メルカリ山田社長「日本よりもアメリカ市場を取りにいく」
2016/3/21
特集第3部は「モノのシェア」。リリースからわずか2年半でフリマアプリのトップに躍り出たメルカリと、ネットオークション黎明(れいめい)期からビジネスを始め、日本のCtoC市場で圧倒的なシェアを持つヤフオク!の両者を取り上げる。前編ではメルカリ山田進太郎社長に、シェアリングエコノミー市場の展望を聞く。
若年層・女性を中心にユーザー数を広げ、日本唯一の「ユニコーン企業」(評価額が10億ドル以上の未上場企業)といわれるのが、フリマアプリのメルカリだ。
2013年7月のリリース以降、わずか2年半で国内外でのダウンロード件数は3200万件(日本2500万件、米国700万件)、国内の月間流通額は100億円に到達。出品者から売り上げの10%を手数料として受け取るビジネスモデルで、売上高42億円、売上総利益39億円(2015年6月期)と、高い粗利率を叩き出している(ただし、現状では投資を優先しているため、営業損益は11億円の赤字)。
また、スマートフォンの利用者数は、2016年1月時点で816万人(調査会社ニールセン推定)。前年からほぼ倍増するなど、日本のCtoC市場でガリバーとなっているヤフオク!を猛追する。
メルカリによって「所有からシェアへ」の流れが一段と加速したとも言われるなか、次にどのような手を打とうとしているのか。同社の山田進太郎社長に話を聞いた。
今ならヤフオク!と渡り合える
──山田さんは2013年にメルカリを創業しましたが、当時、フリマアプリに狙いを絞った理由は?
山田 1990年代末に、楽天で内定者インターンとして楽天オークションのチームにいたのですが、当時はヤフオク!(ヤフーオークション)がすごく強くて、勝てなかったんです。
その後、ウノウという会社を創業し、Zyngaに売却。Zynga Japanジェネラル・マネージャーを経て、半年強ほど世界一周旅行に出かけていたのですが、帰って来たら、みんなスマホを使いこなしていてびっくりしました。連絡先の交換も、ガラケーの赤外線通信から、LINEのふるふる機能に変わっていた。
PCはパーソナル・コンピュータといいながら、みんなが使うものにはならなかったけれども、スマホは違う。スマホの普及によって、個人対個人、つまりCtoCがより成立しやすくなった。
だから、フリマアプリはもしかしてものすごいチャンスがあるんじゃないか。このタイミングなら、これまでCtoC市場で不動の地位を保っていたヤフオク!とも渡り合えるのではないかと考えました。
その頃にはすでにヤフオク!のアプリはあったのですが、仕組みがけっこう複雑でした。それに、オークションには入札があるので、買いものをするのに時間がかかる。固定価格で売り買いできたり、スマホ上で操作してもらうことを前提につくられたアプリは当時なかったので、思いきって参入しました。
──なぜ、それまで競合他社はヤフオク!に勝てなかったのですか。
この手のビジネスはネットワーク効果が働きやすいので、一番商品が集まっているところで、商品がより高く売れやすい。だから、たとえ5%の手数料(現在は8.64%)があったとしても、競合より10%高く売れるのであれば、ヤフオク!が選ばれる。
ヤフオク!の場合、圧倒的なポジションを築いていたので、ほかのところが勝てなかったのだと思いますね。
逆に言えば、スマホではまだヤフオク!が圧倒的なポジションを築いていなかったので、チャンスがあるかもしれないと考えました。
スマホの時代に、オークション終了まで2~3日や1週間待つのは長過ぎます。また、今はかなり改善されていますが、当時は落札後の出品者との住所やお金のやりとりの煩雑さや、過去の詐欺事件でついてしまった「怖い」というイメージも強かったと思います。
そこで、僕たちは、お金をこちらで預かって仲介する仕組みにし、安心感を打ち出しました。当時CtoCについていた「難しそう」「怖い」というようなイメージを払拭(ふっしょく)しようと努力したのが、ポジティブなメッセージになったのかなと思います。
SNS感覚でアプリにアクセス
──メルカリを使っているのは主にどのようなユーザーですか。
