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基礎力強化なら主要三科目とプログラミング

大学時代にやらずに後悔したことはありますか?

2016/3/23
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への質問】

将来を考える際に山崎さんの人生&マネー相談をよく読ませていただいています。私は今受験勉強の真っ只中で、これから大学生になる身ですが、そんな私に必要であり、問われるものは何でしょうか。

また、山崎さんが大学生時代に心掛けてしていたこと、やればよかったと後悔していること、これだけはやっておけ!ということもお聞きしたいです。抽象的な質問ですが、答えていただけると嬉しいです。

(高校生、男性、10代)

将来への「投資」となる大学生生活

相談者は高校生なのですね。大学生時代をどう過ごすべきか、あらかじめ考えておられるとはいい心掛けです。

さて、回答者だけではなく大半の大人(自分が無駄に時間を過ごしてきたという自覚を持つ人のことです)が、日本の大学生はいかにも無駄に時間を過ごしていると思っているはずです。多くの学生が安からぬ学費を親や国に払わせつつ、それ以上に元気と吸収力のある時期の貴重な「時間」を将来に役立てることなく、空費しているように見えるからです。

彼らは、あたかも「人生の有給休暇期間」であるかのように大学生時代を過ごしています。しかし、この時期の価値を考えると、やはり将来に役立つ「投資」となるように使いたい。

あらかじめ申し上げておきますが、回答者は投資として有効だったと胸を張れるような立派な大学生生活を送ったわけではありません。

回答者は、意識の低いツマラナイ大学生でした。大学を十分生かしたとはとても言えませんし、「早く終わりたい」と思っていました。

経済学部を卒業して、ファンドマネージャーや経済評論家をしてきた職業人生なので、大学(の学業)と職業の関係は普通のサラリーマンの方々よりも近いほうだと思いますが、経済学も大学に入る前、あるいは出てから学んだことのほうが多かったように思います。

大学時代に得たものの内容を考えると、4年間のうち少なくとも1年間は余計であったような気がしています。これは、回答者にとって4年が長すぎたか、4年間をフルに生かせなかったかどちらかだ、という極めて残念な話です。山崎式の損得計算では「1年分」、すなわち大学入試で「一浪」するくらい人生の損をした大学時代だったという認識です。

誤解のないように付け加えますが、回答者にとって、自分の大学生時代は「楽しい時代」であり「いい思い出」です。少しは勉強もしましたし、いい先生にも出会いました。恋もしたし、部活(将棋部)もいい思い出です。しかし、大学時代を「投資」として評価すると、効率が悪かったということなのです。

【起業家志望者向け】大学生生活心得

さて、愚痴を述べつつ、自己正当化に走りそうな嫌な予感がしてきました。回答者自身の振り返りをやめて、ご相談に向き合うことにします。

大学時代にするべきことは、当然のことながら、ご本人が「何をしたいか」に強く依存します。

例えば、相談者が「起業したい!」という強い欲求を持っているとしましょう。この場合には、大学時代は元気があって、生活コストが安く、失敗のリカバリーが利く、起業を試すには絶好の時期です。

ベンチャー企業のインキュベーションを手掛けておられる、ある方に教えていただいた「インターネット・ベンチャーで起業したいと思う学生」向けの野心的時間割は以下の通りです。

(1)大学1年生の1年間は「死ぬ気で」プログラミングの勉強をする

(2)2年生の1年間は起業仲間捜しとアルバイトでの資金稼ぎ(300万円位貯めたら、「2人で半年くらい」のチャレンジができるそうです)

(3)3年生になったら、できるだけ早く自分が世に問いたいビジネスモデルでデビューする

(4)ネットのビジネスが「行けるか、ダメか」は5、6カ月もやればわかるので、行けそうなら、資金調達も考えつつ、そのまま起業に向かう

(5)ダメな感じなら、3年の冬くらいから「就活」の列に加わる

このプランのいいところは、起業に失敗してもロスなく普通のコースに戻る用意があるところです。ただし、1年生時点から自己投資を始めなければならないので、「大学に入ったから、まずは一休みして、ゆっくり人生を考えよう」と思うような「ぬるい学生」(昔の回答者もこの手合いでした)には無理です。

なお、堀江貴文さんがしばしばおっしゃっているように、ビジネスに必要な資金は自分に「信用」さえあれば、他人に出してもうのでもいい。アルバイトによる資金作りの時間は、短縮する工夫が可能かもしれません。

ビジネスマンとしては、たとえ失敗したとしても、起業へのチャレンジを行ってみることはいい経験になるのではないでしょうか。就活の際の話題としても、部活で副部長だったとか、学園祭でイベントを企画したとかいった、面接官も聞き飽きているまったくどうでもいい話よりも、断然強い印象を与えられるでしょう。

【普通の学生向け】大学生生活心得

さて、「起業」は社会にとって有意義で奨励されるべき行為ですが、惜しむらくは成功確率が小さく、普通は成功しません。

仮に相談者が、学生時代の回答者のようにマジメではあっても自己評価の低い慎重な性格の方なら、将来は会社なり官庁なりに就職する可能性をメインシナリオとしながら、大学生である「時間」をより有効に過ごす戦略を考えるべきでしょう。

そのために回答者がお勧めしたいのは、基礎学力の強化と大学教師の有効利用です。当たり前すぎてガッカリされるかも知れませんが、大学は勉強に向いた場所ですし、大学生時代は「まだ能力自体を伸ばすことができる『かもしれない』最後の数年間」です。

