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イノベーターズ・トーク

【入山章栄×田中仁】メガネがスマホと競合する日

2016/2/29
独自の視点と卓越した才能を持ち、さまざまな分野の最前線で活躍するトップランナーたち。彼らは今、何に着目し、何に挑もうとしているのか。連載「イノベーターズ・トーク」では、毎週2人のイノベーターたちが、時代を切り取るテーマについて議論を交わす。
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第15回には、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授と、ジェイアイエヌの田中仁社長が登場する。

今やビジネスパーソンの間で定番書となった『ブルー・オーシャン戦略』(ダイヤモンド社)。初版刊行から10年が経った昨年には新版が刊行され、より実践的な内容へと刷新された。

その『[新版]ブルー・オーシャン戦略』の監訳を務めた入山氏は、同書の序文の中で、17の「いま日本で躍進しているブルー・オーシャン候補事業・企業」を示している。

受験サプリやクックパッド、ほぼ日刊イトイ新聞などと並んで入山氏が選出したのが、ジェイアイエヌの看板商品「JINS PC(現在の商品名はJINS SCREEN)」だ。

JINS SCREENは、PCやスマートフォンから発せられるブルーライトをカットし、眼精疲労をはじめ身体におよぼす悪影響を軽減するために開発されたメガネ。入山氏はこれを選んだ理由を次のように話す。

「不要なものを捨て去り、新しい市場を切り開いて圧倒的な地位を築くというのがブルー・オーシャンの考え方です。JINS SCREENは、従来の中間マージンや『高級感』といった価値要素を捨て、代わりに『メガネは視力の悪い人のためのもの』という市場の境界を引き直した。これは典型的なブルー・オーシャンと言えます」

それだけではない。ジェイアイエヌは2015年に疲れや眠気を可視化するウエアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」を発表、新たな市場を切り開こうとしている。

果たして、ジェイアイエヌは新たなブルー・オーシャンを泳ぐことができるのか。同社の戦略は、そしてその先にある構想とは? 「ブルー・オーシャン」というキーワードをきっかけに知己を得た2人が、徹底的に語り合う。

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冒頭、「今日かけてきたこのメガネ、JINSさんの商品なんです」と黒いメガネのつるに手をかける入山氏。この対談に先立ち、東京駅のJINSグランルーフフロント店に立ち寄って購入したのだという。そこで同店のサービスクオリティの高さに感激した、とも。

思いがけない賛辞に驚きつつ、口元をほころばせる田中氏。スタッフィングの狙いを尋ねられると、今後グローバル展開を加速するための環境づくりなのだと打ち明ける。「現地の人材を雇用するだけではなく、JINSのDNAを持った人材をしっかりと育成し、経営からサービスまでを一貫して任せる必要があると考えています」(田中氏)。

優れた企業と聞くと、ともするとビジネスモデルの優位性や戦略のほうに目が向いてしまうかもしれない。ましてや、日本の“ブルー・オーシャン候補企業”と称されているなら、なおさらだ。

だが田中氏は、いま最も注力しているのは「採用や人材育成だ」と迷いなく言い切る。なぜか。同社は過去に、人の問題で苦労することが多々あったからだ。

これから本格的に世界展開を進めるために、ジェイアイエヌはどのような人材を求めているのだろうか。田中氏がその考えを語る。

第1回「海外で採用、日本に配属。JINSの人材戦略」に続く。

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ジェイアイエヌが昨年リリースした「JINS MEME」をご存じだろうか。センシングテクノロジーを備えたウエアラブルデバイスで、健康管理や医療をはじめ、幅広い分野への応用が期待されている。

この注目のデバイスの名前が田中氏の口から出た途端、「そうそう! 今日はJINS MEMEの話を特に聞きたかったんですよ」と入山氏が身を乗り出す。

田中氏は、JINS MEMEを開発した狙いを「メガネをプラットフォームにしようと考えたため」と説明する。いったい、どういうことだろうか。

「メガネはこれまで、視力を矯正するための用具にすぎませんでした。しかし視力の悪くない人も含めて、メガネをかけているだけで楽しく、生活の役に立つようなツールにしたいと考えています」と話す田中氏。そのためには、メガネは視力矯正の機能だけでなく、プラットフォームになる必要がある、とも。

