sudo3.001

続・インターネットストラテジー(第5回)

【須藤憲司】未来の見立て方

2016/3/13
大企業を辞め、スタートアップを起業するとはどういうことなのか。毎日、どんな難題に直面し、それをどう乗り越えていくのか。リクルートの最年少執行役員を経て、2013年に米国でKaizen Platformを創業した著者が、日々模索しながら考えた「インターネット企業を経営するためのストラテジー」をつづる。
第1回:スタートアップを経営してみて、気づかされたこと
第2回:これからのビジネスは個のエンパワーメントに賭けろ
第3回:イノベーションに関する美しい誤解
第4回:クラウドソーシングの未来
1980年生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、リクルートに入社、マーケティング部門などを経て、その後リクルートマーケティングパートナーズの執行役員として活躍。2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在はサンフランシスコと東京の2拠点で事業を展開。ウェブサイトの改善を容易に行えるソフトウェアと、約2900人のウェブデザイン専門家(グロースハッカー)から改善案を集められるサービスで構成される「Kaizen Platform」を提供。大手企業170社、40カ国で3000のカスタマーが利用している

1980年生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、リクルートに入社、マーケティング部門などを経て、その後リクルートマーケティングパートナーズの執行役員として活躍。2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在はサンフランシスコと東京の2拠点で事業を展開。ウェブサイトの改善を容易に行えるソフトウェアと、約2900人のウェブデザイン専門家(グロースハッカー)から改善案を集められるサービスで構成される「Kaizen Platform」を提供。大手企業170社、40カ国で3000のカスタマーが利用している

今週は、休暇でハワイからお届けしています。

ほとんどオフで過ごしていますが、ビーチやプールサイドやバーから、チャットで社内の問合せに答えていると実は経営判断のほとんどがチャットで答えることができそうだななんてことを思いながらぼんやり過ごしています。

そのうち、AI(人工知能)のアシスタントがチャットで経営判断に応えてくれる時代が来そうですね。

さて毎週楽しみにしてくれている方がいて、ありがたいかぎりです。

野村さんの、「新しい働く価値を模索していかないと間違いなく取り残される」というコメントにAIに淘汰(とうた)されそうな経営者として何が私自身の価値なのかを考え、改めて刺激を受けました。

また田口さんの「クラウドと一緒に働きたいと思ってもらえるような価値を持つことこそが、不確実な時代を生き抜く術」という言葉に、改めて“私自身もクラウドである”という事実に向き合う必要があると思いました。

学生さんにもたくさん読んでいただいて、さらに鋭いコメントがたくさんいただけて本当に勉強になります。いつも、ありがとうございます。今当社でもインターンシッププログラムを募集していますので、ぜひ優秀な方に応募いただけるとうれしいです(詳細は記事の最後をご覧ください)。

この連載も折り返しとなる5回目です。

前回は、クラウドソーシングについて私が見ている視点について書かせていただきました。

今回は、さまざまなインターネットのトレンドをどのように解釈していけば良いか? 今後をどのように見立てていけばいいのか? わからない未来に対しての向き合い方について、考えていきたいと思います。

最強のビジネスモデル

中学校2年生の頃、私にとって個人的に大きな事件がありました。

会社員だった父が会社を辞めたのです。

部活を終えて「ただいまー」と家に帰ると父親がいるというのは、なんとなく変な空気が漂うものだとそのときに知りました。私立の中高一貫の進学校に通わせてもらっていた私は、家計の負担を考えて高校進学を諦めて、社会に出て働こうと思いました。

そのときの担任の先生と両親に学校は行きなさいと言ってもらったことで、結果としては普通の中高生活へと戻りましたが、社会に出ようと思ったときに、自分はあまりにも社会のことを知らないことに愕然としたことを今でも覚えています。特におカネを稼ぐということは何なのか? 儲けるとはどういうことなのか? がその後、私の頭に強い興味として残りました。

儲かるには何か仕組みがあるはずだという直感から、最強のおカネを稼ぐ仕組み(ビジネスモデルという言葉は当時知りませんでした)って何なんだろう? ということを中学校3年生の1年間くらいかけて、調べていきました。“最強の”というところがまさに中二病っぽいですが、今思えばかなり変な中学生ですね。ただ、状況によっては社会で一人で稼いでいく必要があると大真面目に思っていましたから、当時の私としては本気でした。

歴史に学ぶ

さて皆さんが中学校3年生だったとして、どのようにして最強のビジネスモデルを探していきますか?