インターネットのサービスはアーリーアダプターが使い始め、徐々に普通の人が使うのが一般的な傾向ですが、メルカリの場合は、地方の若い女性がいきなりダウンロードして使い始めたのが特徴的です。
特に、地方に住んでいて小さな子どもがいたりすると買い物に行きづらいので、アパレル商品などは地方住まいの人が買う傾向があります。
ただ、最近は出品される商品のバラエティも多様化してきていて、利用者の年齢層も上がってきています。男性もののファッションやエレクトロニクス、ガジェットも増えてきています。
何か目的があってアプリを開くというよりは、SNSのイメージで、「なにかいいものないかな」とタイムラインを眺めるユーザーが多い。あるいは、検索保存ができるので、「ナイキの何年のシューズ」といった検索条件を保存して、毎日チェックするユーザーもいます。
開発当初は、アプリへのアクセスを習慣化することを狙っていたわけではないのですが、買い手に効率的に商品に出会ってもらうことを重視して改善を繰り返したところ、滞在時間が延びていきました。
ですので、フタを開けてみたら、予想以上にウィンドウショッピングのような使われ方が多いという感覚を持っています。
山田 進太郎(やまだ・しんたろう)
メルカリ社長
1977年生まれ、愛知県出身。早稲田大学在学中に、楽天にて「楽オク」の立上げなどを経験。卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスを立上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。2012年退社後、世界一周を経て、2013年2月、メルカリを創業。
メルカリ社長
1977年生まれ、愛知県出身。早稲田大学在学中に、楽天にて「楽オク」の立上げなどを経験。卒業後、ウノウ設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネット・サービスを立上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。2012年退社後、世界一周を経て、2013年2月、メルカリを創業。
アメリカは「世界の縮図」
──メルカリがベンチマークにしている競合他社はありますか。
国内の競合他社よりは、アメリカで勝つということを意識しています。いまは開発陣の90%程度を投入するなどして、かなりのリソースをアメリカに使っています。一時的にですが、日本の数字のプライオリティは低く置き、「アメリカが取れればいい」と考えています。
というのも、イーベイとヤフオク!を比べると、イーベイのほうが10倍以上の流通総額があるんです。つまり、日本で失敗しても、海外で成功できれば、ビジネスチャンスは10倍です。それならば、まずアメリカを押さえたほうが、というロジックで動いています。
アメリカには「世界の縮図」みたいなところがあります。アメリカで成功すれば、ヨーロッパや中東、南アジアにも展開しやすいですし、グローバルスタンダードを押さえることになると思っているんです。
ホンダやソニーは、アメリカで成功したからこそ、世界的なブランドになりました。逆に、LINEがアジアで成功しても、アメリカが取れていないと、世界からは「アジアではやってるメッセンジャーサービス」という見られ方になってしまう。
メルカリはIPO(新規公開株)をいますぐできなくはないです。でも、アメリカ事業を成功させることができたら会社の規模がまた変わってくると思うので、IPOをせずに投資をさせてもらっているという状況です。
しかし、今のアメリカ事業は、規模感はまだまだです。毎月流通総額は伸びているし、US現地スタッフも30人規模になり、わりといいスタートを切っているものの、日本のリリース時と同じで「イーベイに勝てるわけがない」と思われていると感じます。
アメリカのVC(ベンチャーキャピタル)と話をしていても、「日本で成功しているのはわかったけど、アメリカではまだまだだよね」と言われてしまうので。ただここ1年くらいアメリカ向けの改善を重ねてきてかなりいいポジションまできていると思います。
──米国で認められるための一番大事なポイントは何ですか。
