bookpicks_10min_bnr

要約で読む『パクリ経済』

「パクる欲望」が経済を回す。創造と模倣の意外な関係とは

2016/3/14
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。毎週月曜日は「10分で読めるビジネス書要約」と題して、今、読むべきビジネス書の要約を紹介する。今回は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)法律学教授を務めるカル・ラウスティアラとニューヨーク大学法学部教授のクリストファー・スプリグマンによる『パクリ経済』を取り上げる。本書は、ファッションやレストランのレシピなど複数の事例をもとに、他人のアイデアを模倣する「パクリ」が、経済にいかに寄与しているのかを明らかにする。2人の著者がともに「知的財産」を専門にしていることから、アイデアの拡散について法務上の観点からも取り上げられてゆく。アイデアをゼロベースで考えるのは難しい。本書を読めば、他人のアイデアを発想元にした創造が意外にも多いことに驚かれるだろう。

 【Flier】パクリ経済.001

コピー商品とファッションのとりこたち

ファッション界におけるコピー

2007年、セレブで有名なパリス・ヒルトンが、あるトーク番組でフォリー+コリーナ・デザインのドレスを着ていた。番組放映後、ファストファッション小売業のフォーエバー21が、そのドレスに驚くほどそっくりなドレスを作成し、40ドルで売り出した。オリジナルのドレスの約10分の1の価格だった。

フォーエバー21のドレスを見て、オリジナルのドレスのデザイナー、アンナ・コリーナは「不愉快だわ」と断言した。フォーエバー21のデザイナーが、自分のデザインを盗んでいることに腹を立てているのだった。

このようなファッション界におけるコピーの横行は、アメリカ著作権法の隙間がもたらした必然的な結果だといえるだろう。アメリカにおいて著作権保護は、ファッション・デザインには適用されないのである。コピーから保護されるのは、ブランド名やプリント柄などごく一部の要素にとどまっている。

なぜコピーが合法なのか

なぜファッション・デザインはこれまで一度もコピーから保護されてこなかったのだろうか。それはアメリカの著作権法に対する考え方の特徴である、実用物なら自由にコピーして構わないという姿勢による。一般的に著作権法では、音楽のように機能性を持たない、あるいは最低限の機能的属性しか持たない芸術形態を対象にする。

保護対象となるのは、きらびやかな宝飾品や、アディダスの3本線マークのように商標と結び付きが強いものに限られる。その結果、影響力が強く高価なファッション・ブランドのデザインのコピーが大がかり、かつ合法的に行われているのである。

著作権侵害のパラドックス

人々が服を買う理由はさまざまであり、体を覆って暖かくする、という面もある。しかし、カクテルドレスに何千ドルも払う理由はむしろ、ステータスへの欲望に駆られたものである。つまり、流行のデザインの衣服を先取りして身にまとうことで、ステータスへの欲望が満たされる、という動機付けによるのだ。

一方で、その他大勢が同じドレスを持ってしまったら、その価値は消えてしまう。デザインそのものは変わっていなくとも、所有者をその他大勢から差別化する能力が変化してしまうのである。

また、衣料品の価格帯を5段階に分け、価格の経年推移を見ると、最も高価な価格帯のドレスに関しては、長期にわたり価格が上昇しているという実績がある。一方で、他価格帯のドレスの価格はほぼ横ばいで推移している。

その事実からすると、コピー製品は産業全体に損害を与えず、ファッション・サイクルの加速を通じて業界の発展を促しているともいえる。つまり、オリジナルの作成者はコピーがまん延する前に十分な利益を上げ、先行者利益を享受しているとも解釈できるのだ。

ファッション業界は、コピーのまん延が創造性を破壊し市場を殺すという、イノベーションに関する従来の考えに従っていないのである。

料理、コピー、創造性

キッチンにおけるコピー

現代のレストラン産業においては、大いに創造性が発揮されているといえるだろう。しかし、この業界ではシェフ間でコピーが日常的に行われている。

モルテン・チョコレートケーキや黒タラのみそ焼きといったどこでも目にする料理は、さまざまなレストランで同時に生まれたものではなく、本来はそれぞれ、あるレストランで生み出されたものである。その発案者は、自分の創作物に対して使用料を求めることもできなければ、自分の作品に他人が解釈を加えるのを阻止することもできない。

アメリカ法において、著作権保護は「アイデア、手順、行為、方式、作業方法、概念、原理、あるいは発見」のいずれにも適用されないとされている。料理のレシピは、手順や作業方法に該当するため、保護対象にはならないのである。そのため料理の世界では、世界中のシェフが、他人が創り出したイノベーティブで人気のある料理を模倣しているのだ。

なぜシェフたちはそんなにも創造的なのか? ~規範と評判~

料理界でコピーによる悪影響がほとんどないように見えることに対する説明として、実際には予想されるほどコピーが行われていないというものがある。

たとえば高級フランス料理のシェフたちの間では、ほかのシェフが自分のレシピをそのままコピーしない、自分が情報を与えたシェフが許可なくその情報を他人に渡さない、自分が情報を与えたシェフは自分のことを情報源として明らかにする、という規範が機能しているという。

このような社会規範はあらゆる模倣を阻止しているわけではないが、創作を続けるのに十分なインセンティブを維持している。たとえばあるシェフが他人のレシピをまるごとコピーしたら、そのシェフは評判を大きく損ねるだけでなく、そのシェフがほかのシェフと交わることを許さない、ある種の村八分にも遭うといわれている。

