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八田英二会長インタビュー2回

高校野球の立場では、理念の異なるプロ野球と一緒になれない

2016/3/4
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──日本野球界の問題は結局、日本サッカー協会のように業界全体を統率する組織がないところに行き着きます。プロ、高校、アマチュア関係者からも、そうした意見を実に多く聞きます。八田会長は、プロとアマが一つになるべきだと思いますか。

八田:学生とそれ以外の社会人、プロは、同じ野球をやっていますけれども理念が全然違います。技術面の交流はある程度あってもいいかもわかりませんが、一つになって運営するのは到底無理だろうなと思います。学生野球は教育の一環ですが、プロはそうではない。私たちは青年期の教育に携わっていることを考えていますからね。

技術面の統一をする組織は全日本野球協会というのがあって、社会人、学生野球、女子野球が入っています。ただ、社会人と学生ではそれぞれの思惑が違うところがありますね。一方、学生野球は一つの理念だと思います。

プロが技能を教えて何になる?

──学生野球は教育の一環ということですね。少なくともプロは最高の技術と、それを教えられる指導者がいます。そういう人たちが故障しない投げ方などを学生に教えてあげることで、教育としてもいい方向に行くと思います。そうやって前向きに一つになることはできませんか。

2013年から学生野球の資格回復という制度が始まりました。1泊2日の講習を受けていただいたら、どんどん高校野球、大学野球の指導に入ってくださいとやっています。ただ、なかなかうまいことプロの方が入ってこられない。教育の一環であることを講習で何回もお話しして、「なるほど」と再認識していただいているらしいですけどね。うまいこと入れるようなルートができればいいなと私は思っています。

氏原:資格は元プロに対する話であって、現役のプロ野球選手が教えられないのは野球界全体にとってマイナスだと思います。

八田:現役のプロはすごい技能を持っているかもわかりませんけれども、私たちは教育の一環というのが一つあります。技術だけではないのでね。昔にプロとアマで、特に学生野球で悲しい歴史(※)がありました。それでようやく、元プロの選手に関して、「こういうかたちで講習を受けていただいたらいいだろう」というところまで来たわけです。

ただ、プロの選手が教えにくるような時間はあるんですかね?

※柳川事件など。詳しくは日本野球連盟のウェブサイトを参照

──あります。オフシーズンにやりたいと言っている選手もいますし、実際に小学生に野球教室を行っている球団もあります。

ただ今のところ、元プロとして大成されたというか、いろいろなことを経験された方々が、学生野球は教育の一環だとわかって来てもらったほうがいいと考えています。アマ野球、特に学生野球の関係者に関しては、そうしたほうが受け入れやすいと思うんですよね。プロの選手が来て、「技能だけ教えていただいて何になるんや?」と。やはり、教育の一環というところを大事にしたい。
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現制度を機能させることが先決

──それらは一致できませんか。技術を学ぶことで考え方も深まりますし、教育にとってプラスの側面もあると思うのですが。

最高のプロ選手が高校に教えにこられて、技能がすぐに得られますか? それは高校野球の監督さんに聞いていただいたほうが……。

──常総学院のエース・鈴木昭汰君は中学生でU-15の日本代表に入り、元巨人の鹿取義隆監督(当時)に変化球の投げ方などを教えてもらってすごく良くなったと話していました。一方で現実を考えたら、元プロがアマチュアを教えられるようにするのも大変だったとは思います。それがようやく実現して、もしかして次があるかもしれないくらいに考えたほうがいいですか。

次に行くのも、私はなかなか大変だと思う。まずは、元プロの方々に入ってきていただく制度があるわけですからね。まずはこれをうまくワークさせる。それで学生野球の関係者が「プロに入っていただいたら、これだけ技能のレベルも上がる」と認識していただく必要がまずはあるんじゃないですか。それを越してまで、現役のプロということは到底難しいと私は感じます。元プロの方が学生野球資格を回復して、まだそれほど高校の指導にたくさん入っておられるわけではないですからね。

──資格回復の講習会に元プロの人がジーンズで行き、ほかの元プロに怒られたという話も聞きました。昨今のプロ野球界ではグラウンド外でさまざまな問題もありましたし、そういう元プロがいるのは事実ではあります。

まずは今の制度を利用していただきたい。ただ、今の制度自体がまだうまく動いていませんからね。公立高校にとっては、経済的なものもあるでしょうし。

元プロの方にも、自分の生活もあります。そういう方を指導者として呼べるようなところは、一部の私学かもわかりませんしね。となると、公正な競争という話につながってくるかもしれません。そういうのは難しいなあ。

侍ジャパンは少年たちの憧れ

形式上、日本野球界は一つになったことになっている。2013年5月、いわゆるプロ野球の日本野球機構と、アマチュアを束ねる全日本野球協会(BFJ)が手を組み、野球日本代表マネジメント委員会が発足。簡単に言えば、そこから送り出される代表チームが侍ジャパンだ。

U-12に始まり、U-15、U-18、大学生代表、U-21、社会人代表、そしてフル代表、さらに女子代表が同じユニホームを着て、全チームが「侍ジャパン」として国際大会に出場するようになった。とりわけ少年やアマチュア選手は、「フル代表と同じユニホームを着られる」と喜びを表している。

日本球界にとって、侍ジャパンの誕生は画期的な出来事だ。一つになるためのスキームが、ようやくつくられたのだから。

しかし実情、プロとアマが一つになっているとは到底言うことができない。今回の八田会長のインタビューを読んでもらっても、アマチュア側にプロへのアレルギーが残っていることは伝わったはずだ。ビジネスを行っているプロに対し、教育の一環であるのが学生野球。とりわけ高校野球にとって、活動理念が異なると八田会長は考えている。

ただ、ここで疑問が浮かぶ。高校野球の定義する「教育の一環」とはどういうことだろうか。

14年連続で甲子園大会を取材するライターの氏原英明が八田会長に率直な疑問をぶつけると同時に、一つの提案を行った。
 
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(取材・構成:中島大輔、取材:氏原英明、撮影:福田俊介)

*次回は3月9日(水)に掲載します。