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「低コストで月面に人類の居住地を建設する方法はあるのか」。2014年8月に開催されたあるワークショップで議論された結果をまとめた9本の論文が、このほど『New Space』特別号に掲載された。後編では「小規模な月面基地なら100億ドル以下で建設でき、それも2022年までに実現可能」との結論を裏づける技術を紹介する。
前編:2022年「人類が月に移住する日」が現実になる(前編)

月での生存を支える技術

基本的なレベルでは、われわれはすでに月で生き延びるための方法を知っている。長年にわたってISSに人が滞在しているからだ。

「宇宙空間におけるPLSS(physicochemical life-support system:物理化学的生命維持システム)技術の有効性は、過去14年にわたってISSで実証されている」とある論文は述べている。

PLSSとは、宇宙ステーションで水を再利用し、酸素と二酸化炭素のバランスを調整する生命維持システムだ。「人類初の月定住を支える生命維持技術を、われわれは現時点で十分に有している」

そうした技術で生命を維持する一方で、スペースXのロケットで物資補給を行えば、現在の打ち上げコストでも、クルー10人分の食糧や必需品を年間3億5000万ドル以下で補給できると、この論文は試算している。

また、その他の既存技術を応用して、月面基地にかかるコストを抑える提案もなされている。例えば、仮想現実(VR)を計画段階に役立てるといったことだ。

データセットからなる知識ベースを組み込んだVRの月面環境は、さまざまなチームの計画案を試して改良したり、運用シナリオの開発や予測をこなす強力なツールとなる可能性がある。

さらにそこへ、熱環境試験、構造物、CAD/CAM、付加製造、および3Dプリンティングといったエンジニアリング・ソフトウェアを統合することで、トニー・スターク式の(映画『アイアンマン』第1作に登場するVR環境のような)プロトタイピング環境が実現し、月開発計画が飛躍的に進化するかもしれない。

また、一部の問題を実際に月へ行く前に特定したり、解決したりすることが可能になるかもしれない。

さらに、3Dプリンティング技術を利用すれば、月面基地で故障した小型の部品類を現地で補充できるようになる。物資の打ち上げコストを削減できるわけだ。

NASAの開発技術が民間にスピンオフされる時代は、もう終わりつつあるのかもしれない。

これまでは、宇宙飛行のために開発された高度に専門的な(そして高価な)技術が、やがて日常的な製品に応用されるというパターンだったが、これからは日常的な製品が宇宙飛行に応用される可能性があると、米航空宇宙局(NASA)の宇宙生物学者クリストファー・マッケイは述べる。

「個人的に気に入っているのは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の『トイレ再発明チャレンジ』だ。このプログラムでは、人間の排泄物を浄化してエネルギーや浄水、農業用肥料として再利用する新たなアイデアを募っている」

「NASAは数十億ドルをかけて宇宙用トイレを開発することもできるが、ゲイツ財団のチャレンジで開発された、排泄物をリサイクルできる青いトイレ(Blue Diversion Toilet)を買ってすませることもできる」とマッケイは言う。

次世代テクノロジーの実現へ

低コストの月面基地に関する提案の多くは、まだ実用化されていない技術を利用するものだ。とはいえ、それらの実現はそう遠い話ではない。

スペースXの「ファルコン9」ロケットを使えば、小さな貨物を手ごろなコストで月へ運ぶことはできるだろうが、居住施設のような大きな貨物を月へ運ぶには、より大型のロケットが必要になる。スペースXの大型ロケット「ファルコン・ヘビー」は今年打ち上げ予定だ。

それ以外の方法としては、軌道上でロケットの燃料を補給する技術などが考えられるが、こちらはまだ試験段階に達していない。

未来の月面居住施設の有力候補が、ビゲロー・エアロスペースの膨張式モジュールだ。このフレキシブルな居住モジュールは、折りたたんでロケットの貨物室に収められ、月面に到着したらポップアップテントのように展開できる。

