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「話す」より「聞く」。「聞く」より「見る」

会話を楽しめない。どうすれば話し上手になれる?

2016/3/30
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への質問】

私立大学の4年生です。会話を楽しめる人が少ないことが悩みです。 私は、会話の中で新しい発見や学びを得ることがとても好きです。社会問題や人生についての自分の価値観を表明し、それに対して相手も面白いと思ってくれる「議論」のような会話ができる人と話すと、幸福を感じます。

しかし、誰もがこうしたいわゆる「意識高い系の会話」を求めているわけではありません。誰かのうわさ話や悪口、自慢話といった中身のない話を続けられると、「なんて生産性がないんだろう」と意義を見いだせず、それ以上会話する気が起きません。

いくら私とまったく違う価値観を持っていても、そこにその人の信念があれば、私は面白いと思って会話を楽しめます。 しかし、全然何も考えてない風のまにまに浮かぶ浮標のような人には、どうしても興味が持てません。

だからといって、そういう人たちを切り捨てて、自分の好きな人たちだけと一緒にいればいいという考え方には疑問があります。 世の中にはさまざまなタイプの人間が存在するため、どうせならいろんな人と親しくなれたほうが、人生がより豊かになる気がするからです。

そう思って、そこまで興味の持てない飲み会に参加したりもするのですが、大概そこにいる人たちに興味を持てなくて、黙り込んでしまいます。 山崎さんはどうやったらいろんな人に興味を持てて会話を楽しめると思いますか?

いつも面白いご回答をされている山崎さんに、ぜひお答えいただきたいと思っております。

(大学生、男性、20代)

他人に厳しい年代

相談者は大学4年生でいらっしゃるのですね。しばらくは、大変でしょう。ご苦労なことです。

当面のアドバイスとしては、相談者がツマラナイと思う人々と話をする「努力」は一切必要ないと申し上げます。無理に話などしなくてもいいと思います。

何歳がピークかは人によるのでしょうが、思春期から20代前半くらいの年代はもっとも「他人に厳しい」時期です。接する他人のほとんどに対して、相手の欠点が先に目につき、「こいつも、ダメなのか」とガッカリしたり、腹を立てたりしやすいのが、この年代の典型的な気分です。

回答者は、やや精神の成長がオクテでありましたが、大学時代、さらに新入社員時代(よりももう少し後まで続きましたが)は他人の欠点ばかりが見え、また、自分の期待に応えてくれる他人がいないことにイライラしている「感じの悪い青年」でした。加えて、自分に自信がないことの裏返しで、自分よりも何かで劣る他人に対しては、まったく容赦なく(しかも案外上手に)軽蔑を表現する迷惑な若者でもありました。

この時期は、自分を満足させる他人を焦って求めるべきではありません。

せっかく意識が活性化しているのですから、哲学の本でも読んで理性の筋トレをしておくのがいいと思います。バカ(相談者から見て)を相手に話をする努力などやめて、本を読みましょう。

内容にありがたみを感じつつも、パッと読んだだけでは十分理解できない対象であれば、何を読むのでもいいと思いますが、あえて薦めるなら、カントがいいでしょうか。平たい言葉でもありがたみを感じることができるなら、プラトンでもいいかもしれません。もっとケレン味のある哲人でも構いませんが、難しいと思う本を読んでください(小説はたぶん時間の無駄です)。

さて、どんな哲学と対話したにせよ、その対象は人間の何か(認識とか、理性とか、本性とか)なので、いずれ「人間」というものに対して興味が湧いてくるはずです。

そのときに相談者は他人に興味が湧くでしょうし、他人の話を聞いてみたくもなるでしょう。断言しますが、この世の中で一番面白いものは「人間」であり、とりわけ「他人」です。

ただし、すべての他人が面白いとは限りませんし、他人の面白さを感じる側にも能力(理解力と感性)が必要です。当面は、後者を拡張しつつ、出会いを待つしかありません。保証はしませんが、自分が面白い人になる頃には、面白い他人が自然に周囲に現れるはずです。

ひとつの明るい希望は、相談者が今後「仕事」に就くであろうことです。仕事を通じて、いろいろな人間と会います。その中には、面白い人や話の合う人がいる可能性があります。

大学は、自由な人間関係を持つことができる一見多様性に満ちた出会いの場ですが、学生も教師も似たような者同士が集まりがちで、意外なくらい「世間が狭い」人間空間です。

この点、「仕事」が介在すると、さまざま人といや応なく出会うことになるので、大学の中にいるよりも、面白い人に会う可能性が大きいように思います。将来の出会いにおおいに期待して下さい。

まずは「聞く」こと、極意は「見る」こと

当面、自分が面白い話ができるか否かを気にする必要はありません。その人の中身が面白くないのに、話だけが面白いということはあり得ないので、話のウケだけを気にすることはまったく無駄です。

話が面白くない人の最大の特色は、他人の話を聞かないことです。人は、自分の話を聞いてくれる人に好感を持ちますし、そういう人がする話を面白いと感じます。

まずは、他人の話を丁寧に聞くことです。他人の話の内容や他人そのものに対する興味を持つことができない人は、他人の関心と無関係に自分の身の回りの話や自分が用意した話を一方的に語ることになるわけですが、こんな人の話が面白いわけがありません。

これが、飲み会で会った人々の話を相談者がツマラナイと思った理由であると同時に、彼らもまた相談者の話をツマラナイと思った理由でもあるはずです。ツマラナイと思われているわけですから、「黙り込んで」しまうことになるのも当然です。

相手の話を聞いて、これに反応する。反応があるから、相手はさらに深い話をしようとする。これに応えていくうちに、相手に伝えたいことが思い浮かぶので、相手に話す。こうした話なら、相手にとっても興味深いので、相手も話を聞いてくれる。興味を持って話を聞いてくれて、反応があるからお互いにうれしいし、相手がうれしいのだとわかると自分もうれしい。そして、お互いにうれしいときに交わされている話が、つまりは「面白い話」です。

このように相手との関係性があって、はじめて話が面白くなるのであって、相手の話をよく聞くのでなければ面白い話はしようがないし、面白くない話はしても仕方がないという構造になっています。

自分の話を聞いてもらうためには、相手の話をよく聞くところから始めなければなりません。そして、相手に興味を持つことです。一般に、話のうまい人は同時に「聞き上手」でもあるといわれていますが、これはその通りです。「聞き下手の話し上手」は、まず存在しません。

あえてコツを付け加えるなら、「よく聞く」ことに加えて、相手を「よく見る」ことでしょうか。相手が話す様子や聞く様子を見ることによって、相手の気持ちがどういう状態にあるかがわかり、相手に対する働きかけの精度と質が高まります。

文章を書く場合も、読み手の状態を「見る」ような気持ちで反射神経を働かせて言葉を選ぶと、うまくいくことがあるように思います。

まずは、相手の話を「興味を持って、よく聞く」ところから始めてみてください。相手の話をよく聞くようになると、女性からモテるようになるという小さくない副産物があるとも聞きます。

他人に、興味と希望を持ちましょう。

※ 本連載は今回をもって休載します。