また、料理の場合、同じシェフがつくったとしても材料の配合や出来栄えが毎回同じとは限らない。同じシェフでも再現が難しいのに、完全なコピーがほかのシェフによってなされるということは不可能に近い。この特性はデジタル製品とは明らかに異なるものである。

それに加えて、出された料理に関連する体験の全体はレストランの雰囲気・サービスなど多様な要素で構成されており、消費者はその体験すべてに対してお金を支払っているという事実に注目すべきだ。単にレシピがコピーされたという事実だけでは、必ずしも本家を脅かすわけではないのである。

シェフが自分の創作物のコピーを無視、あるいは歓迎さえするのはさまざまな理由がある。その中でも、シェフの、ほかのシェフから高い評判を得たい、という欲望によるところが大きいだろう。創意あふれる料理が開発されると、その創作者は、シェフ・レストラン・批評家・ライターのコミュニティで尊敬を集めることになる。多くのシェフにとってはその称賛こそが、創造へのインセンティブとして働くのである。

コピーと創造性

創造性の本質とは

知的財産についての規則ができる前から、人には創造の衝動が存在した。

フランスにあるラスコー洞窟の有名な壁画は、少なくとも1万5000年前のものである。一部の人は、人々を美しいものの生産に駆り立てる「芸術本能」があるのだと主張している。

ある作家は次のようなことを言った。「エジソンは発明家となるべく生まれ、バリシニコフはダンサーとなるべく生まれ、法的なルールがどうであろうとも、エジソンは発明をやめなかっただろう。バリシニコフがどんな状況だろうと踊るのをやめないのと同じだ」

一方で、コピーは創造性にとって有害だと広く信じられ、持続的なイノベーションを実現するためには、経済的報酬を信頼できるかたちで期待させなければならない、とされている。イノベーションから生まれた利益を、創造者がすべて享受する仕組みこそが、創造を促すとするアプローチを、イノベーション独占理論と呼んでいる。

独占理論の中でイミテーションが嫌われてきたのは、イミテーションが創造者の利益を損なうと考えられたからだ。

しかし本当にそういえるのだろうか。ファッションや食だけでなく、アメリカンフットボールの戦略、金融イノベーションなど、コピーが許容されているのに、創造性が活発な領域は広く存在する。この事実は、コピーが常に損失を与えるのではなく、コピーと創造性が共存できることを実証しているのである。

イノベーションとイミテーションに関する6つの教訓

トレンドとサイクル

ファッション産業におけるコピーの影響は大きく分けて2つ存在する。

1つは「誘発される衰退」と呼ぶもので、新しいデザインがファッション好きの小さなグループから、もっと大衆的な消費者へと広まり、最初にそれを取り入れた人々にとって魅力がなくなる、という現象だ。これが新しいデザインへの交代を求める動きを促す、いわゆるファッション・サイクルの原動力となる。

2つめの重要な影響は「固定化」である。トレンドは消費者に、おしゃれでいるためには何を着るべきかという情報を提供する。トレンドにより、多くの個人がいっせいに時流に乗れるようになるのである。このようなファッション・サイクルの存在により、自由で合法的なコピーがなされても、新しいものを提供するイノベーションが促されるのである。

社会規範

コピー抑制因子として、社会規範が存在する。たとえばコメディアンが人の面白いジョークをコピーしていることを知られると、コメディアンはその評判に致命的ともいえる打撃を受ける。そのような社会規範は、プロのコミュニティが形成され、その尊敬を集めることが重要な製作者たちの間で最もうまく機能するようである。

製品とパフォーマンス

体験は再現されにくいという面で、コピーから守られている。たとえば、あるレストランが提供するサービスを含めた体験や、ライブのパフォーマンスといったものが該当する。ストリーミングサービスが広まった今でも、本格的な映画館が好まれることも同様である。

このように製品そのものよりもパフォーマンスが重要なサービスでは、コピーの影響を受けにくいといえる。

オープン性とイノベーション

ウィキペディアやリナックスOSのように、オープンソースで実現されるものも、著作権とは別の力学が働いている。それらのプログラムに参画する人は、金持ちになることを直接期待せず、専門知識を学ぶことや、仲間からの名声を得ることを目的として努力する。

先行者利益

創作者が市場に商品を提供してからコピーが流通するまでの間の時間が存在するなら、先行者利益を獲得することが可能である。なお、法的にそれをつくり出すことが知的財産権の本質ともいえる。

ブランドづくりと宣伝

初期の発明者の周辺にはブランドが形成され、高価格の維持や大きなマーケットシェアが与えられやすい。そのブランド力はコピー製品の参入後であっても、多くのケースで存続し、コピーがブランドの宣伝にさえなることもある。

これらすべての考察が示すのは、コピーのまん延に直面しても創造性が持続できることである。事実としてパクリ経済は存在する。イミテーションの持つ力を改めて理解し、イノベーションに活用できるかどうかが、今後検討すべき課題なのである。
 一読のススメ

上記要約の中では、ファッション業界とレストラン業界の事例を中心に構成したが、本書にはそのほかにもコメディ、アメリカンフットボール、フォント、金融、データベースなどのさまざまな業界や分野について、イミテーションの効用がまとめられている。

また、日本語訳も読みやすく構成されており、本の厚みのわりに読み進めやすい1冊となっている。ぜひ通読いただき、本書が提供する知的興奮を味わっていただければと願う。

Copyright © 2016 flier Inc. All rights reserved.

<提供元>
本の要約サイトflier(フライヤー)
flier_smartphone_20150121
無料で20冊の要約閲覧が可能に。会員登録はこちらから。