それを聞いた入山氏は、「将来的な競合相手は、もしかするとスマホになる可能性もあるわけですね」と驚きの表情を浮かべる。それを受けて田中氏が語った、JINS MEMEの構想とは──。

第2回「メガネで鬱を予防する? ウェアラブルの未来」に続く。

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ウエアラブルデバイスの中でもJINS MEMEが分類されるスマートグラスは、さまざまな企業が開発スピードを競っている。

だが田中氏によれば、メガネ型のツールは決して目新しいものではなく、1990年代にはすでにほぼ同等のものが考えられていたという。そこから基板やバッテリーが小型化するなどの改善はあっても、本質的な機能は「20年前の発想から脱していない」と田中氏は指摘する。

では、JINS MEMEはどうだろう。ほかのウエアラブルデバイスと何が違うのか。「MEMEはスーパーイノベーションになる可能性を秘めている」と話す入山氏は、この点をずばり喝破する。

また、対話が進む中で話題は人の顔をセンシングすることで得られる情報の可能性にもおよぶ。先日、「フロー理論」で有名なチクセントミハイ教授と対談した入山氏は、教授から聞いた話として、ドイツ・ベルリンの街頭で行われているセンシング技術を用いたユニークな取り組みを紹介する。

第3回「メガネ型端末は90年代の発想。進化するには」に続く。

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人工知能(AI)を駆使したIoTは百花繚乱の感がある。しかし、「ウェアラブルデバイスを身に付けることで、どれほど素晴らしい世界が実現できるのかを、まだどこも表現できていない」というのが田中氏の見立てだ。「データを採取することだけにとどまっている」と見ている。

JINS MEMEが活躍するシーンとはどのようなものだろうか。たとえば、工場や物流施設、あるいは医療の現場におけるヒューマンエラーの抑制に役立つかもしれない。

それにしても、田中氏のイノベーターとしての発想はどこから来るのだろうか。「いったいどういうところから着想を得ているのか」と興味津々の入山氏に田中氏が語ったこととは──。

第4回「転職者多数。JINSで伸びる人、伸びない人」に続く。

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対談も終盤にさしかかった頃、「少し学者っぽいことを言わせていただくと――」と入山氏が切り出した。「イノベーションや組織学習において、失敗経験が非常に大切だということは、認知心理学の分野などでも確認されつつある法則なんです」。

失敗は成功の素、とはよく聞くフレーズだ。これをもう少し詳しく言うと、「失敗を経てからその後次第に成功するケースと、最初に成功を収めてしまうケースとでは、前者のほうがその後もずっと成功し続ける確率が高い」(入山氏)という。

「そういう意味では田中さんも、いろんな壁にぶち当たってきた方ですよね」と入山氏が水を向けると、希代のイノベーターは「それはもう、失敗どころか、本当に駄目な人生ですよ」と自嘲ぎみに笑う。

さらに話題は田中氏が故郷・群馬で運営する「群馬イノベーションスクール」にもおよぶ。

50歳の誕生日を迎えた際に、残りの人生を逆算してみたという田中氏。「どう生きれば、自分の人生に納得できるだろうかと考えました」と語る氏は、このスクールを通して次世代の若者たちにどのような期待を寄せているのだろうか。

第5回「失敗しない企業は伸び悩む。プライドを捨てよ」に続く。

本日より、5日連続でお届けします。どうぞご期待ください。
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第1回:2月29日(月)公開
海外で採用、日本に配属。JINSの人材戦略

第2回:3月1日(火)公開
メガネで鬱を予防する?ウエアラブルの未来

第3回:3月2日(水)公開
メガネ型端末は90年代の発想。進化するには

第4回:3月3日(木)公開
転職者多数。JINSで伸びる人、伸びない人

第5回:3月4日(金)公開
失敗しない企業は伸び悩む。プライドを捨てよ

(取材:野村高文、構成:常盤亜由子、デザイン:名和田まるめ、撮影:竹井俊晴)

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Book Picks Interview 『[新版]ブルー・オーシャン戦略』
前編:2005年に一世を風靡。「ブルー・オーシャン戦略」が、いま再注目される理由
中編:事業チャンスを発見しやすい人材とは。経営学が教える起業家の見極め方
後編:経営学は本当にビジネスの役に立つのか。読み解くカギは「理論と持論」