これを見ないと友達と会話できない
フェイスブックの“老化”を背景に、伸びるアプリ「スナップチャット」
2016/3/13
西海岸のカルチャーの中心地といえば、ロサンゼルス(LA)。ハリウッドなどエンタメの中心でもあるLAでは、新しいトレンドが次々と生まれてくる。一方で、日本に入ってくるLA情報は、どうしても表面的で美化されがち。現地のリアリティがうまく伝わってこない。LAで暮らす駐在員妻の著者が、現地からLAのトレンドとそのリアルを伝えていく。
LAで今、何が話題か?
それを最もリアルに伝えるのは、テレビやツイッター、フェイスブックではなくなっています。
「これを見ないと友達との会話についていけなくなる」
街の10代、20代がそう話すのが、スナップチャット。
「送った画像が自動で消えるメッセージアプリ」と説明されがちなこのサービスですが、新しいコンテンツ配信プラットフォームとして台頭しつつあります。
毎日1億人以上が利用し、動画が80億回も視聴され、驚異的な成長をみせるこのお化けサービスが、本拠地・LAでどんな使われ方をしているのか。2回にわたってお伝えします。
スーパーボウルでも話題
米国最大のスポーツイベント・スーパーボウル。そのテレビ中継は、年間で最も高い視聴率を誇ります。試合の合間に放映されるのは、大手ブランドがこの日のために制作したCMの数々です。30秒で約6億円もの出稿料がかかるため、旬なクリエイターが手がける作品がそろいます。
そんな豪華なテレビCMを差し置き、2016年のスーパーボウルで話題をさらったのは、スポーツ飲料「ゲータレード」のキャンペーンでした。
選手がコーチにゲータレードをかける「ゲータレードダンク」は日本のビールがけに近い風習。それを体験しているような自撮り動画がつくれると話題に。「今年一番の広告クリエイティブ」とマーケターの注目も集まった | Gatorade
https://www.youtube.com/watch?v=sTYCg10X0xI
広告的に活用したのは、スナップチャット内の動画加工ツール「レンズ」。
ユーザーがキャンペーン用のレンズを使って撮影すると、ゲータレードを頭からかぶるようなアニメーションを動画にのせることができます。
この加工が施された動画がまたたく間に広まり、見られた回数は2日間で160億回。簡単には比べられないものの、スーパーボウルのTV中継の視聴者数1億6700万人と比較しても、インパクトのある数字をたたき出しました。
一説によるとこの「レンズ」の広告出稿料は、2日間で1億3000万円。ゲータレード以外にも、アマゾン、バドワイザー、20世紀フォックスといったナショナルブランドが、この新興アプリに1億円以上の広告費を投じたといいます。
強みはユーザーの若さ
スナップチャットの価値を高めているのはなにか?
一番の源は、若いユーザーからの熱烈な支持です。
スナップチャットの発表によると、米国の13〜35歳のスマホユーザーの60%が使っているとのこと。米国内の利用者のうち86%が34歳以下といわれており、ユーザーの若さが、このサービスの強みになっています。
というのも米国では、このミレニアルズ世代(19〜37歳)が人口3億人のうちの25%を占める最大勢力。彼らを狙ったサービスやメディアをつくろうと、各社しのぎを削っていますが、アプローチに苦戦しているのです。
フェイスブックもその一つで、ユーザーの平均年齢が40歳を超えつつあると「老化」が指摘されています。サービス開始からわずか1年後に、スナップチャットを30億ドル(約3000億円)で買収しようとしますが、CEOのSpiegel氏にオファーを蹴られたと報じられました。
「時限付き」というカルチャー
2011年にロサンゼルスで創業したスナップチャットは、写真や動画(スナップと呼ぶ)を送り合える、メッセージアプリとしてスタートしました。メッセージは時限付きで、閲覧されると約10秒で自動消滅します。
この「時限付きであること」が、スナップチャットの独特なカルチャーを形成したともいえそうです。
1つは、ゆるくてバカっぽい投稿ができること。保存されない安心感から、つくり込みすぎない画像や、思いつきで撮った動画をやりとりできる場になりました。
もう1つは“見逃せない”と感じさせる限定感があること。履歴が残るほかのサービスと逆を行くつくりが、今見なければならない、とユーザーを熱中させているのです。
geoフィルター等独特のカメラ機能
スナップの制作に若い世代を駆り立てるのは、スナップチャットのユニークなカメラ機能の数々です。撮影・編集アプリとして使う人も多く、限定感のある仕掛けが凝らされています。
スナップチャットで特に人気なのは……
<geoフィルター>
写真を撮った場所や日時に合わせて、今そこでしか使えない限定フィルターが使えます。当初はスナップチャット側が制作していましたが、審査が通れば誰でも設定できるようになりました。
広告料を払えば企業ロゴなどを入れることも可能で、手続きはすべてLINEスタンプのようにオンラインで完結します。広告料は掲載期間や配布エリアによって変動し、「新時代のアドワーズ(グーグルのキーワード広告システム)」とも評されています。
<レンズ>
ウクライナ発の自撮りアプリ「Looksery」を買収して加えた機能。前述のゲータレードのような、遊び心のあるアニメーションのエフェクトを、日替わりで10個ほどから選べるようになっています。
レンズをスポンサーする広告料金は、バズフィードの記事によると1100万〜1600万回再生される想定で、1日当たり平日で5000万円、祝日は8000万円といわれています。
3月9日付の「Business Insider」の報道によると、同様のアプリ「MSQRD」を提供していたMasquerade社をフェイスブックが買収したとのこと。この分野でのバトルがこれからも繰り返されそうです。
プラットフォーム化への第一歩
ここまでは、個人感でやりとりするメッセージアプリとしての側面をご紹介してきました。ビジネスパーソンが気にかける必要がありそうなのは、大手メディアも巻き込んだ、コンテンツ配信プラットフォームとしてのスナップチャットです。
変化の第一歩は、「ストーリー」機能が登場した2013年秋ごろのこと。
ユーザーは撮影した写真や動画を、スライドショーのように時系列にまとめたコンテンツにできるようになりました。フォローしている友達は、24時間以内であればいつでも繰り返し見ることが可能です。
ストーリーとして公開すれば、特定の相手を指定しなくても、フォローしているみんなに共有できるため、有名人がファンへの情報発信の場として使い始めました。
ほかの動画プラットフォームとの違いは、スマホに最適化されたタテ型動画であることと、実際に閲覧される確率が高いこと。米国で「SNSの王様」の異名を持つ起業家のVaynerchuk氏は、「1000人のフォロワーがいたら900人が見てくれる」と、ストーリーの反応の良さを評価しています。
次週はLAの街でgeoフィルター探し
LAは全米で一番geoフィルターがたくさん設定されている街。どんな場所にフィルターが仕掛けられているか、街を走り回って探してきます。
取材の様子は、スナップチャットの私のストーリーにアップしていきますので、ぜひそちらもお楽しみください。
また、ワシントンポストやCNNといった既存メディアが続々と参入し、プロの手で制作された人気コンテンツが誕生していることなど、お伝えしていきたいと思います。
*本連載は毎週日曜日に掲載予定です。