同社は今年、このモジュールのテストバージョンをISSに打ち上げる計画であり、さらに2018年には、大型でカプセルのような形をした「BA-330」モジュールを打ち上げる予定だ。

ただし、ビゲローが主に目指しているのは、これらのモジュールを使って地球軌道上に商用宇宙ステーションを設置することであるため、放射線量がはるかに高い月面で利用するにはデザイン変更が必要な可能性がある。

月のどこに住むべきか

月で居住候補地を選ぶ際には4つの基本条件がある、とある論文は述べている。「電力が得られること」「通信が可能なこと」「資源に近接していること」「地形が移動しやすいこと」だ。

未来の月面基地においては、おそらく太陽が主要な電力源となる。ところが月面のほとんどの地域では、「夜」が354時間(約15日間)にわたって続く。バッテリー電源でしのぐには長い時間だ。

一方、月の両極は他の地域に比べてはるかに日照量が多く、夜の長さは約100時間(4日間)だ。したがって、最初の月面基地はおそらく、月の南極と北極のいずれかに建設されることになるだろう。

通信に関しては、常に地球に面している「月の表側」のほうが極地より有利だが、月面か軌道上に中継局を設置すれば安定した通信が可能になるはずだ。

また、極地には深くて暗いクレーター内に大量の水が凍った状態で存在するとみられるため、その意味でも極地に日照量が多く居住に適していることは好都合だ。この水を採取すれば、月面基地に水と酸素を供給できるし、ロケット燃料を作って収入源にすることもできる。

月の北極と南極の日照量は同程度だが、北極のほうが南極に比べて地形が平坦で移動がしやすく、資源を得るには有利だという。

論文では、低コストの月面基地を建設するのに特に適した場所として、北極のピアリー・クレーターのリム(縁の部分)を挙げている。

レーダーなどのリモートセンシングを使った探査の結果は、この地域に水またはその他の水素を含む分子が存在する可能性を示唆している。また、クレーター内部の地形が比較的平坦であるため、ロボットが寒冷なクレーター内部に入って資源を採掘しやすい。

NASAは現在、月面でどこに水などの資源があるか探査する小型衛星プロジェクト「ルナ・フラッシュライト」と「ルナ・アイスキューブ」を計画している。

このほかにも月の水分布を調査するミッションがいくつか計画されており、それらが月面基地の候補地選びにさらなる情報をもたらしてくれるだろう。

結局いくらかかるのか

これらの論文の一致した見解は、NASAは月面基地を100億ドルで建設可能であり、また建設後の維持費は年間約20億ドル以下に収まる、というものだ。

この維持費はNASAがISSに投じている年間費用と同程度になる。少し調整し直せば、これらの推定コストはNASAの現在の予算でまかなえる額だ。

それに、NASAだけで費用をまかなう必要はない。

「コストがかなり下がってきているので、NASAが実行すると考える必要さえないかもしれない」とマッケイは述べる。「民間企業が手がけることもありうる」

また2015年の研究では、広大な月の堆積層に水が存在すれば、水素から大量のロケット燃料を生産できるため、月面基地は自ら維持費をまかなうことが可能だと試算されている。

しかも、そうした月面基地は今後10年以内に実現する可能性がある。

ただし、実際に建設するとなると、政策の変更や技術の進歩が必要となるため、確実に10年以上かかるだろう。しかし、最も大きな問題は心理的な障壁だとマッケイは述べる。

「最大のハードルは、低コストの月面基地というビジョンを出発点にして、人々の賛同を得ることだ。もし人々が予算の無駄遣いだと思えば、そこで対話も意見交換も止まってしまう。人々の意識を変えることができれば、そこから対話が始まり、どうすれば実現できるか考えてもらえるようになる」

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Sarah Fecht、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:Michael Heywood/iStock)

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This article was produced in conjuction with IBM.