[東京 16日 ロイター] - 政府は、民間が保有するビッグデータを活用した新しい消費統計を作成する。複数の政府関係者が明らかにした。個人消費は国内総生産(GDP)の60%超を占めながら、重要指標の家計調査の精度が問題視され、経済政策の判断をゆがめるリスクがあると指摘されてきた。

政府は早ければ2018年度をめどに準備を整える予定。スタートすれば、主要7カ国(G7)で初めての画期的な消費統計となる。

22日の統計委員会で、西村清彦委員長(東京大学教授)が公的統計にもビッグデータを活用し、民間と連携しながら新しい統計情報と既存の政府統計を連結していくプランを石原伸晃・経済再生相に強く働きかける。

活用するビッグデータの候補としては、スーパーなどの販売時点情報管理(POS)データ、クレジット会社の保有データ、旅行会社のビッグデータ、携帯電話の位置情報などが検討対象。18年度をメドに準備作業を終了させる予定。その後、直ちに稼働させる。

ビッグデータと経済統計について国内の第一人者である東大大学院経済学研究科の渡辺努教授は「現状でビッグデータを活用した消費データの作成を他国で準備、作業しているという話を聞いたことがない。日本の取り組みは先行していると思う」と述べている。

ただ、こうした民間企業がビッグデータを政府に提供するかどうか、政府内ではこの点を課題として挙げる声もある。

大手流通企業の中には、現時点で積極的に公開している企業もある一方、あくまで自社のビジネス展開に絞ってビッグデータを作成し、外部に非公開としている企業もあるためだ。

家計調査の精度改善を政府で最初に提案したのは、麻生太郎財務相だ。昨年10月16日の経済財政諮問会議で「販売側の統計、小売業販売と異なった動きをしている。また、高齢者の消費動向が色濃く反映された結果が出ているという言い方もされている」と改善を要望。

翌月11月の経済財政諮問会議では、当時の甘利明・経済財政担当相が内閣府の統計委員会に精度などについて検討を求めた。

家計調査でみた消費の弱さが実体より弱めに出ているとの見方があり、実態よりも弱いデータに基づいて経済対策を策定した場合、過大な財政出動につながりかねないという懸念も、政府部内の一部にあったもようだ。

政府だけでなく、日銀の金融政策決定会合でも、消費が弱い局面で複数の政策委員が、家計調査について調査対象となっている世帯の収入の伸びが実勢より低く、消費の伸びにも下方バイアスがある可能性を指摘した(14年9月3─4日の会合の議事要旨)。

これを受けて、政府の公的統計整備の司令塔である統計委員会は、国の基幹統計は政策立案にも影響するとの認識から、政府統計間の整合性や各統計の精度向上について、各省庁に統計改善への取り組みを促す方針を決めた。

家計調査は約9000世帯を対象に、毎回その一部を順次入れ替えながら繰り返し調査し、全国的に偏りなく家計情報を収集し、平均的な家計動向の把握を目指してきた。

ただ、調査内容の記入が煩雑で、回答世帯が高齢者に偏っているのではないかといった指摘も相次ぎ、個人消費把握の精度が問われていた。

家計調査はGDPの60%を占める個人消費の実態にも反映され、政府の景気認識やマクロ経済政策を判断する上で重要な位置づけを持った統計であるだけに、精度向上は喫緊の課題となっていた。

複数の政府関係者によると、政府内では家計調査のデータを収集するための調査自体は残しつつ、民間のビッグデータを取り入れ、旅行やレジャーなどサービスも含め幅広い消費動向を把握することが望ましいと判断している。

(中川泉 編集:田巻一彦)