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プロピッカーが選ぶ今週の3冊

何を読むかよりも、読まない本を決めたほうがいい

2016/3/9
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。水曜は「Pro Picker’s Choice」と題して、プロピッカーがピックアップした書籍を紹介する。今回は、エコノミストであり著述家の吉本佳生氏が、読まなくてもいい本、資産運用、家電をテーマに3冊取り上げる。とても実用性の高いこれら3冊が、具体例とともに平易な言葉で語られる。

 【BookPicks】Yoshimoto.001

評者自身、年間5冊の執筆を目標として原稿を書き続け、2014年11月下旬に脳出血で倒れてしまった経験を持っています。ですから偉そうなことは言えないのですが、近年の出版業界は、とにかく本を出し過ぎている。関係者もみんなよくわかっていながら、それでもやめられないという実情があります。

そんな中、どの本を読むといいのかを各分野について考え、推奨図書リストを作成することは、専門家にとってさほど難しいことではありません。

しかし、ご自身がベストセラー作家である橘玲さんは「何を読むかよりも、何を読まないかを決めたほうがいい」として、本書を書かれています。

第一に、複雑系について、フラクタルを見つけたマンデルブロの話からはじめて解説しています。確率という、現代社会を理解するうえで極めて重要な思考ツールの紹介を、とてもわかりやすくやってのけているという印象です。

第二に、進化論について、子殺しをするサルの話からはじめて解説しています。リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』出版、ジョン・メイナード・スミスによる生物学へのゲーム理論導入、E・O・ウィルソンの『社会生物学』刊行がどんな展開につながったかを手際よく整理しているという印象です。

第三に、現代の経済学を劇的に変貌させてしまったゲーム理論について、キューバ危機とシグナリングおよびコミットメントの話からはじめて解説しています。

フォン・ノイマンとオスカー・モルゲンシュテルンが『ゲームの理論と経済行動』を刊行してこの理論を打ち立て、ジョン・フォーブス・ナッシュが「ナッシュ均衡」と呼ばれる概念を見いだしたことなどをわかりやすい図解で説明しています。

第四に、脳科学について、フランシス・クリックの『驚異の仮説』の出版の話からはじめて解説しています。その中で、「見る」とはどういうことか、「トラウマ」という考え方がどう間違っていたかなどをわかりやすく説いています。

第五に、功利主義について、複雑な話を単純化して解説しています。トレードオフの考え方からはじめ、正義は娯楽であるとの結論を示し、囚人のジレンマやマッチングの話を絡めて、いかにも橘さんらしい明快なブックガイドの最終章となっています。
 【BookPicks】Yoshimoto.002

評者自身が、大学卒業後に3年2カ月、当時都市銀行と呼ばれた住友銀行に勤務し、バブル経済真っ盛りの銀行員の行動を目の当たりにしました。

そして、大学教員に転じてからは、銀行が販売したデリバティブ商品に関する裁判に何度か関わってきました。ですから、個人が自分の資産を運用しようとするときに、銀行員なんてまったく信用できないことはよく承知しています。

他方で、本書の著者である山崎元さんにはお目にかかったことがあり、たくさんの金融機関での勤務経験を経て、資産運用に関して深い知識と豊富な実務経験をお持ちであると認識しています。

現実的な話ではありませんが、もし、山崎さんが評者の資産を運用してくださるのであれば、喜んで、そして安心して預けるでしょう。そんな山崎さんが、あなたのお金を銀行に減らされないために、何に注意すればいいのかを書いているのが、本書です。

最初に「普通預金は案外悪くない」という話が書かれていますが、これは評者も同意見です。また、「銀行は、銀行員の顔を見ないで使おう」とか「銀行員が高給取りであることを忘れるな」といった小見出しが本文中にあります。

当然ながら、強調すべき内容が小見出しになっているのですが、それぞれ本当にその通りなんだよなとうなずきたくなる事項ばかりです。

銀行員であれば、顧客が銀行に来る前に決して読んでほしくない内容ばかりが書いてある本です。とはいえ、山崎さんは銀行のビジネスを邪魔しているわけではありません。

お金のプロとしてきちんと尊重し、顧客として適切に対応することで、たくさん勉強している誠実な銀行員が正しく評価されることを望まれていると感じられます。

そのために、第1章で銀行との正しい付き合い方を論じ、第2章で銀行員には不都合なお金の真実を語り、第3章で銀行員が教えてくれないお金の「正しい!」知識を説明したうえで、第4章で個人はお金をどう運用したらいいのかを論じています。

高齢者、若者に適した資産運用商品などは存在しないから、老後資金も子どもの学費も運用方法は同じ。銀行に相談するのはダメで、手数料が高い商品はそれだけでダメなど、冷たい真実が述べられています。
 【BookPicks】Yoshimoto.003

以前、一緒にビットコインについての本を書いたり、電子書籍の企画で連携させていただいたりした西田宗千佳さんのご著書です。

本書は、パナソニック全面協力の下、IT家電を除く17種類の家電について、稼働の原理や発展の歴史などを紹介しています。

第1章では生活に欠かせない家電として、洗濯機、掃除機、電子レンジ、炊飯器を、第2章では、生活を豊かにする家電として、テレビ、ビデオレコーダー/ブルーレイディスク、デジタルカメラ/ビデオカメラを取り上げました。

第3章では、生活を快適にする家電として、エアコン、照明、電動シェーバー、マッサージチェア、トイレ、電気給湯器を挙げています。最後に第4章で、暮らしのエネルギーを支える家電として、電池、太陽電池、HEMSを並べ、締めくくっています。

たとえば電子レンジについては、電波で調理できる仕組みが図解で説明されていますが、「軍用レーダーの開発過程で偶然、電子レンジの原理が発見された」といったエピソードも紹介されています。まさに本書の帯の「思わず誰かに教えたくなる! トリビア満載!」という言葉通りの内容がたくさん詰まっています。

炊飯器については4台に3台は製品寿命が来る前に買い換えられているとのデータを示し、そこまでおいしいご飯にこだわる日本人の姿を浮き彫りにしています。

そして、要求の高い日本人に対し、試行錯誤しながら炊飯器が開発された歴史が語られます。あるときに「土鍋」が理想形だと発見され、今の炊飯器はほとんど「土鍋」のかたちをしています。

テレビやエアコン、照明やシェーバーといった、普段、私たちが慣れ親しんだ家電についても、基本的なところから易しく図解してくれていて、おまけに、開発の歴史が加わり、最新情報も盛り込まれています。

それで、著者の西田さんが家電に強いのは当然ですが、経済・ビジネスの基本的な考え方についても、よく理解していらっしゃいます。その方がユーザー側の目線で徹底的に取材したうえでお書きになった本ですから、家電を知るための必読書といえるでしょう。