【山崎元】いま私が22歳だったら、ゴールドマン・サックスを選ぶ

2016/3/9
※この記事は長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながら回答する「山崎元のマネー&ライフ相談」から記事を抜粋して掲載しています。
【山崎先生への質問】
私は国立の女子大学3年生で、現在外資系コンサルティングの内定を持っています。でも、就活が本格化するのはまだこれからです。NewsPicksの「就活特集」を読んで、企業研究をしています。そこで山崎さんにぜひお伺いしたいのです。
この特集中に「22歳だったら行きたい会社」という記事がありますが、山崎さんがもし22歳だったら、やはり三菱商事を選ばれますか? あるいは全然違う業界に行かれますか? 山崎さんの「会社選び」について伺いたく、どうぞよろしくお願いいたします。
(大学生、20代、女性)
今と22歳、山崎元の答えは2通り
こんにちは。挨拶的には、これから就活をされるという相談者は「大変」なのでしょうが、内定を出して有能な学生を確保したつもりなのに、その学生にこれから本格的に就活をされるとは、外資系のコンサルティング会社の採用担当者の方も「大変」に思えて、少々同情してしまいます。
企業研究は、会社のホームページのIRのコーナー(「株主・投資家の皆様へ」などとあるページ)で有価証券報告書や決算短信を2年分くらいを読み込むのがいいと思います。
一般の就活学生向けには、東大経済学部の現役学生が書いた「進め!! 東大ブラック企業探偵団」(大熊将八著、講談社)を読んで、企業分析の要領を掴むことをお勧めしますが、外資系コンサルティング・ファームの内定をお持ちの相談者は、もっと詳細な分析をされるのだろうと推測します。
もっとも、会社あるいはもっと細かく職場というものは、実際に就職して働いてみなければわからない(気楽な「お客様」であるインターンではわからない)ものなので、「まずは就職してみて、後の身の振り方は、その都度考えたらいい。何があっても自分で自分の人生を切り開くのだ!」という気持ちで就職してみて下さい。
もちろん、将来の長きにわたって自分にピッタリの職場を選ぶことができれば、回答者のように無駄な転職回数を重ねることのない効率的な職業人生を送ることが出来るので、「最初のサイコロ」もベストを尽くして振る価値があります。
さて、どちらも架空の状況なので厳密・正確に答えることはできませんが、ご質問は、
(A)今の回答者の年齢が22歳でこれから就職先を選ぶならどこを選ぶのか?
(B)22歳の頃の回答者が今就職先を選ぶならどこを選ぶのか?
という問いの2通りの状況設定で考えることができるように思えます。
「今の山崎元」が22歳ならゴールドマン
さて、今の回答者が現在の知識と価値観を持って、22歳でこれから就職先を選ぶのであれば、第1志望の会社はゴールドマン・サックスとするだろうと思います。
就職先の会社(あるいは職場)を選ぶに際して、回答者が重要だと思う条件は以下の5つです。
(1)興味が持てる仕事であること
(2)価値観に反しない仕事であること
(3)優秀な人が多い職場であること
(4)忙しい職場であること
(5)転職が容易な職場であること
興味が持てない仕事は、いかに社会的評価が高くても、そもそも続けることが難しいでしょうし、自分の仕事上の能力を伸ばすうえでも不向きです。また、自分の価値観に反する仕事に就くと、絶えず自分に疑念がわいてきますし、すると大事なときに頑張れません。(1)と(2)に反する職場は、最初から除外すべきです。
仕事と職場を評価するうえでは、成長性などの面で「いい会社か?」ということよりも、「自分にどのような人材価値が身に付くか?」という観点を重視することが肝要です。
有能でかつ親切な良い指導者がいて、仕事を教えてくれるような職場が理想的ですが、そこまで理想的で親切な職場はなかなかありません。
次善の条件として、優秀な人が多い職場で、忙しい職場であれば、同僚から刺激を受けるし、仕事の経験を多く積むことができるので、結果的に自分の能力と経験が拡大することを期待できます。自分の人材価値形成への配慮が(3)と(4)の意味です。
そして、長年さまざまな職場で働いてみて思うことですが、会社を辞めたOBがいい会社に転職できたり、独立するなどで活躍している会社は、仕事がよく身に付き、人材ネットワークのメンバーシップにも価値があり、概ね社会的な評価も高くて気分がいい会社です。(5)は、企業を調べる際に注目する価値のあるポイントです。
筆者がどのような仕事に興味を持つかですが、できれば「マーケット」が絡む仕事がいい。ゲームとしてのマーケットは、研究の甲斐がある対象である一方で、たくさん研究したり、大きな資金を持っていたりしたら勝てるというわけではない、厄介だけれども面白くて公平な、つまり参加者を退屈させない性質を持っています。
自分の価値観にとっては、端的に言って顧客を騙すことがある証券会社の仕事は「許容範囲のギリギリ」かその少し向こう側ですが、リテールのビジネスを持たず、原則として法人顧客を相手にするゴールドマンの市場取引部門あるいはリサーチ部門なら、証券会社の嫌な面をあまり見ずに、十分やり甲斐を持って仕事に取り組めそうな気がします。
かつて関わって、気に入った仕事でもあるファンドマネジャーになるために、運用会社に入るのも一つの選択肢ですが、バイサイド(運用会社側を指す業界用語です)は端的に言って仕事が楽で緩い職場なので、ビジネスパーソンとしての人材価値を養うにはいくらか不向きに思えます。
