池田社長のスーパーボウル観戦記。ハマスタ開幕戦で革新演出予告

2016/3/7
横浜DeNAベイスターズの観客動員を毎年アップさせ、横浜スタジアムの友好的TOBも成功させた池田純社長が2016年2月7日、NFLのスーパーボウルを観戦した。もちろん、アメフトの試合をただ観戦したわけではない。世界最高峰のスポーツイベントから何を学び、ベイスターズの経営にどう生かしていこうと考えているのか。  
私たちがベイスターズの経営権を取得して5年目に入りましたが、正直なところ、スポーツ興行に関してはまだまだ素人の域を出ていないと思っています。体験した誰もが「すごい!」と口にするような本物のスポーツイベントを、どうすれば自分たちの手でつくり出せるのか。その学びを得るために私が着目したのがNFLのスーパーボウルでした。
ブロンコスを1シーズン応援
まずは私自身が1シーズン、NFLデンバー・ブロンコスのファンになり、なぜこのスポーツが全米で熱狂的に愛されるのか、放映をはじめとしたビジネスの仕組みはどうなっているのかを勉強することにしました。
手始めに2015年9月、ブロンコスの開幕戦を現地で観戦し、帰国後も試合中継は欠かさずチェックしました。すると、応援してきたブロンコスがスーパーボウルの出場権を獲得! しかも2016年は第50回という節目の年です。
もともと2016年はスーパーボウルを絶対に見に行こうとは思っていましたが、こうした偶然が重なったこともあり、何とかチケットを確保しました。世界最高峰といわれるスポーツイベントのすべてを目に焼き付けるために、イベント担当の職員2人とともに再びアメリカへと飛びました。
試合を3層構造で特別演出
会場となったリーバイス・スタジアムがあるサンタクララを含め、サンフランシスコに入ったのは試合の3日前でしたが、すでに街全体がスーパーボウルのムード一色。
広場や目抜き通りでは「スーパーボウル・シティ」と呼ばれる無料のパーティーイベントが行われ、大型コンベンション施設では「NFLエクスペリエンス」が開催されていました。こちらは有料(40ドル)で、各チームのユニホームや優勝トロフィーなどの展示、またフットボールの体験コーナーなどが設けられています。
スーパーボウルをスタジアムで実際に見ることができるのは数万人ですが、こうしたイベントを試合本番の1週間ほど前から展開することで、人々がスーパーボウルと接触する機会は飛躍的に増えます。
間口を広げるための「シティ」、より身近に体感できる「エクスペリエンス」、そしてその先にプラチナチケットを手に入れた人だけが入ることのできる「スーパーボウル」があるという3層構造。一つの試合をより特別なものに演出し、注目度を高める(結果、視聴率が上がり、放映権料も上がる)仕組みとして、非常にうまくできていると感じました。
チケット自体に特別な価値
試合当日はキックオフの2時間ほど前にスタジアム入り。興味深かったのは、チケットの引き換えが当日にしかできず(例外もあるかもしれません)、窓口に長蛇の列ができていたことです。これは公認のStubHub以外の二次流通やそれによるチケット価格の高騰に一定の歯止めをかけるための措置だと想像します。
スーパーボウルのチケットにいかに希少価値があるかは、試合が終わった後にも痛感させられました。なんと使用済みのチケットを買うダフ屋の姿があったからです。スタジアムを出てすぐの場所では40ドル、少し離れて駐車場の近くまで行くと80ドル(約1万円!)で買うと声がけしています。
それでも手放す人はほとんどいません。確かにデザインも豪華で凝っていますし、チケットそのものに大きな価値が生まれているということでしょう。ベイスターズでも早速今年から、手にした瞬間うれしくなるようなデザイン性と価値を感じるチケットを一部で導入することを決めました。
2016年のスーパーボウルのチケット。
最高潮まで計算し尽くされた進行
スタジアムの中に入ってまず目を引いたのは、フィールド上にあふれ出すように立っている関係者の数の多さです。
試合前のスタジアム。
チームスタッフ以外にスーツ姿などの人々がこれだけ大挙している光景は、スーパーボウルのイベントとしての大きさ、特別さを物語っているようで、その光景が目に入るだけでも“お祭り感”がひしひしと伝わってきました。
