とのQ&A>

Q:ドローンが当たり前になる時期は?

5年後か10年後かはわかりませんが、少なくとも10年後には当たり前になっているでしょう。

海外に行くと、自動運転が必然というか、「必ずそうなるんだ」となりつつあります。完全に全部の車が自動運転になるかは別として、かなり多くの車が自動運転で走っているという時代が、5年後あるいは10年後に来ているのはあきらかだと思います。

安全性の問題はありますが、自動走行と何が違うかと言うと、道路が基本的に一次元であるのに対して、空は三次元だということです。物流が、一次元から三次元に広がることにより、爆発的な効率性の実現が可能になるわけです。基本的に、道路の渋滞がないわけですから。

現在、過疎地に住んでいるお年寄りの方にものを届けるのはすごくコストがかかっていますが、(ドローンが普及すれば)ぜひ届けたいというときに届けることができるようになります。

そして将来的には、C to Cでモノを届けることもできると思っています。わたしもこんな時代がくるとは5年前は思ってもみませんでしたが、結構実現していくのではないかと思います。

Q:アマゾンについて

アマゾンのことはよくわからないですね。

自分たちは自分たちのやり方でやる。僕らのビジネスのスタンスはいつもそうです。

たとえば、楽天であれば日本の会社ですから、災害の救助だったり、過疎地であったり、ユニバーサルにサービスを展開していきます。日本の地理的な状況を勘案した上で、日本に特化したサービスであることがいちばん大きな差別化だと思います。

Q:楽天市場でのドローン活用

最終的には、楽天市場の商品をドローンで送れるようにしたい。

実は経済合理的に言っても、都市部では人が運んだほうが有利な部分はあると思うのですが、人口の密集度によっては、ドローンで届けたほうが安全だし、コストも安いということも充分考えられます。

Q:差別化のための重要な要素

基本的には、正確に届ける、安全に届けるということがいちばん重要になると思います。

画像認識技術がなぜ大事かというと、単なるGPSロケーションだけでは、正確に50センチ以内の誤差をなかなか読み取れないからです。

Q:ドローンのコスト

まず物流の最大のコストはやはり人間です。(ドローンの場合)人件費はゼロなのでコスト的には合います。飛行距離にもよりますが、将来的にはかなりのパーセンテージがドローンになってもおかしくありません。

最初の段階から利益を出すのはイメージしていません。コメと水とかは難しいと思うのですが、軽いけれども生活必需品で緊急性の高いものについては、商用ベースにものるかもしれないと思っています。

将来的には、重量も距離もスピードも上げていくことになると思うので、かなり大きなものでも空で運べるようになるかもしれません。道路の上をトラックで運ぶというのが基本的な概念だったのが、空という誰も使っていないスペースがあっということです。ふと思ったのですよ、空は三次元で渋滞しないよねと。

Q:都市部での展開

都市部もインフラさえ整えば、充分商用にのると思います。そのためにはインフラの整備が必要になるので、そこまで全体的に全国の都市部で展開するには環境整備が必要だと思っています。専用の着陸ポイントであるとか。

Q:海外への展開

もちろん海外も見据えていきますが、風という意味では、日本はかなり強いので、日本で飛べれば海外でも飛べるのではないかと思っています。

海外のとある自動運転の会社に行ったら、やっぱり自動運転の車は怖いからということで、効果音やデザインもすごくかわいらしくしたりしていました。

それを聞いた時に、黒よりもかわいらしくてアクセシブルなピンクがいいのではないかと思ったのです。かわいらしいのはピンクかなと。怖いクロがくるよりも。
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日本復活のチャンス

<野波氏とのQ&A>

米航空宇宙局(NASA)研究員、千葉大学教授を経て、2013年に起業した野波氏。2001年には日本で最初に小型無人ヘリの完全自律制御に成功した

米航空宇宙局(NASA)研究員、千葉大学教授を経て、2013年に起業した野波氏。2001年には日本で最初に小型無人ヘリの完全自律制御に成功した

Q:今回のドローンの強みは?

われわれのフライトコントロールは、風に強い線形制御を実施しています。これは世界でどこもやっていません。

ですから、ゴルフ場は山あり谷ありで、風速8メートル〜10メートルにもなります。しかも風は一定風速ではなく、強いときは、がっと吹きます。そうしたとき、外国製のドローンはふらふらとして、見ていても危ないと思う時があります。

一方、われわれのドローンは、ぐっと踏ん張ります。スピードを緩めて、じっと風が弱くなるのを待つという機能が入っています。

Q:世界で勝つチャンス

今、日本は成長戦略として国を上げてドローンをやろうとしていますから、その意味で追い風という面はあります。日本は出遅れた分、ここで巻き返すチャンスが来ています。

日本は、IT分野には弱く、コンピューターやスマートフォンといった分野で負けて、コアなところはアメリカにとられてしまいました。

一方、ドローンの場合は「モノ」です。ものづくり産業、つまり、車の延長線上のようなところもあります。もちろんソフトも重要ですが、ハードの部分が全体の50%ぐらいを占めます。ハードがあって初めてソフトが活きるのです。

ドローンの場合、とくにモーターやバッテリーの技術が重要です。これが日本の強みであり、ドローンでもう一度、日本の産業が復活できるのではないかと思っています。

Q:アマゾンにハードは難しい?

アメリカはおもちゃみたいなものしかできないし、中国もおもちゃみたいなものしかできない。ホビー用は中国が圧倒的なシェアを持ちましたが、これから日本やドイツの産業が強いというところに、また戻ってくると思います。歴史は繰り返しますから。