本社に優秀な人が多く、たぶん忙しさが不足することはないでしょうし、入社後の研修が充実している(その分厳しいらしいのですが)と聞くゴールドマン・サックスは、職業人生スタートの場所としてなかなか良さそうに思えます。業界順位的にも、将来の転職が楽なポジションにある会社だといえるでしょう。
回答者の現在の仕事は経済評論家なので、将来、評論家に転ずるキャリア・パスとしては、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン コンサルティング グループ(BCG)のようなコンサルティング会社がいいのかもしれませんが、私にはコンサルタントとしての自分に陶酔できるほど強い自己愛の感情がありません。
また、過去に現役のコンサルタントと話をしてみて、あまりいい印象を持ったことがないこともあり(知識が浅いくせに、自分のことばかりよくしゃべる人が多い)、コンサルティング・ファームは目指さないと思います。
メーカーは組織および仕事のテンポが回答者の性格には合わないように思えますし、IT・ソフトウェアなどは大学卒業時点で専門性につながるスキルや知識を持っていないので、不利でしょう。
三菱商事ですか? あの会社は間違いなく「いい会社」ですが、もう少し刺激的な職業人生を送りたい。明らかに自分よりも商事向きなビジネスパーソンの人物像が目に浮かぶので、あの会社はそういう人にお任せしたい。
リクルートや、ある程度の大きさのベンチャー企業は「すぐに起業するネタや度胸はないけれども、将来は自分で会社をやりたい」人にとっていい出発点なのかもしれませんが、私は何が何でも起業を目指すような強い事業意欲を持っていませんし、お金に対して執着が乏しいこともあり(実は、長年働いてみて、はじめて気づいたことですが)営業向きのタイプでもないので、やめておくほうが無難でしょう。
「22歳の山崎元」君はどう考えるか
これは、先のものよりも想定が難しい条件です。
22歳の頃の回答者は、(1)官僚が嫌いで(高校時代にミルトン・フリードマンの本を読んで経済学部を目指したくらいなので)、(2)自己評価が低く(その分、他人に厳しいのだからいい性格ではありません)、(3)勝負事が好きな、やや気難しい若者でした(後に、気難しくはなく、明るくなりました)。
大学は3年間で卒業に必要な単位を取り終えることが十分可能なくらいゆるゆるの経済学部だったので、できるものなら1年早く卒業して、実際の経済に触れたいものだと思っていました。
当時、父親の商売が順調で「外国の大学で勉強したければ金は出してやるぞ」と言ってくれたのですが、実は付き合っている女の子(1歳下)がいて、彼女と一時的にであっても別れるのが嫌で、父に「三菱商事にでも入って、留学に行きたければ、社内留学制度を使って行くから、いいよ」と言って、申し出を断った記憶があります。
「女々しい」と言われてもしかたがない情けなさです。キャリア選択的には、あのときが大きな人生の岐路だったのかもしれません。
いずれにせよ、国民から見ると、税金を費やして国立大で学ばせた甲斐のない、志の低い東大生でした。
神様か誰かが「お前は、あとでどうせ転職するようになるのだよ」と教えてくれていたなら、「公務員(当時なら通産省でしょうか)→海外留学→民間に転職」というさらに納税者に迷惑を掛けるコースが、損得だけなら実は一番得だったとも思いますが、「今」であっても、やはり回答者は官僚は目指さないだろうと思います。民間会社への就職を目指すはずです。
では、「22歳の山崎元」君は今どこを目指すのでしょうか。
総合商社は、競馬で言うと一番人気馬の単勝を買うような感じで、彼は気が進まないはずです。自己評価が低いのでコンサルティング・ファームを目指すとも思えません(そのくせ、コンサルを目指す学生を軽蔑していそうです)。もちろん、電通やメディアを目指しそうなチャラ男君でもない。
さて、そのほかの選択肢として候補にあがりそうなのが、実はメガバンクです。メガバンクは、毎年大人数の学生を採用していますが、近年、投資銀行部門や国際部門、あるいは市場部門といった専門職を一般の総合職と別枠で採用するようになっています。
「22歳の山崎元」君は、しょせん学生なので、異様なまでに自行への忠誠心を求める銀行の文化や、銀行員の選手寿命の短さなどを知りません。
「このあたりから、現実の経済に接するのがいいか」などと考えて、消去法的にメガバンクに興味を持ちそうな、嫌な予感がします。メガバンクへの就職なら、世間体的にはまあまあですし、東大生ならありふれた就職で、自意識過剰な感じもしない。
「22歳の山崎元」君は、人物はつまらないとしても、面接は上手いし、何といっても東大生だし、成績もまあまあ以上なので、選り好みをしなければ、3行のうちの1行くらいからは内定をもらえそうな気がします。
もちろん、回答者が銀行という職場に適合するはずがありません。しかし、外から見てそのことを見抜くのは至難の業でしょう。私が間違える可能性はかなり大きい。結局、スタートする会社は異なりますが、転職を重ねる職業人生に突入するような気がします。
学生は、しばしばこのような調子で就職選択に失敗するので、ご参考になればと思い、恥を忍んで書いてみました。仮想の状況を考えてみて、自分の何が悪かったのか、おぼろげですが少しわかったような気がします。