やっぱり、いいプロダクトをいかにつくれるかに尽きます。
ユニバーサルなプロダクトデザインは明確に存在していると思います。フェイスブックだって、インスタグラムだって、Gメールだって世界中で使われているじゃないですか。今のメルカリには、グローバルスタンダードになるにはまだ足りていない部分があると自覚しています。
グーグルやフェイスブックの人に話を聞いても、やっぱりアメリカローカルでの戦いはものすごく厳しいと言います。両社ともアメリカ国内で熾烈(しれつ)な戦いを勝ち抜くために、プロダクトをどんどん良くしている。だから、海外勢は誰も太刀打ちできないのです。一方海外は片手間でやっているようなものだそうです。
僕は事業のアイデア選定の段階から、「まだアメリカにないサービスか」をかなり重要視しました。アメリカ事業が月間数十億円という規模感になってくれば、成功したというだけでなく、一つのジャンルをつくったといえます。
ただ、そこまでいくと、他社も同じ市場に参入してきます。だから、たとえ一度成功しても、おそらく第二の戦いがあると思っています。そこを勝ち抜けばグローバルスタンダードなサービスになっていけるはずです。
一社のドミナントは考えにくい
──米国ではシェアリングエコノミーが定着しつつありますが、日本にもその波は来ると思いますか。
来ると思いますね。今後、ちゃんとしたサービスが出てくれば、個人と個人がつながることを防ぐのは不可能だと思います。
Uberにしても、Airbnbにしても、最初は「ちょっと、人のクルマに乗るのは……」「人の家に泊まるのは……」と抵抗感があっても、一度経験してみたら「別にどうってことない」と転向していく。その流れを止めることはできないので、世の中に徐々に浸透していくでしょう。
──シェアリングエコノミーでは、「評価」「信頼」の蓄積が鍵です。その観点でいえば、実名登録で友達が何人いるかまでわかるフェイスブックは強い。
今やさまざまなサービスで、フェイスブックでのログインが可能になっています。フェイスブックは、そういった一意性を担保するプラットフォームになろうとしているし、実際に彼らの狙いは実現しつつあるのではないでしょうか。
ただ、それが各サービスにおける優位性につながるかは疑問です。
理論上では、別にAirbnbが、Uberみたいなサービスをやったっていいわけですし、その逆だってありえます。
でも実際には、それぞれの会社がそれぞれの分野で努力している。だから、たとえモノのCtoCの分野にUberが参入してきても、そう簡単に乗っ取られるとは思えない。1つの会社が、簡単に全部ドミナントするのは考えにくいことだと思っています。
──基盤を持っているから、すべてのサービスで勝てるわけではない、と。
そうですね。象徴的なのは、中国の大企業でWeChat(ウィーチャット)を提供しているTencent(テンセント)が、タクシーサービスのDDにAlibaba(アリババ)などと共同出資している事例です。彼らは自力でタクシーサービスをできるはずですが、ベンチャーのほうがうまくやっているから、出資戦略に切り替えているんです。
シェアリングエコノミーはものすごく大きいマーケットなので、全部を押さえるのは、不可能です。だから、今後はUberPOOL(Uberによる相乗りサービス)のように、今勝っているCtoC企業が、自分たちが強みを持っているところの周辺で、相乗効果がありそうなところに徐々に手を広げていくのではないでしょうか。
(聞き手:泉田良輔、野村高文、構成:ケイヒル・エミ)
この連載について
「フィンテック」「ヘルステック」「エドテック」など、今、テクノロジーの力を使って規制産業を変え、新たなビジネスチャンスを生み出す動きが活発化している。各業界の規制が既得権をもたらし、それゆえ国際競争に遅れをとっているとも言われるなか、果たしてテクノロジーは業界の未来を変えるのか。新興プレーヤーやそれを迎え撃つエスタブリッシュ企業、規制に精通する学識者への取材を通じて、規制産業の行く先を考える。
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