猪子に出会ったから、自分は今のキャラになった

2016/3/7

「DMMはすげえ」と思った理由

亀山 今回からNewsPicksで、「徹子の部屋」ならぬ「亀っちの部屋」という連載を始めることになったんだよ。俺はゲストに綾瀬はるかを呼べって言ったんだけど。
猪子 綾瀬はるかは呼べず、気軽に呼びやすい僕を呼んだってわけですね。
亀山 いや、そんなことはない(笑)。栄えある第1回のゲストだよ。
猪子 何なの、ほんと、失礼極まりない。人はおカネを持てば持つほど、失礼になるっていう論文があるんだから(参考:TEDポール・ピフ: お金が人を嫌なヤツにする?)。
亀山 でも、おカネがなくても、遅刻ばっかりするやつもいる。
猪子 いや、それはおカネと関係ないし、僕は生まれたときからだし(笑)。
亀山 ところで俺と猪子が最初にかかわりを持ったのは、IVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)だったよね。
猪子 たしか僕が講演したときですよ。もうずいぶん前じゃないですか。
亀山 北海道で開催したときかな。4年ぐらい前だね。それまで俺はベンチャー経営者とのつきあいなんか全然ない引きこもりで、それが初めてIVSに出たものだから、俺一人スーツ姿で、誰と話せばいいんだろうとオドオドしていた(笑)。
猪子 それで講演が終わったあとに、何人かが名刺交換してくださるじゃないですか。その中に亀山さんもいて、名刺を見たらDMM。
僕は以前からDMMはすげえと思ってたんですよ。なぜかというと僕は、ウェブサービスの会社というのは、理論上はやがて、すべてなくなると思っているんですね。たぶんグローバル・ワンサービスみたいになっていくと思うんだよね。
10年ぐらいのスパンで見ても、やっぱりそういう方向にいってる。それにしては理論上なくなるはずの「Yahoo! JAPAN」なんかがまだ儲かっているんだけど。
亀山 理論どおりいってないじゃないか(笑)。
猪子 いつかは理論どおりになりますよ。ただ、読めないのは時間。時間は読めない。
亀山 確かに。時間は読めないな。
猪子 そういうふうにグローバル・ワンサービスになったとしても、DMMは数少ない生き残りになるであろうと勝手に思っていたんですよね。
なぜなら、プラットフォームの体裁で、実は、市場シェアの極めて高い最強のコンテンツメーカーだから。コンテンツの市場シェアが極めて高いメーカーで、かつプラットフォームと垂直統合している世界でも珍しい形態。
世界のプラットフォームがこれない。なぜなら、「コンテンツ出さないよ」で終了だから。だから俺、「すげえ! 超すげえ!」って連発したんだ。
猪子寿之(いのこ・としゆき)
チームラボ代表
1977年、徳島県生まれ。1年間の渡米を経て、東京大学工学部応用物理計数工学科卒業後、2001年3月にチームラボを創業、現職。

出会いを契機に引きこもり脱出

亀山 そういう猪子を見て、俺は「こんなやつでも社会人が務まるんだ」と思って気が楽になった。
猪子 それで引きこもりが治ったというね(笑)。
亀山 俺、それまで人前で話もできないし、とにかく表に出たくなかったんだよ。でも猪子を見ていて、「こんなふうに馴れ馴れしくやりゃいいんだ」と思って、猪子を真似することにしたの。
ちょうど俺がそこでは誰よりも年上だったから、別に敬語を使わなくてもいいじゃない。だから猪子の後ろをついていって、一緒にいろんな人に馴れ馴れしくしてた(笑)。
猪子 それで僕は亀さんをいろいろな人に紹介したんですよ。引きこもりからのデビュー。
亀山 そうそう。今日の俺があるのは、猪子君のおかげでございます。
猪子 口では感謝してくれるけど、振り込みがないんですよね。
亀山 感謝はしてるけど、カネは出さないよ(笑)。それで俺が初めてチームラボに遊びに行ったとき、pixiv(ピクシブ)の片桐孝憲がいたよね。
猪子 僕が片桐さんを呼んだんですよ。ご紹介しようと思って。
亀山 それでまで片桐は、俺と会うと殺されるんじゃないかと思ってたんだってね。
猪子 そう。怖いイメージを持っていたから、絶対会わないと言ってたんだけど、僕が、「亀ちゃんは本当は悪い人じゃないから」といって信用を担保したわけ。
亀山 ところが猪子が来ないもんだから、初対面の片桐と俺の2人で1時間しゃべってたよ。
猪子 そうそう。自分の会社なのに、1時間遅刻しちゃった。

