hattabanner.006

八田英二会長インタビュー6回

同志社大学の改革者と考える、高校野球の“明るい未来”

2016/3/18

──現在甲子園にはお客さんがたくさん入っていて、プロ野球も観客動員が増えています。しかし少年世代における野球人口の減少を見ていると、10年後はどうなっているだろうという恐怖感があります。八田会長は10年後の野球界を想像して、どんな展望を抱いていますか。このまま行けるのでしょうか。

八田:少子化時代と、グローバル化時代をどう生き抜くかは高校野球の課題だと思っています。やはり、教育という面をもっと強調したい。スポーツ活動をやることで人間的にも成長していくことを当事者、保護者にわかっていただけたら、体育会系のクラブに入る学生は相対的に増えるのではと思っています。絶対的に増えるとは言いませんが、相対的にですね。

フェアな競争で、未来を与えたい

──今日の話のキーワードは「教育」でした。最後に聞きたいのですが、教育とはどういうものだと考えていますか。

子どもに将来を与える。未来を開く力を、教育を受ける人に与える。これが教育者の使命であり、喜びであり、誇りである、と。大学や高校の授業、あるいはクラブ活動を通じて、将来や可能性を与えるものが教育だと思っています。

──では高校野球も甲子園も、未来につながるものでないとダメですよね?

そう思いますね。

──たとえば、高校時代に投げすぎて肩を壊す子がいます。肩という観点では未来につながっていきませんが、頑張って投げたことは未来につながっていくという考え方で球数制限は設けていないということですか。

それともう一つは同じルールの下で、フェアな下で、少年たちに活動をさせてあげたいこともあります。

──教育とフェアネスが思考の根本にある、と。

自由競争にすると、自由ということは本当に弱肉強食の世界です。傘が広がるばかりで、教育面で見てもあまりよろしくなさそうですから。やはりフェアというのも一つ、高校生に整えてあげたい条件、環境整備だと思うんですね。フェアなところで競争させてやりたい。かつ、未来や可能性も彼らに与えてあげたい。

今を通じて将来を見る

──たとえば大阪桐蔭の監督が野球教室を開きたいけどできないという話をしましたが(連載1回参照)、フェアを保つことでマイナス面も出てくる。それは仕方ないということですか。

そういうときには工夫があると思います。それぞれの各高校がやるのではなく、それぞれの(都道府県の)高野連レベルが何らかのかたちでやる分には(実現可能かもしれません)。この間、秋田の高野連が元プロ野球の選手を呼んで、「夢の向こうに」というプロジェクト(※)をやられました。同じようなかたちで、できないことはないんじゃないですか。

※「夢の向こうに」は日本プロ野球選手会が高校野球部員のために行っているプロジェクト。詳細は日本プロ野球選手会の公式ウェブサイト参照

氏原:「夢の向こうに」は大きなプロジェクトだと思います。でもそれ以外で、果たして各都道府県の高野連の人がリーダーシップを持ってやろうとするのか。しないから、それぞれで指導者たちが集まって……。

八田:それはどこかでパイプが詰まっているからじゃないですか、(各都道府県の)高野連レベルでは。日本高野連改革ではなくて、それぞれの都道府県レベルでの意識改革、あるいはガバナンス改革に(話が)つながるんじゃないですか。うまくできている、ほかの競技団体はありますか?

──サッカーは指導者育成など、少年世代からプロまでつながる仕組みがあります。子どもたちの未来まで見ていますよね。少年サッカーのチームには必ず1人、ライセンス取得者が必要です。怒鳴りつけるような指導をしないとか、食べ物はどんなものがいいとか、しっかり教育まで行っているように見えます。現状、野球にはそれがありません。

監督さんでも、いろいろ極端な話を言っておられる監督がいますね。(武ばかり見る監督について)どう思われました?

──正直、野球漬けにするのはどうかと思います。子どもたちの未来を見てほしいという点で、教育という観点には完全に同意です。確かに高校時代の今も大事ですけど、未来はもっと大事なはずなので。「あなたが教えるのは今ですけど、もっと未来を見ませんか」と指導者には思います。

今を教えることによって未来が開けていく、というようなところが教育だと思うんです。

5K4A9861_w600px

文武両道はすごいことなのか

氏原:そもそも「文武両道がすごい」といわれることが、おかしいと思います。高校野球なんだから、みんなが文武両道であるべきだと思うんですよ。でも現状、文武両道と評価することは、そうではない学校を認めている。「高校野球が野球学校ばかりになっている」と指摘する高校野球の指導者もいましたけど。

八田:定義の差ですよ。武だけの監督さんに取材していましたね。

氏原:武だけで果たして、その子たちのためになるのか。確かに競争も激しいし、それが社会で生きる力に多少はなるのかもしれない。でも勉強していないので、そのバランス感覚のなさは果たして教育になっているのか。

八田:そういうことは監督さんに言わなかったのですか。

──そういう話はしていません。自分の考え方を言う場ではなく、その監督の考え方を引き出すインタビューだったので。

なるほど。私は野球監督の経験がなく、教育者です。理想論かもわかりませんけど、原点として高校野球の理念を大切にしたい。学生のスポーツは、プロだとは思っておりませんので。それともう一つはフェア。ただフェアというのは、なかなか大変です。

変革には「大きな味方」が必要

──そのフェアで失っているものがあると思いますが、とはいえ、八田会長は「やり方がある」というような話もされていましたね。現場は思っているだけで、声を上げていないかもしれません。「もっと声を上げましょう」と訴えていくことも必要だと感じました。

改善するべきところがあれば、どうぞいろいろ書いていただいて。

──わかりました。今回のインタビューを通じて、八田会長は開かれた方であるという印象を受けました。

そうなの。

──少なくともプロ野球のコミッショナーは、こういう取材を受けないと思うので。

私は同志社大学の学長を15年やりました。「皆さんの意見を届けてください。それで八田を使って実現してください」という手法で、同志社大学改革をやりました。

一人で「こうだ」と引っ張っていくのも、一つの方法かもわかりません。でも、高校野球という長い伝統があるところで改革をしようと思えば、何か大きな味方がないと無理ですね。

5K4A9855_w600px

高校野球に抱いた希望

何か大きな味方──それは、社会を動かすほどの力という意味だろう。

いくら不満を言っていても、物事は変わらない。どうすれば、変えることができるのだろうか。そう考えて行動に移すことが不可欠だと改めて感じた。

少なくとも八田会長は、周囲の意見に耳を傾けてくれる人物だ。高校野球をより良いものにしていこうと心から考えている。

難題山積みの日本球界だが、そうした人物が日本高野連のトップにいることを念頭に置きながら、現場で取材を続けていきたい。

(取材・構成:中島大輔、取材:氏原英明、撮影:福田俊介)