まあ、私の場合は単純でした。

教科書をとにかく読んでいくことにしたのです。

身の回りにあった中で、一番経済に関連することが書かれていたのが、歴史の教科書でした。私は、世界史を専攻していましたので、世界史には結構経済に関係することが出てくるわけです。

たとえば、大航海時代に複式簿記ができたとか、チューリップバブルとか、ロンドンのコーヒーハウスで通信社と保険が誕生するなんてことは世界史の教科書にも出てくるわけです。

そうして、世界史の教科書を読み込んでいると、あることに気づきました。

戦争が起きるときは、いつも大きな利権が絡んでいる。

つまりは、最強のビジネスモデルは戦争の原因になっているはずだと考えたのです。

そうして、15歳の私が導き出したの最強のビジネスモデルが、「宗教」「賭博」「資源」「国家」の4つでした。

ビジネスモデルとして優れてるとは何か?

それぞれをビジネスモデルとして見たときに、何が優れているんだろうと考えたのが次の4点でした。

宗教:人の信仰心に根ざしているため、人がいれば市場開拓が可能

賭博:人の欲や中毒性に根ざしているため、こちらも人さえいれば市場があるのと同義

資源:地球に存在するものを採掘しているので原価がタダ

国家:生活の中で当たり前のことやものに税金という名の手数料をかけてるので頑張らなくても売り上げが上がる

つまり、市場成立のハードルが低く裾野が広くて、原価がタダみたいなもので、普通の生活の中に当たり前にあることやものに手数料がかけられることが重要なんだという考えに至りました。こう考えて見ると面白いですよね?

たとえば、ブランドやタレントは新しい信仰心と見ることができるかもしれませんし、ゲームやメディアは新しい中毒と見ることができるかもしれません。

金融派生商品やビットコインは新しい資源かもしれませんし、AndroidやiPhoneやフェイスブックなどのプラットフォームは新しい税金と捉えることもできるかもしれません。

実は、今でも私自身が新規事業を考えるときにこの4つの切り口を必ず考えるようにしています。

もし、今の時代の新しい信仰心があるとしたら何だろう?

もし、今の時代の新しい中毒があるとしたら何だろう?

もし、今の時代の新しい資源があるとしたら何だろう?

もし、今の時代の新しい税金があるとしたら何だろう?

中学生の頃と今の考え方がたいして変わっていないことが少し残念ですが、このとき歴史の教科書を読みまくって考えたことは今もビジネスに生きているわけです。

面接で話した「リクルートを3兆円の売り上げにする方法」

そこから6年後、実際に社会に出ることになります。もう15年前になっちゃうのが恐ろしいんですけど、一応氷河期といわれる時代に就職活動をしました。

「リクルートを3兆円の売り上げにしたいと思ってます」と明るく面接で話しました。

当時リクルート単体の売り上げは確か3000億円くらいでした。

当然、どうやって10倍にするのか? が大事なわけなんですけど、学生ながらなかなか良いことを言っていたように思います(と自分で言うと価値ないですけれども)。

「リクルートは、今やっている事業をメディアだと思っているけど、僕は3つのことをやるべきだと思っている。1つ目は、決済。2つ目は、マイクロクライアントの獲得。3つ目は個人情報の売買。それぞれ1兆円ずつくらい売り上げを上げられるはずです」

これが私が思う、今のインターネットの面白さにつながっています。

決済の重要性

当時リクルートでは、じゃらんで宿の紹介とかしてるのになぜか予約の際に決済をカードでできませんでした。ホットペッパーも同じように飲食店の予約はできるけど、決済はできませんでした。正直、学生ながらその意味がわかりませんでした。

免許の問題だとか、あとでいろいろ説明されたんだけどやっぱりよくわかりませんでした。

絶対に決済を押さえるべきだと思ったからです。特に少額決済。そこから住宅とか結婚とか人生の中でも高額なライフイベントの情報提供も事業として持っていることを生かして、ローンなどの金融事業まで広げていくべきだと思っていました。

