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ロードサイドチェーン店の出店戦略 丸亀製麺(2)

【丸亀製麺】都市型ビルイン店舗で新たなビジネスチャンスを狙う

2016/3/07
全国779店舗を展開する讃岐うどんチェーンの丸亀製麺。麺やだしから、店舗で手作りするという独自手法は、味へのこだわりだけではなく、店舗数の急拡大とも密接に関わっていた。丸亀製麺を運営するトリドールの出店戦略の後編をリポートする。
前編:外食チェーンの禁じ手で攻める「持たない経営」

実験店舗でテイクアウトを模索

平日、ランチタイムの「丸亀製麺 新宿文化クイントビル店」(東京都渋谷区)。オフィスビルの1階に60坪、88席を持ち、サイズは標準的なロードサイド店と同じだ。

オープンキッチンに製麺機と大きな釜が置かれ、調理を見物しながらセルフ式で注文する方法も同じ。厨房(ちゅうぼう)は13坪と通常店より広い。

しかし、雰囲気はロードサイド店と大きく異なっていた。圧倒的に多いのはオフィスワーカー。首から社員証を提げた人が並ぶ姿は社食の行列のように見えなくもない。女性の1人客も目立つ。

席の大部分は8人がけのテーブルを縦方向に隔て、向かい合わせの視線をさえぎるようにしたカウンター風だ。多くの人はうどんと天ぷらなどのサイドメニューを取り、スマートフォンの画面を見るなどしながら食事して短時間で立ち去る。

新宿文化クイントビル店は、オフィス街のランチ需要を取り込むため2011年に開店した。混雑時には通常レジに加えて現金専用レジ、そして店舗入り口で注文から持ち帰りまでが完結するコーナーが稼働する。

テイクアウト客はイートインと同じように、厨房で調理されるできたてを待つ。天ぷらなどのサイドメニューも選べる。持ち帰り袋はあらかじめ底を広げ、箸などを入れておく。容器を入れて持ち上げるだけで素早く客に渡すためだ。

新宿NSビル店も含めた2店の店長を務める土井育大(いくひろ)は2013年入社。同業他社からの転職だ。出店ラッシュの時期の入社だったため、当時は2カ月おきのペースで丸亀製麺各店の店長を歴任、2014年から現職に就いた。

「定食、どんぶりものの提供など、実験しながら走っているイメージ。細かなノウハウも含め、他店舗に順次拡大します」(土井)

新宿文化クイントビル店には周辺のオフィスから昼と夜の2度来店する常連客もいる。夜の人気メニューは親子丼だ。

丸亀製麺では天ぷらとごはんをオーダーして「天丼」にするなど、うどん以外の「裏メニュー」もアピールしている。都心の店舗では特に、一定数で頭打ちになりがちな来店数をいかに増やすかが肝になる。

丸亀製麺 新宿クイント店。コンパクトな店内でもロードサイド店と同じ厨房機能(撮影:阿部祐子)

丸亀製麺 新宿クイント店。コンパクトな店内でもロードサイド店と同じ厨房機能(撮影:阿部祐子)

店舗開発と営業は社内SNSで連携

「2020年末までに首都圏を中心に新たに300店を開く」計画を発表済みのトリドール。しかし「今までの出店とは違う」と店舗システム部の部長を務める“店舗作りのプロ”島田一彦は指摘する。

2013年の出店ラッシュはロードサイド店。60坪、90席、駐車場30台と標準タイプは決まっている。「見積もりを作れば最初の打ち合わせは済む状態だった。しかし、物件に合わせて考えるビルイン型店舗は2倍、3倍の手間がかかる」(島田)

だからこそ出店物件選びには注意が必要になる。店舗システム部が不動産業者などのパートナー企業と共有するのは、客が店探しに利用する丸亀製麺ウェブサイトの「店舗検索」の画面だ。エリアごとの店舗が地図上にマーキングされる。

東京の「丸亀製麺」は現在65店舗。トリドールにはほかの業態もある。「業態はこちらで合わせる。坪数10~50程度の『いい場所』を探してくれと依頼する」(島田)

「いい場所」には周辺人口、交通量(人通り)、来店機会などさまざまな要素がある。人口が多くてもベッドタウンの場合、店に寄らずに帰宅してしまう人が多くランチ重要も見込めない。30軒の候補があがってきても1店もOKを出せないこともある。

「店舗を増やしたい気持ちはあるが、数を稼ごうとすると営業が苦労する。これはと思う物件には足を運び、ここは丸亀製麺にいいんじゃないか、といったところまで落とし込んで関係部署に提案する」(島田)

月に2回ほどの出店会議はあるが、基本的な情報共有は社内SNSだ。情報によって閲覧を限定でき、粟田貴也(あわた・たかや)社長以下、全国に散っているメンバーが内容を共有する。