ビジョンには、この日のためにつくられたCMや“対決感”を盛り上げる選手インタビュー、過去50年の歴史とすべての歴代MVPの紹介などの映像が次々と流され、緻密な時間管理のもとでスタジアムの雰囲気を盛り上げていきます。
そしてレディ・ガガの国歌斉唱を経て、観客の熱気がキックオフの瞬間に最高潮に達するよう、見事なまでに計算され尽くしていました。
進行管理の緻密さは、ハーフタイムショーでも見てとれました。前半が終わると同時に何百人というスタッフが現れて、あっという間に本格的なステージセットを設営するさまは壮観です。
誰がどこに何を移動させるか、徹底的にマニュアル化され、まさにイベント進行のお手本を見る思いでした。スーパーボウルの一日すべての進行をマニュアル化したものは、広辞苑ほどの厚みにはなっているのではないでしょうか。
グラウンドにいる大勢の関係者たち。
ハーフタイムショーはTV向け演出
そのハーフタイムショーはスーパーボウルの目玉の一つです。アメリカ国民は、試合の何カ月も前から、どのアーティストが出演するのかといった話題で大いに盛り上がり、試合そのものに勝るとも劣らない注目度を誇ります。
2016年のハーフタイムショーを彩ったのはイギリスのロックバンド、コールドプレイ。ゲストとしてブルーノ・マーズとビヨンセが登場しました。中でもビヨンセのパフォーマンスが非常に印象的でした。人工芝のグラウンドをハイヒールでグリグリとえぐりながら踊っていたからです。
もし日本で同じことをやれば、「選手が戦う大事なフィールドになんてことをするんだ」と、間違いなく批判の声が上がるでしょう。
しかしスーパーボウルでそれが許容されるのは、ハーフタイムショーがテレビ中継の目玉であり、その巨額な放映権料によってこのイベントが成立していることが、選手やファンをはじめ、すべての関係者に理解されているからだと思います。
現地で見ると、ハーフタイムショーがあくまでもテレビ向けの演出であることがよくわかります。グラウンドの中央につくられたステージの周辺は、ショーを見るためだけに集まった観客たちで盛り上がっていますが、スタンドはというと、コンサートのような高揚感に包まれているわけでもなく、冷静に楽しんでいるといった程度です。
ハーフタイムショーを行うビヨンセ、コールドプレイ、ブルーノ・マーズ。(写真:Ezra Shaw/Getty Images)
W杯とスーパーボウルの違い
ビヨンセの“グリグリ”は、NFLの世界に「プレイヤーズ・ファースト」という絶対的固定観がもはやない証拠だと思います。開幕戦で初めてNFLを生で見たとき、試合がCMに合わせて中断することにあらためてとても驚きました。選手たちはそれが当たり前だというようにCMが明けるのを待っています。
またレフェリーはプレーの一つひとつに丁寧に説明を行い、どんなプレーに対してもリプレー映像がしっかりと流されます。スタジアムやテレビで試合を楽しんでいる人がいるからこそ、このスポーツが巨大なビジネスとして成り立っている。ならば、とことん見ている側に立った工夫をしよう。そうした在り方、考え方がNFLでは常識となっているのだと思います。
私はサッカーのW杯や、チャンピオンズリーグの決勝戦も視察してきましたが、これらはあくまで競技としてのスポーツの最高峰の舞台。しかしスーパーボウルは、スポーツビジネスの神髄が詰まった、まさしく世界最高峰のスポーツイベントでした。
開幕戦で始球式をやめる理由
そのスーパーボウルを見て、5周年を迎える今年のベイスターズの本拠地開幕戦をすごいものにしようと改めて考え直させられました。試合開始の45分ほど前からえりすぐりの音楽と映像で雰囲気を高めていき、プレーボールの瞬間に球場の盛り上がりが最高潮に達するような構成を今、1分単位で練りに練っているところです。
その一つとして、恒例行事化している始球式を今年はやめてみようと考えています。確かに有名人が登場することで一定の盛り上がりはあるものの、高揚感を醸成する演出の流れが途切れてしまい、どうしてもスタジアムのテンションがそこで一度落ちてしまうからです。
目指すべきは、誰も見たことがないような演出であり、ベイスターズの開幕戦がスーパーボウルのように「一生に一度は行きたい」スポーツイベントになることです。