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八田英二会長インタビュー5回

誰のために高校野球はあるのか。国体から見える構造的欠陥

2016/3/16
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──1つ提案をさせてください。夏の甲子園後に行われる国体では、いつも甲子園ベスト8や16の中から出場チームが選抜されていきます。

八田:開催地も入れて12チームですね。

──はい。ほかの競技は国体を目標にしてくる選手がいる中で、高校野球は、もちろん真剣勝負をしていますが、どちらかというとご褒美に近い大会です。

しかも野球は、国体の正式競技ではないですからね。

──公開競技ですよね。それはわかるのですが、ご褒美の大会にするのではなく、各都道府県の選抜チームで戦わせればいいと思います。そのために、3年生だけで予選をやるようにします。各都道府県の夏の大会に敗れた後に引退し、国体に参加意思のある選手たちで都道府県のブロックごとに代表チームをつくればいい。

ほかの種目では、そういう方式が多いですよね。

──そうなんです。だからこそ、野球もそういう方式に変えませんか。

その意見もぜひ書いてください。

多くを背負う清宮幸太郎

──八田会長はどう思いますか。ほかの競技は真剣勝負なので、野球もそうしてほしいと思います。

その意見に否定的であるわけではありません。ただ国体を見に来る人の中に、夏の甲子園の優勝チームが来るのを楽しみにしている人もいます。

──でも、次の側面があるわけです。甲子園に出ていなかったけれども、こんな選手がいるんだぞ、と。

でも去年は早稲田実業が来て、「清宮だ!」と楽しみに来る人がいました。

──でも清宮(幸太郎)君、大変だと思うんですよ。夏の甲子園が終わってジャパン(U-18日本代表)に行って、国体に出て、すぐに秋の大会がありました。彼にとってはものすごくハードです。

社会人の都市対抗野球の補強選手に似た感じにしてもいいかもしれないですね。メインは県大会の優勝チームにして、この地区から何人かいい選手を連れてくる。

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国体は各県の高野連がメイン

──そういう仕組みにすることで、高校生にすれば「一生懸命頑張っていたら、そういうチームに呼ばれるんだな」と努力につながってきます。現在は都道府県別で何年かに1回、持ち回りで海外遠征を行っていますよね。それも大事ですが、県ごとに野球のレベルを上げていくことも必要だと思います。それが指導者を育成していく、という副産物につながる可能性を持っていると思うんです。

ただ国体に関しては日本高野連が決めているのではなく、国体を開く県の高野連が決めています。来年、再来年まで国体の開催地は決まっているんです。各県の高野連がメインでやっているので、私たちがリードしているわけではないんです。

でも、国体に関する提案は初めて聞きました。ほかの種目では入場料をとりませんが、野球は1000円くらいに設定されています。案外収入になっているんです。日本高野連には収入として一切入ってきませんが。いろいろな思惑があるのかもしれません。

──いろいろな物事は、プレーヤーズファーストの考え方で進めたほうがいいと思います。

野球は公開競技で、正式競技ではありません。いろいろ変えようと思えば、変えられないことはないと思います。

──ぜひやってもらいたいですね。そうなれば、おそらく、いろいろな人たちが国体を楽しみにすると思います。

11月まで続く過密日程

秋に行われる明治神宮大会はどう思いますか?

──あの大会のおかげで日程が詰まってきているわけじゃないですか。あそこに各地区のチャンピオンチームを呼ばないといけないので、それまでに近畿や関東など各地区の地方大会が終わっていないといけない。それで全部、以前より日程が前倒しになってしまっている。それが高校野球の年間スケジュールを窮屈なものにしている原因の一つです。だから、あまり良くないと思っています。

ただ、あの大会は日本高野連主催ではなく、明治神宮主催です。向こうがすべて(の費用等)を出されてやっておられますからね。運営には高野連が協力していますけれど。

中島:結局、すべて野球界の構造の問題に行き着きますね。統括する組織がなく、全部を別々のところがやっているから、全体を通して見ることができない。日本野球界の諸問題と同じ構図だと思います。

高校野球だからこそできること

日本サッカー協会のように、野球界には全体を統括する組織が事実上ない。この問題を解決しない限り、日本球界が抱えるさまざまな課題を抜本解決するのは難しい。それは多くの野球関係者やファン、記者がわかっているものの、あまりにもステイクホルダーが多く、現実を動かすのは極めて難しいのが正直なところだ。

だからこそ、高校野球には日本球界をもっとリードしてほしいと考えている。ビジネスとして行われているプロ野球のように各ステイクホルダーの思惑が絡み合うのではなく、教育の一環として実施される高校野球だからこそ、変われるのではないかと思うのだ。

そこでインタビューの最後に、八田会長に聞いてみた。

なぜ、教育は大事なのか。教育の一環である高校野球は、どんなことを球児たちに伝えていくべきなのだろうか。

(取材:氏原英明、取材・構成:中島大輔、撮影:福田俊介)

*次回は3月18日(金)に掲載します。