基礎学力として強化しておくといいのは、高校レベルの国語・数学・英語、いわゆる主要三教科とプログラミングです。

主要三教科の運用力は、人間が情報を入力・処理・表現する性能に直結し、仕事をするうえで一生関わり続ける能力です。おそらくは、現役大学生も、大卒者も、大半の方が主要三教科の学力が最も高かったのは大学入試時点でしょうが、これは惜しい。

以前にも本欄で書いたことがありますが、組織の中で「彼(彼女)はできる!」と言われている人が実際に使っている知識やスキルは、大部分が高校時代の主要三教科であり、これらをどれだけ自在に使うことができるかで(完璧に使える人は東大の卒業生にもほとんどいません)、仕事の能率にも他人からの評価にも大きな差がついていきます。

大学に入ったら、入試という余計なプレッシャーがない状態で主要三教科の強化にもう一度取り組んで、能力自体のレベルアップを試みてください。方法としては、参考書を「読書」するのでもいいでしょうし、ひたすら問題集を解くのでもいいでしょう。これは、人があまりやらないことの中で、効果の高いことの一つです。

プログラミングの勉強は、回答者が「やればよかった」と人生において後悔しているものの一つです。

先日、囲碁の世界最強棋士の一人である韓国のイ・セドル九段がグーグル傘下のディープマインド社が開発した囲碁ソフトに5番勝負で1勝4敗のスコアで敗れましたが、今後、知的とされている仕事の領域も含めて多くの作業がプログラムに置き換えられていくはずですし、今後有望なビジネスの多くが何らかの意味でコンピューター・システムに関連したものになると予想されます。

この場合に、

(1)単なるプログラムのユーザーなのか

(2)バックグラウンドで動いているシステムを、おおまかではあってもプログラム・レベルで理解しているのか

(3)自分でもプログラムを作ったり書き替えたりできるのか

の、どの段階にあるのかで、できる仕事や得られる成果が大きく変わるでしょう。

回答者の年齢(今年5月8日に58歳)では、勉強時間のコストを今後の成果で回収することが難しそうに思えるので、回答者は「スキルとしてのプログラミング」を勉強することを諦めていますが、「教養としてのプログラミング」はこれからでも学ぶほうがいいのかもしれません。相談者は十分な時間をお持ちなので、ぜひ勉強されるといいのではないでしょうか。

さて、もう一つ。大学教師の有効利用法についてご説明します。

大学の教師は大なり小なり教えることが好きですし、たいてい一つくらいは本人が一所懸命に取り組んだことのあるテーマと知識を持っています。まずは、ご自身が入学された大学の教員の著書と論文のタイトルと書かれた時期を一通り調べてみて下さい。

一つの大学には多くの教員がいて、著書だけでも相当の数があるはずです。なかには、定評のあるテキストの著者もいるでしょうし、分野によっては「大家」と呼ばれるような先生も見つかるはずです。興味を惹くテーマを扱った書籍は相当数見つかるのではないでしょうか。

もっとも、「大家」として有名な教授は研究者としてはすでに死に体であることが多い。厳しいけれどもぶつかり甲斐があり、知識・経験と活力のバランスが取れているのは、准教授と教授の境目くらいの先生です。「師」に持つには、こうした先生が狙い目でしょう。

さて、興味を持った先生に対して、

(1)著作(または論文)を読む
 (2)授業に潜る
 (3)授業の後で著作に関連する質問をしに行く

といったステップを踏むと、話をするきっかけができます。少なくとも著作の内容に関して著者に直接質問できる人間関係を作ることができますし、高い確率でその先生と親しく話せる関係を作ることができるでしょう。

親しくなれば、勉強法のガイドを頼むこともできますし、人生相談にも応じてくれるでしょう。有力な大人を一人、人生の味方につけることができます。

この場合、先にその人が書いた著作を読む一手間を惜しんではなりません。相手に対して、尊敬を伴った興味を示すことが有効なのは、面接と同じです。

大学の教員は偉そうに見えるかもしれませんが、大半の人は他人が自分をどう評価しているかに極めて敏感な「自己承認欲求の塊」です。単に質問するだけでなく、相手に対する興味を示す機会を作りましょう。一手間掛けてアプローチすると、「思ったよりも親切だ」と感じることが多いはずです。

大学にはビジネスに役立ちそうなものだけでも、経済学、経営学、各種の法律、多数の外国語、会計、統計、コンピューターなどについて学ぶ機会が用意されており、講義だけでは不十分であるとしても、専門の先生に食いつけば、少なくとも勉強の仕方は懇切丁寧に教えてくれるはずです。せっかく大学に入ったのなら、存分に利用しましょう。大学時代は、「周辺科目」に見えたものが、社会に出てみると案外「実用科目」だったということがよくあります。

ついでに、回答者が大学生活にあってムダだと思うものを列挙しておきます。多少議論の余地のあるものも混ぜておきましたが、それぞれについてご自身でよく考えてみてください。

(1)偏差値50以下の学力で大学に行くこと(大学でなく自分の学力についてであることに注意)
 (2)入学式・卒業式(文句なくくだらない。感動無用)
 (3)長距離通学(時間の無駄)
 (4)学園祭(三流のお祭り)
 (5)バカ長い夏休みと春休み(たぶん教師のためにあるのでしょう)
 (6)部活・サークル活動(時間のコストを考えて参加して下さい)
 (7)アルバイト(できればここに時間を使いたくない)
 (8)就職指導(自分で考えろ)
 (9)卒業旅行(旅行を卒業と関連付ける必要は無い)
 (10)同窓会(就職後も仲間内で群れるセコさよ。人脈は自分で作れ)

なお、友達づきあい、恋愛、飲酒(早く自分の適量を掴め)、難しい本の読書、法律に触れない程度の喧嘩などは、おおいに推奨します。

何はともあれ、一番貴重な資源は「時間」です。

山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。