ゆえに、当時の私には別に法律の知識があったわけではなかったのですが、クレジットカード会社と銀行を買収すべきだと考えていました。そして、この戦略は楽天やヤフーが展開していますよね? 私が入社した3年後くらいだったと思いますが、楽天の戦略を見て、ああこれは面白いなーと思いました。

今でこそ、物販とサービスの予約は、同じようにeコマースの一部として扱われていますが、当時は異なる領域のように扱われていました。そして、現在ではECとポイントとクレジットカードというのが、流通総額を増やしていくための3つのキードライバーになっています。

そしてこれらの積み上げが、今私がFinTechが面白いと思っていることにつながってきます。

今私たちはおカネを媒介として物をやり取りしていますが、これは歴史から見るとごく最近の出来事にすぎません。

『21世紀の貨幣論』という本に書かれていますが、通貨は進化の過程で取引履歴を切り離すことに成功しました。ただ、情報ビジネスをやっている立場からすると、最も面白いのはこの取引履歴のほうなんですね。

誰が、どこにおカネをいくら支払い、何を買ったか?

この情報は、とてつもなく面白いです。ホテルに家族と行くけど、同一人物が彼女と旅館に行く。それぞれ文脈が違うし、そこから派生して考えられる消費も全然違うわけです。

決済自体は、大変地味な事業ですが、このやり取りの履歴が宝の山だと思いました。

今話題になっているFinTechも私の目には、この履歴をどうマネタイズするか? という別のゲームのように見えています。

これまで、銀行の与信能力で見れば与信できない人におカネを貸し出せるようになるかもしれないし、これまでクレジットカードの料率が高い小規模小売店に利率を安く提供できるかもしれないし、保険料率をリーズナブルにできるかもしれないし、精度の高い広告が打てるかもしれない。

通貨の進化の過程で、切り離してきた取引履歴そのものに焦点が当てられ、それをどうマネタイズするか? という競争だと私自身は見ています。

今までは、コストの関係で十把一からげで審査したり、利率を定めていたものが、細かくかつ精度を高く実現できる。これらが、イノベーティブなのだと思っています。

話を元に戻すと、この決済を真面目にやることで別のマネタイズがたくさん見えてくるのです。それを情報ビジネスの観点で、やらないほうがおかしいなと思ったわけです。

それが、15年前の私が素直に思っていたことでした。今ポイントとかやっていますが、本命は決済だったんじゃないかなと今でも思っています。

マイクロクライアントの台頭

15年前のリクルートの広告商品で最も安かったのは、フロムエーか住宅情報賃貸版だったかで10万円くらいだったと思います(この辺はうろ覚えです。ごめんなさい)。

でも、普通に考えたら高いなと思いました。

町の花屋さんとか、魚屋さんでも出せるくらいの広告があるべきだと思ったんです。3000円とか、なんなら数百円から出せてもいいなと思いました。

それくらいになると、取引できる顧客数の桁が増えますよね? 20万社くらいの取引先が10倍くらいにはできそうだなと考えていました。

でも、もっと大きいのはそこまで単価が下がると個人でも取引できるかもしれないと考えました。

昔、「じゃマール」という個人間取引をする紙メディアがあって、超絶面白かったんです。それはインターネットの時代にこそあるべきだと思いました。

マイクロクライアントというのは、究極的にいえば個人になってくるわけです。

今流行しているCtoCとかシェアリングエコノミーというのは、すべてこのマイクロクライアントを相手にしたビジネスと見ることができます。

個人間の物々交換やサービス提供を簡単に実現できるのがインターネットです。

そこで、私はリクルートが企業よりも個人と取引する金額のほうが伸びていくのではないかと考えました。企業も分解していけばマイクロクライアントになるわけです。このマイクロクライアントが台頭してくるということが今まさに起きている変化なんじゃないかと思っています。

さらにいえば、IoT(Internet of Things)、ドローン、自動運転車というのはすべてロボットと認識すべきで、AIはそこに載っかる技術だと考えると、それらはすべてマイクロクライアントになる可能性があります。

将来われわれは、ロボットと取引しているかもしれない。

まあ最近のテクノロジーを見ていると、将来そうならないほうがおかしいかなとすら思い始めています。

個人情報を積極的に売れ!