画面を見せてもらった。掲示板方式の画面に店舗システム部が候補物件をアップする。外観、周辺の他店舗、人通りなど、臨場感のある写真資料付きだ。

各業態の営業が「うちでやりたい」と手を挙げ、企画設計のメンバーが図面を添付する、変更要望が入るなど、顔を合わせての会議の前に、コンセンサスがとれることもある。

「出店は時間勝負なのにメンバーは不在が多い。IT利用による効率化は必要に迫られて、という側面もある」(島田)

既存店舗に関する書類もネット上に整理、保存されている。クリックすれば契約書や、いつ引き渡して開店したかといった情報が確認できる。

「時間をかけ、走り出す準備をしていた。出陣のためのシステムは整った」(島田)

都市型店舗でネックになるのは広さ。丸亀製麺は厨房に11坪が必要になるが、店舗が広くなれば賃料が増え、狭いが「いい場所」の出店機会も逃してしまう。

社長の粟田は「丸亀製麺の店舗は製麺機ほかの設備などいわば“小さな工場”付き。譲れない条件だが、それが出店の制約になることは否めない。いかにコンパクトな店舗を作るかを試行錯誤しているところだ」と語る。

海外では積極M&Aを展開

トリドールは2月5日、マレーシアの新興外食企業のウタラ・ファイブ・フード・アンド・ビバレッジをグループ化すると発表した。

ウタラ社は豚肉を使わないスープの麺料理店「Boat Noodle(ボートヌードル)」をマレーシアで展開している。客の目の前で調理するスタイルなど、丸亀製麺のこだわりと通じるところもあるようだ。

トリドールの海外進出のはじまりは2010年。7月にハワイ、同11月香港に子会社を構えた。丸亀製麺でいえば2011年ハワイに海外1号店をオープン、2012年にはタイ、中国、韓国に、2013年には、香港、ロシア、インドネシア、2014年ベトナム、2015年マレーシア、カンボジアに出店。

同時に他業態の海外出店、M&Aも積極的に行い、2015年4月にはM&Aや資本提携を目的とする投資子会社も設立した。

2015年5月にはタコスやサラダボウルを提供する「カヤ ストリート キッチン」の運営会社、ノムノムエンタープライズ(アメリカ・ロサンゼルス)を、同7月にはアジア風ファストフード店を欧米などで展開するウォク・トゥ・ウオーク・フランチャイズ(オランダ・アムステルダム)を買収。

国内の出店を抑制する一方で、海外進出のペースは加速させている。

「『讃岐うどんを世界に広げる』は丸亀製麺のミッション。でもなじまない地域はうどんプラス別業態でやっていく。私にはニューヨーク、ロンドンに出店したいといった“夢”は特になく、最終目標は『世界で戦える外食企業』になること」(粟田)

海外進出も国内での不動産探しと同様、企業とのパートナーシップを模索する。場合によってはM&Aで規模を一気に拡大する。

丸亀製麺を展開するトリードルの粟田貴也社長(撮影:下屋敷和文)

丸亀製麺を展開するトリードルの粟田貴也社長(撮影:下屋敷和文)

東京に本社機能移転、入社式はハワイ

昨年9月、トリドールは積極的に進める海外企業との提携、首都圏出店を加速させるため本社機能を東京に移転した。粟田自らが家族を伴って神戸から転居するなど本気度がうかがえる。

大崎の高層ビルに構えた東京本部では内装工事が仕上げを迎えていた。

「品川駅を拠点に新幹線で全国に移動できる場所を探していた。効果のほどはこれからだが今のところ順調。やはり『情報は東京に集まる』を実感している」と粟田。

2016年度の新卒社員の入社式をハワイで行うことを発表して話題になったが、「分かりやすい方法で衆目を集めたかった」とさらり。

「丸亀製麺は知っていても社名のトリドールは知らない学生が多い。世界に展開する外食店のマーケティングを行える幅広い人材が欲しかった。結果は通常の2倍の70人程度、海外志向も高い学生が採用できた」(粟田)

会社のロゴも変えた。欧文大文字の社名に前進を示すような矢印が印象的だ。「ITを意識してデジタルっぽい感じにしてみたかった。これも戦略」と粟田。

東京本部の社長室の壁は一面ガラス。文字通りガラス張りでお互いの様子が見えるが、社員が見えないことのほうが不安だという。

社長室には「1兆円売り上げ達成記念の樹木」がある。加古川に構えていた小さな事務所時代にもらったもので、神戸移転、東京移転の際にも一緒に引っ越してきたご神体的な木だ。

「2025年、店舗売り上げ5000億円は公言しているので、話半分ということでちょうどいい」と粟田は笑う。

「丸亀製麺中心の国内、多角経営の海外というポートフォリオを使い分けながら、これから50年間で世界を大きく変えていく。私は判断が早い、だから失敗も多い。でもやってみて実感することを大切にしていきたい」(粟田)

社長室にある「ご神木」には「店舗数10000」「売上高1兆円」の夢も。(撮影:下屋敷和文)

社長室にある「ご神木」には「店舗数10000」「売上高1兆円」の夢も。(撮影:下屋敷和文)


(敬称略)

(取材・構成・バナー写真:阿部祐子、編集:久川桃子)