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八田英二会長インタビュー4回

教育の一環である高校野球は、ビジネスをしてはいけないのか

2016/3/11

──経済学の専門家である八田会長に聞かせてください。「高校野球は教育の一環だから、おカネ儲けをしてはいけない」と言われます。「おカネ儲け」は確かに悪い響きにも聞こえますが、ビジネスと置き換えればポジティブになりますよね。「高校野球は教育の一環だから、ビジネスをしてはいけない」と置き換えたとき、本当にいけないことなのでしょうか。

八田:日本高野連を運営しようと思えば、経済的な基盤や土壌がしっかりしていないとできないのは確かです。ご存じのように、高野連は裕福なところではありません。しかも職員は9人で、常時働いておられる。給料も必要です。そういう面で、経営に関して健全な財政基盤が絶対に必要です。

そのために、どこに収益源を求めるか。2013年に甲子園球場の入場料を少し値上げさせてもらいました。それでも外野席は無料です。(大会運営以外にも)さまざまな費用がかかりますし、センバツ、夏の選手権による選手の旅費などの問題もあります。なるべく負担がかからないようにしたいと考えていますので、高校野球の理念、アマチュアの理念に反しない限りにおいて、新しい収益源を求めたいと考えるのは当然だと思います。

──端的に言うと、高野連はもう少しうまくおカネを回してほしいと思っています。

どうぞ、提案を何か。

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──NHKから放映権料をとっていないことが理解できません。ここで収入を得れば、甲子園大会における宿泊費の補助金(現在は1日3000円を各チーム20人まで)を増やすこともできます。

それは、ぜひとも書いてください。

NHKが放映権料ゼロの理由

──はい。昨年のセンバツで優勝した敦賀気比高校でさえ、寄付金を集めるのに苦労しているとOB会の人に聞きました。NHKから放映権料をもらって選手の旅費などに回していけば、高校野球はもっと発展できると思います。経済学者に言うのも大変失礼ですが、経済活動として当たり前のことじゃないですか。

NHKは日本全国津々浦々まで放送していて、何かニュースが入れば教育テレビで流したり、いろいろやっておられます。歴史的なこともあるでしょうし。これだけ高校野球が盛り上がった、あるいは日本国民の間で文化になったことに、NHKの果たされた貢献は非常に大きいと思います。

その面では、高校野球は全国民の財産である。そういうところから言えば、NHKが無料で見せられるのは一つかな、という感じもあります。そのためにNHKを使い、私たち(日本高野連)も日本国民に見てほしい。そういうことをやっていただく面では、タダで当然だということもあるかもわかりません。

ただ高野連として財政基盤の確立のために入場料をもっと上げればいいのかもわかりませんが、なかなか上げるわけにはいきません。

──NHKから放映権料をとれば、みんなをハッピーにできると思います。NHKは除きますが。

日本高野連職員:一つだけ言っておくと、(出場校に)補助金を出しているのは高校野球だけですからね。ほかの大会では一切ありません。高校野球のほうが、よほど加盟校に対して支払いをしています。高野連の加盟校は(寄付金集めで)大変だと言っていましたが、ほかの競技はもっと大変です。参考までに。

オリンピックと高校野球は違う

──情報ありがとうございます。ただ、NHKで露出をする意味も多々あると思いますが、その一方で時代が変わってきています。朝日新聞も毎日新聞も朝日放送も、甲子園の開催に伴う運営や放送で赤字になっているそうです。彼らにうまく経営してもらわないと、日本高野連としても困ると思います。もっと時代に即したやり方を模索する時期に来ているのではないでしょうか。

八田:オリンピックの場合、あっちこっちですごいおカネが動いているわけですよね。ただ高校野球はそういう商業的なものとは少し違う、というところが伝統的な考えとしてありますので。もう1歩これを踏み出すのはなかなか大変でね。ただ、皆さんの考えはぜひ書いてください。

──高校野球だけではなく、今後の日本野球界の存続を考えたとき、いろいろなサイクルをうまく回さないと行き詰まると思うんですね。野球人口の減少もありますし。

先ほど言ったように、財政基盤を確立したいのは絶対あります。そうしないと、やっぱり続いていかないので。高野連はわずかでも(甲子園参加高校に)補助をしています。それで何とか今、回っていることは回っています。今後の少子化時代になると、加盟校数も減ってくる。会場収入も少なくなることはあります。何らかの収益源は探さなければと思っています。イコール、NHKということには……。

──一つの案です。

案としてはあるかもわかりません。その方向になると、「高校野球と放映権ということは、おカネの話か?」ということもありますからね。おカネをもらって試合を見せるということですが、アマチュアとしてのいろいろな思いがありますから。

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高校生の負担を少なくしたい

──それを高校生に還元すれば、みんなが納得すると思います。

氏原:高校生にいいかたちで返ってくるのであれば、いいと思います。前回、日程の話をしましたが、緩くできないもう一つの理由に費用的な問題があると思います。たとえば試合間隔を中2日としたときに、「その分の球場費用などを放映権料から回した」と報告すれば、「おカネの話か」という批判もないのかなと思います。

八田:今後の運営面において、高校生の負担を少なくしてあげたい。そうして「収益源はどこに見いだすのか」という議論にまで進むとなれば、そこは一つだと思います。

ただ、そこまで来ていないように感じまして。この間、加盟校からもらっている会費を少し上げました。あるいは(数年前に甲子園大会入場料の)値上げをして、収入増を図っています。もっと苦しくなって、「(会費を)もう1段階上げようか」「入場料を上げるか」「高校生のためになるのなら、ちょっとくらいマーク(広告)を入れても」という話になれば、一つ考えていいと思う。別にNHKだけじゃなく、スポンサーを付けるとかですね。

ただ、「そこまで高校野球が行くのか?」という声は絶対にあると思います。オリンピックがそこまで行っているので、問題ないとは……。

──侍ジャパンのU-18代表はユニホームにスポンサーのロゴが付いていました。あれはなぜいいのですか。

あれは高校野球ではなく、決めているのは上のほうですから。

──あくまで侍ジャパンの事業だから、ということですか。

あそこから、こっち側におカネは入っていませんので。補助も何ももらっていませんから。

繰り返しになりますが、意見があることを書いていただいていいと思います。それが社会を動かしていくと思いますし。それがまた高野連に返ってきて、「じゃあ、ここをこう変革していこう」という力につながっていきます。

放映権料で高校野球に好循環

NHKに放映権料を無料にする代わりに、全試合放送するという約束を交わしたのは、八田会長が就任するよりだいぶ前の話だ。八田会長に非がない一方で、その約束が今も続いていることも事実である。

そろそろ、NHKとの約束を考え直すタイミングに来ているのではないだろうか。過剰なビジネスに走るのではなく、あくまで高校生たちのために還元する。そうして環境や日程を整備することで、高校野球、ひいては日本野球全体に恩恵があると思うのだ。

高校野球がさらなる繁栄を果たすため、できることはまだまだたくさんある。10年以上現場で取材を続けてきたライターの氏原英明が、ずっと温めてきた提案を八田会長に行った。

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(取材・構成:中島大輔、取材:氏原英明、撮影:福田俊介)

*次回は3月16日(水)に掲載します。