これは、さすがのリクルートでも眉をひそめられました。

リクナビという圧倒的な通過率を誇るメディアを持っていたから、この会員情報をレバレッジすべきだと思ったんです。ただ、その意見は若者の幼稚な主張という受け止められ方をしましたし、事実そうでした。

その後の個人情報保護法など一連のプライバシーにまつわる問題でどんどんこれは難しくなっているかのように見えますよね?

ただ、ターゲティング広告、レコメンデーション、パーソナライズ、ジオターゲティング広告など標準化された広告技術、マーケティングオートメーション、DMPなどの名寄せのテクノロジー、それだけじゃなくソーシャルメディア、音楽や漫画や映像などのコンテンツ配信サービス、アプリマーケット、Uber(ウーバー)やAirbnb(エアビーアンドビー)などのシェアリングサービス、先述のFinTechなど、最近のインターネットビジネスはすべて個人情報を違うかたちでマネタイズに利用していると考えたほうが個人的には自然に思えます。

個人情報を、そのまま販売するともちろん問題ですけど、別のかたちでマネタイズするのが最近の主流で、これはこの後もそんなに変わらないんじゃないかなと思っています。

ヘルステックなど、センサー系の技術も個人情報とひも付けて別のかたちでマネタイズするというビジネスであると捉えたほうが正しい理解じゃないかなと思うんです。

そしてこれらのすべては、何を示唆しているか? というと「個人」へのパワーシフトが起きているということだと思うんです。今改めて言う必要はないかもしれないですけど、決済も、マイクロクライアントも、個人情報もすべてが「個人」のパワーシフトを象徴していると考えているので、第2回(これからのビジネスは個のエンパワーメントに賭けろ)でもそういう話をさせていただきました。

未来を予測する方法

ということで、中学生の頃に初めて、社会の仕組みについて知らなければと痛烈に焦ってから7年、その後リクルートに入社し10年、起業して3年、合計20年余りにわたって、私はこれらのテーマについて折に触れて考えを深めてきました。

そして、ここまで読んでいただいた方は、もうおわかりだと思いますが、社会に出て実際に仕事をしたり、逆に社会人経験がなかったり、あるいは仕事を直接は手がけられなくても、やってみて失敗しても、考えを深めていくことはできるんですよね。今この瞬間もそうです。仕事とまったく関係なくても、FinTechは大好きだし、歴史にも興味深々です。そして、その業界じゃなくても、専門家じゃなくても、結構深い話をすることもできます。いい質問ですね、と褒めてもらうこともできます。

いつも未来に向けて考えるとき、新しい技術やトレンドを点で捉えるのではなく、線で捉えるようにしています。そのために、歴史の流れをとにかく勉強して、引き出しをいっぱい持っておくようにしています。まさに温故知新とは、昔の人はうまく言ったものですよね。

私の実感値ですが、点から線を浮かび上がらせるためには、別に歴史を勉強するだけが手がかりじゃなくて、恋愛も子育ても、恥も失敗も、とにかく人生のすべてが役に立ってきました。無駄なものが一つもないとはまさにこのことです。自分の人生の歴史の中にもヒントが必ずあるんだと思います。このNewsPicksの場が好きなのは、まさにそれです。いろんな人の人生が浮かび上がってきますよね? それを私もここに書くことで皆さんから学ばせてもらっているのです。

未来を予測する近道みたいなものがあればいいなあと思うんですが、いつも目の前のことに自分の人生をぶつけて、どんな線が浮かび上がるかを丁寧に拾い集めていくという方法しか今のところ見つかっていません。

ただ、個人的に好きなので多分にこじつけもあるんでしょうが、本を読み、歴史をたどり、アートに学び、人に教わり、それらを自分自身の理解の念頭に置くことで、未来が考えやすくなるような気がしてならないのです。

NPOに向けたグロースハックを提供する有給インターンシッププログラムを始動します。プロジェクトを運営&推進する大学生を募集中です(詳しくはこちら)。

*本連載は毎週日曜日に掲載します。