なぜいつも遅刻するのか

亀山 それ以来ずっと、30分だの1時間だの、常に遅れてくる。あれは何なの? 宮本武蔵みたいな戦略なの?
猪子 いや、戦略じゃない。延びちゃうんですよ。僕はなるべくその場で結論を出したいから。宿題にすると、また倍の時間を取っちゃうでしょう。
亀山 でもだいたいわかるじゃない、終わる時間なんて。
猪子 いや、その場で答えを出そうとすると、延びちゃうじゃないですか。
亀山 いやいや、大人はそんなことない(笑)。だからチームラボの社員って、「すみません、今すぐ来ますので」っていつも謝ってるよね。普通は秘書がいたら、無理やりにでも次の現場に引っ張っていくんじゃないの?
猪子 秘書はいますけど、予定を詰めこめるだけ詰めこまないと仕事が進まないから、それで延びていくんです。
亀山 今までそれがもとで、どこかのお偉いさんに怒られたりしたことないの?
猪子 偉い人の秘書官にすごい嫌味を言われたことがありますよ。でもそのときは嫌味だと気がつかなかった。
「官僚だったらクビですよ」みたいなことを言われたので、「ほんとですね、官僚にならなくて良かったです」と答えたら、あとで第3者から結構お怒りだったと教えてもらいましたけど。

起業家ネットワークは猪子から

亀山 しょうがねえな〜(笑)。それで猪子と片桐で一緒に飯を食ったりしたよね。でも俺、それまで引きこもってて、あんまり人と接点がなかったからさ、こういうときって、誰が勘定を払うのかわからなかったわけよ。
猪子 こっちは亀ちゃんに奢ってもらう気満々だったのに。だってまだギリギリ30代前半だったし。
亀山 今、考えたら、俺もそう思うんだよ(笑)。でもどうすればいいかわからなかったから、ジャンケンで負けたやつが払おうと提案したんだ。そしたら俺が負けた(笑)。
猪子 そうだったのか。僕はあのとき、「亀さんは年齢とか関係なく、友達として扱ってほしいのかな」って、勝手に思ったんだけど。
亀山 そういえば片桐から聞いたんだけど、あのとき俺が去ったあと、猪子が、「亀ちゃん、友達いなさそうだから、僕たちが友達になってあげようか」って言ったんだって?
猪子 そうそう。
亀山 だから本当に猪子が、起業家ネットワークの最初の一歩になってくれたんだよ。今でこそ俺も「亀っちだよ~ん」とかやってるけど、当時はもうビビりまくってたからね(笑)。俺、私服着て仕事してるやつらの考えてることなんかわからなかったし。
猪子 でも亀さんは根がやさしいし、フラットだからね。
亀山 そうだね(笑)。でも前は、年下にも「亀山でこざいます」って言ってたんだよ。でも猪子を見てて、フラットに振る舞ったほうが相手も楽なんだと思ったから、そういうふうに変えたんだ。
だから今のスタンスは猪子に学ばせてもらった。遅刻はしないけどね、いいとこは取り入れる。
猪子 あはは。
亀山敬司(かめやま・けいし)
DMM.com会長
石川県のレンタルビデオ店からアダルト、IT、太陽光発電、FX、英会話、3Dプリントと節操なく事業展開をする実業家。めったに人前に姿を現すことがなく、その正体は謎に包まれている。

時間厳守はフロー状態から遠い

亀山 でもこんな猪子のキャラを、大きい会社のまっとうな人たちが受け入れているのが不思議だよ。みんなに感謝してもいいんじゃない。
猪子 えらい人のときは、ふつう10分の面会時間を30分もとってもらったにもかかわらず、15分遅刻したから、半分以上遅刻したことになるね。
亀山 あれだね、たぶん猪子は相手によって遅刻したりしなかったり、態度を変えるわけじゃないから許されるんだろうね。偉い人と会うときだけ時間を守るなら、そうじゃない人を軽んじることになるけれど、みんな等しく遅れるからな。
猪子 毎回、本当に反省するんです。ただクリエイティビティというのはね、脳がフロー状態になったときに発揮しやすいとされていてね。フロー状態の特徴は、自分が今どこにいるかとか、今何時だろうとか、そういう感覚が失われるということなんです。
亀山 何、もっともらしいことを言ってるんだ(笑)。
猪子 これからの社会は、誰しも創造性を豊かにしないといけないわけでしょう。常に時間を守れている方は、いわばフロー状態からほど遠いということだから、失礼ながら、かわいそうだと思うよ。
もちろん時間を守らないことが、クリエイティビティが高いということではないけれど(笑)。
亀山 これだもん。一生、治らねえな、こんなこと言ってる限りはね。
(構成:長山清子、撮影:遠藤素子)