NPバナー.004

混乱下の躍進

日本対アフガニスタン戦が持つ、もう一つの「意味」

今日(24日)午後7時半、ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の日本対アフガニスタン戦が行われる。正直なところ両者には力の差があり、昨年9月の対戦では日本が6対0で圧勝した。

現在、日本は予選E組の首位に立ち(勝ち点16)、対するアフガニスタンは4位(勝ち点6)。日本代表のホーム試合の前売り券が約4年ぶりに完売しなかったのも、勝敗の行方が見えているからだろう。

ただし、ピッチの外に目を向ければ、この試合にはサッカーの枠を超えた大きな意味がある。

代表が担う社会的役割

アフガニスタンでは政情不安が続いており、外務省海外安全ホームページでもレベル4の退避勧告が出されている。そういう難しい状況の中でチームを組織し、予選に参加しているだけでも称賛に値することだ。

アフガニスタン代表を率いるペタル・セグルト監督(クロアチア出身)は、試合前日のミックスゾーンでこう語った。

「日本の選手たちは、サッカーだけに集中すればいいだろう。一方、私たちは違う。それ以外のことに多くの不安を抱えている。だが、それだけに今の代表には社会的に大きな役割があるんだ」

南アジア選手権で初優勝

アフガニスタン代表が国の大きな希望になったのは、2013年のことだ。

10年ぶりに国内で国際試合(対パキスタン)が開催され、さらに南アジア選手権では決勝でインドに勝って初優勝を果たした。選手たちが首都カブールに戻ると、人々が空港を取り囲んで大フィーバーになった。

DFムスタファ・ハディドは協会の公式インタビューで「街中から喝采を受け、感動的な体験だった」と振り返る。

セグルト監督(右)とキャプテンのシャイエステー(左)。同選手はアフガニスタンで生まれ、オランダで育った

セグルト監督(右)とキャプテンのファイサル・シャイエステー(左)。同選手はアフガニスタンで生まれ、オランダで育った

中東の富豪が支援

依然として政情は安定せず、今回の2次予選のホーム試合も国内で開催できず、すべてイラン開催となった。代表チームの合宿も、安全を考慮してカタールで行われている。

それでもサッカー熱の高まりは、もう誰にもとめられない。

2015年4月にはアラブ首長国連邦(UAE)に本社を置くアルコザイ・グループがスポンサーになり、一気に資金力がアップ。この企業はアフガニスタン系の社長が経営する食品会社で、中東やロシアだけでなく、アフガニスタンにも大きな投資をし始めた。

同社の支援によって、代表はカタールで合宿を行えるようになり(今回の日本戦前にもカタールで合宿を行った)、さらに7月にはドイツでアフガニスタン系選手を対象にしたセレクションを実施することができた。

難民の子どもたちが選手として成長

実は今回の日本遠征に来たメンバーの中に、アフガニスタン国内に住む選手は6人しかいない。

今、代表の中心となっているのは、ヨーロッパで生活する選手たちだ。ソ連のアフガニスタン侵攻以降、家族とともに国を離れた子どもたちが、ヨーロッパの近代的な育成を受けて成長したのだ。

たとえば左サイドバックのハッサン・アミン(24歳)は、ドイツのダルムシュタットで生まれ育った“2世”だ。ダルムシュタットの下部組織で育成され、フランクフルトのセカンドチームを経て、2014年からドイツ4部のザールブリュッケンでプレーしている。ちなみに代理人は、香川真司と同じトーマス・クロート氏である。

ドイツ生まれの彼にとって、祖国の代表はどう見えるのか。埼玉スタジアムのミックスゾーンで、アミンは言った。

「確かにこのチームにはいろいろな国に住む選手が集まっていて、チーム内では英語、ドイツ語、ダリー語(アフガン・ペルシア語)が飛び交っている。ただ、意思疎通で大事なのは言葉ではないよね? 大事なのは気持ちだよ。監督もヨーロッパの選手と国内の選手が融合するように働きかけている。自分自身、アフガニスタンへは2回しか行ったことがないけれど、この代表でプレーできるのは大きな誇りだ。スポンサーの助けもあって環境も大きく改善した。代表の未来はすごく明るいと感じている」

いとこはドイツ代表を選択

2歳のときにフランクフルトに移住したFWズバイル・アミリ(25歳)も同意見だ。彼自身はドイツ5部のヘッセン・ドライアイヒでプレーしているアマチュア選手だが、いとこのナディエム・アミリがドイツ1部のホッフェンハイムでブレークし、ドイツU21代表に選ばれている。サッカー一家という誇りが、彼の自信になっている。

「いとこはドイツ代表を選び、今週もドイツU21代表の試合に行っているんだ。一方、自分は競技レベルを考えてアフガニスタンを選んだ。それは消去法ではないよ。ハートの問題だ。治安の問題があって簡単に行くことはできないけれど、自分にとっての母国はアフガニスタンだ。代表と国の発展に貢献したい」

国内組をあえて選ぶ理由

こうやってヨーロッパの育成を受けられる移民に対して、国内はとてもサッカーの練習に打ち込める環境ではない。セグルト監督は解説する。

「アフガニスタンの国内リーグは6週間しか行われず、約11カ月は休みだ。競技力を上げるのが非常に難しい状況にある。実力だけを見たら、ほぼ全員がヨーロッパの選手になってもおかしくない」

では、なぜ国内組を入れるのか。そこには明確な理由がある。

「国内の選手が代表に入ることによって、人々が希望を持つことができるからだ。だからあえて国内選手を選ぶ。今回の6人は、彼らはヨーロッパの選手たちから多くのことを学べるはずだ」

アフガニスタンの人たちは、日本戦で国内組の選手がピッチに立つ瞬間を待ち望んでいるに違いない。

サッカーが持つ特徴の一つは、国際サッカー連盟(FIFA)が政治からの独立を重んじており、どんなに国が混乱していても、代表チームをサポートすることだろう。シリアも、北朝鮮も、イエメンも、今回のW杯予選に参加している。

サッカーは世界へとつながる扉である。アフガニスタンを身近に感じられるという点において、日本にとっても価値ある試合になる。