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楽天のボールパークビジネス

東北6県にドブ板営業。名実ともに“東北”のイーグルスへ

2016/4/19

宮城以外は「よそ者扱い」

東北楽天ゴールデンイーグルスは、プロ野球12球団で唯一、チーム名に都道府県名・都市名ではなく、地域名を入れている。

背景にあるのは、東北地方に本拠地を置くたった一つの球団として、宮城県だけではなく東北6県に愛されるチームに育てたいという想い。

ただ、そう簡単では当然なかった。新球団だけに宮城のファン獲得を優先せざるを得ず、宮城では地元のチームとして徐々に認められたが、そのほかの5県では「よそ者扱い」。「チーム名に『東北』を冠していても、イーグルスがホームチームだと思っている人はほとんどいなかった」

そんな状況を変えるために、テコ入れに動いたのが約4年前。初の優勝・日本一の座に就く1年ほど前のことだった。

名実ともに、“東北”の楽天ゴールデンイーグルスになろうと球団スタッフが奮闘してきた軌跡を取材した。

立花体制で動き出した東北攻略

球団創設から10年が経った2012年、立花陽三氏が球団の社長に就任したことを機に、イーグルスの東北、特に宮城を除いた5県でのファン獲得活動は一気に動き始めたという。

それまでは、東北地域でのファン獲得を掲げていたものの「他県での取り組みは手薄だった」と江副翠・事業部部長は当時を振り返って打ち明ける。

「立花が描いた中長期戦略で、改めて『東北にもっと目を向けよう』という方針が打ち出された。宮城県内のファンを増やすためにまだやることはある。そんな意識があったのと、目先のビジネスだけをみれば宮城に限定したほうが合理的だから、東北に輪を広げる活動を疑問視する見方はあった。ただ、球団ができて約10年、次のステップに進むために、長い目でみて東北にファンの土台を広げることが大切だと、みんなの意識が一致した」

江副翠・事業部部長。慶應義塾大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。スポーツビジネスに携わりたいと思いから、2009年に楽天野球団に移籍した。楽天野球団の立花陽三社長とはゴールドマン・サックス時代に先輩・後輩の間柄だったが、楽天で働くことになったのは「まったくの偶然」

江副翠
事業部部長
慶應義塾大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。スポーツビジネスに携わりたいと思いから、2009年に楽天野球団に移籍した。楽天野球団の立花陽三社長とはゴールドマン・サックス時代に先輩・後輩の間柄だったが、楽天でまたともに働くことになったのは「まったくの偶然」

地方試合の満足度向上

明確な方針が打ち出されたことで、宮城以外の東北5県のファン獲得活動に拍車がかかる。

その取り組みの一つが、東北の各県で開催されるイーグルス主催試合のPRとチケット販売、そして運営方法の変更だ。

イーグルスは、青森を除く秋田、岩手、山形、福島の4県で年間1回、1軍の公式戦を主催している。球場に来て野球を観てもらい、近隣で開催されるイベントにも参加してもらい、時にはプレゼントを渡して帰ってもらう──。

それが楽天が描くファンへのおもてなしだけに、4県での主催試合はファンにサービスを提供できる絶好のチャンス。主催試合を増やすことは容易ではないだけに「この少ない機会をどれだけファンに喜んでもらえる場所にするかをまず考えた」

チケットは自ら売る

その結論が「自主興行」。つまり、会場の手配やチケット販売、販促物の用意、スポンサーやパートナーの確保など、試合を開催する際に必要な一連の業務を球団スタッフが担うやり方だ。

通常、プロ野球チームが主催する試合のチケット販売は、専門業者に委託するのが一般的。このやり方であれば、手間はかからずコストも抑えることはできるが、チケットの売れ行きは委託先次第。各地域のファンの熱を感じることもできない。

そこで、自主興行に踏み切ったのだ。

「1カ月くらい前から各地に出向いてポスターを貼ってPRし、各企業や団体に挨拶しながらまとまった枚数を購入してもらうようにしたり、地元企業とパートナーシップを結んだり、スタッフ自ら足を使って販売活動している」

地方での主催試合の前にはスタッフ自ら告知活動。路上でもPRする

地方での主催試合の前にはスタッフ自ら告知活動。路上でもPRする

会場運営も自分たちでやる

「自主興行をやるからには、ホームスタジアムで開催する試合と同じ満足度を地方球場でも感じてもらいたい」という思いから、会場の運営も楽天野球団のスタッフが手がける。

それだけでなく、売店など「楽天Koboスタジアム宮城」で働くアルバイトスタッフもできるかぎり投入できるよう、呼びかけた。イベント会場の設営や片付けも自分たちでやるので、試合が長びいたときには、深夜の1〜2時くらいに終わることもある。
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会場内のセッティングや掃除も専門業者に委託せずに自分たちで行う

会場内のセッティングや掃除も専門業者に委託せずに自分たちで行う

地方球場で来場人数が少ないとはいえ、プロ野球の1軍公式戦を運営するマンパワーはそれなりにいる。

多いときには100人前後の社員が一同に集合し、大型バス5台くらいで地方球場に移動するという。楽天野球団の社員は約130人。ほぼ全員参加だ。

楽天野球団のスタッフ。地方主催試合は所属部門・役職関係なくほぼ全員参加。3〜4年前から恒例となっている

楽天野球団のスタッフ。地方主催試合は所属部門・役職関係なくほぼ全員参加。3〜4年前から恒例となっている

地方主催試合、初の完売

2015年、秋田と岩手、山形、そして福島で開いた主催試合すべてのチケットが、初めて完売した。また、東北4県のファンクラブ会員は2015年に過去最高に達した。

「自らチケットを販売しなければ成し遂げられなかった。委託したほうが利益も多くて、地方球場での収支はトントンくらい。それでも、観客の声を感じ、社員ほぼ全員参加での手づくりの地方試合は社員の意識改革にもつながった」

今年も球場のファシリティの問題で開催できない青森を除き、4県での地方主催試合を予定している。最高のファンサービスを提供する場として主催試合を重視し、採算悪化を覚悟して進めた自主興行。名実ともに、東北のイーグルスになろうと、ドブ板営業が今年も始まっている。

(写真:©Rakuten Eagles)

<連載「東北楽天ゴールデンイーグルスのボールパークビジネス」概要>
2004年に球団創設して以来、東北で着実にファンを獲得してきた東北楽天ゴールデンイーグルス。本拠地をボールパークと捉え、充実したファンサービスを行いながら球界に新風を吹き込んできた球団の取り組みについてリポートする。