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ファイターズの球団経営【7回】

遠く離れて面白そうな鎌スタ。深夜番組目線のボールパーク

2016/2/26

札幌から1100キロ南の千葉県鎌ケ谷市に、北海道日本ハムファイターズはファーム(2軍)の本拠地を置いている。1軍のホームからはるか遠くにあるという悪条件に加え、鎌ケ谷スタジアムはアクセスが実に悪い。球団ホームページによると鎌ケ谷駅から徒歩で約30分の距離にあり、タクシーかシャトルバスを使いたいところだ。

だが、鎌スタはこうした立地の悪さにもかかわらず、一部の野球ファンだけでなく、テレビ番組でも取り上げられるような“おもしろスポット”になっている。「世界一楽しい鎌ケ谷スタジアム」というコンセプトを掲げ、ほかの球場とはまるで異なる独自ワールドを展開しているのだ。

独立採算制を見据え方針転換

そもそも、なぜファームの本拠地が鎌ケ谷にあるのか。まだ1軍が東京ドームをホームとしている頃、ファイターズは多摩川沿いの練習場を使用していた。そこの環境があまり恵まれず、初代オーナーの大社義規氏の号令で移転先を探し始めた。

そうして見つかったのが鎌ケ谷だった。球場と屋内練習場、選手寮が同じ敷地内に建てられ、「選手とファンが触れ合えるような環境をつくろう」と1997年に「日本ハムファイターズタウン鎌ケ谷」は開場している。

首都圏事業部の荒木龍史氏によると、当初は「ファームの試合ができればいい」という程度に考えられていた。しかし2006年ごろ、「これだけの設備や球場があるので、将来的な独立採算制まで視野に入れ、ファーム事業として成り立つものをつくっていこう」と方針転換された。

鎌ケ谷スタジアムの外観。ダルビッシュ有も田中賢介もここから大きく羽ばたいた

鎌ケ谷スタジアムの外観。ダルビッシュ有も田中賢介もここから大きく羽ばたいた(撮影:中島大輔)

リピーターをいかに増やすか

2014年ごろから、その勢いが加速している。鎌スタ改革のキーワードはズバリ、「深夜番組を目指そう」。その意図を荒木氏が説明する。

「鎌ケ谷はファームの球場なので、野球のコンテンツ自体で1軍とは勝負できません。もしかしてスーパースター候補がチームに来るかもしれませんが、1週間でホームランを10本くらい打ってすぐに1軍に行ってしまうかもしれない」

「お客さまは球場に野球を見にくる一方、球場の雰囲気やホットドッグ、大型ビジョンに流れる映像、イニング間に行われるイベントも楽しんでいます。『野球を見に来て楽しかったな。ところで、誰がホームランを打ったっけ?』と感じてくれたような方は、必ずまた戻ってきてくれますよね。そういう鎌ケ谷らしさを目指しています」

試合中にファンがラジオ体操

鎌スタには、ゆる〜い空気が流れている。その象徴がDJチャスだ。中年の男性職員が紫の衣装に身を包み、赤いマフラーとハチマキを巻いて登場。鎌スタの専任DJとして毒舌を交えながら盛り上げていく。

5回裏が終了し、グラウンド整備が始まるとスピーカーからラジオ体操の音楽が流れ始めた。のんびり観戦していた高齢者たちが、立ち上がって身体を動かし始める。

「平日のデーゲームにいらっしゃるのは、リタイアされたご老人が中心。『ほかに行くところがないので来たよ』と声をかけてくれる方もいます(笑)。ご高齢の方が多いので、ラジオ体操をかけたら喜んでくれるのではと始めたら定着しました。日本人の頭に刷り込まれているのか、あの曲をかけるとみんなやってくれます」(荒木氏)

試合がグラウンド整備で中断する間、ファンたちはラジオ体操で身体を動かす

試合がグラウンド整備で中断する間、ファンたちはラジオ体操で身体を動かす

子どもの頃から生涯のファンへ

鎌スタの位置付けはボールパークで、「野球の試合があろうが、なかろうが、ボールパークにいること自体が楽しい」を目指している。鎌ケ谷からファンを北海道に送り込むことをはなから考えず、「一生涯ファイターズファンになってもらう」がコンセプトだ。

小学生以下は入場料無料。球場の周りにSLを走らせたり、プールやエアートランポリン(ふわふわ)を設置し、プロレスを開催したりするなど、野球とはまったく関係ない仕掛けで子どもたちを楽しませようとしている。

鎌スタの外周を走るSL。その奥には、ふわふわが設置されている

鎌スタの外周を走るSL。その奥には、ふわふわが設置されている

「極論すれば、小さい子どもは野球を見ていないわけです。ファイターズのスタジアムは楽しいところと思ってもらえば、その子が少し大きくなって野球をやってみようかとなったとき、『近所にファイターズがあったから見てみようか』となる。子どものときにファイターズファンになってもらったら、大人までずっとファンでいてくれる可能性が高いので」

ただし、野球の試合は週末だけ行われているわけではない。平日には子どもの姿があまり見られなくなる。そんな状況のスタジアムを盛り上げるべく、年間パスポートを通常1万2000円、シニアは1万円で発売。1試合換算では、それぞれ約220円と約180円だ。

平日の客は、約1000人の年間パス購入者が中心となっている。のんびり観戦したい彼らの中には、家族連れでにぎわう週末には来ない者もいるという。ファンのすみ分けができているわけだ。

スタンドに設置されたプールで、ファーム専用マスコットのカビーと少年ファンが水をかけ合って楽しむ

スタンドに設置されたプールで、ファーム専用マスコットのカビーと少年ファンが水をかけ合って楽しむ

動画配信で固定収入アップ

近年は、動画配信に力を入れ始めた。有人3台、無人1台のカメラを導入し、試合映像を配信している。その意図について、荒木氏はこう語る。

「スポーツチームは、試合がないと売るものがありません。主催試合がすべて満員になり、広告看板も売り切ると、それ以上収入が増えないんです。しかし、デジタルコンテンツは試合がなくてもレベニュー(定期収入)に変わる。これから先、デジタルコンテンツの需要は間違いなく高くなっていくと思います」

年間365日のうち、鎌スタで試合が開催されるのは60日ほどだ。残りの300日に試合を開催するわけにはいかず、ライブ中継だけでなくハイライト映像、スペシャル映像を独自につくって配信を始めた。昨季は無料だったが、今季は有料化する。そうして固定収入を上げていこうとしているのだ。

「将来的に、『鎌ケ谷でこういうことをやったから、1軍でやればもっと収入が上がるのでは』という話になるかもしれません。こうした取り組みは深夜番組だからできることだと思います」

テレビ番組同様、自由度が比較的高い“深夜番組”で実験を行い、人気になればゴールデン=1軍でも実施するという算段だ。鎌ケ谷発だからこそできることがあるとファイターズは考えている。

「BtoC」が「BtoB」に

「BtoC」目線のデジタルコンテンツ制作は思わぬ収穫もあった。ファームの映像を買いたいという北海道のテレビ局が多数あったのだ。ある局は全試合購入し、夕方の情報番組で週に1度、鎌スタのコーナーとして流している。

北海道と鎌ケ谷は簡単に行き来できる距離ではない。だが、4球団競合の末に2014年ドラフト1位で入団した有原航平がどんな球を投げるのか、映像を見たいファンはたくさんいる。高卒で将来を期待される浅間大基の現状も気になるところだ。そんな視聴者の要望に応え、テレビ局は映像を流している。「BtoC」を念頭に置いたデジタルコンテンツ制作は、「BtoB」で予想より需要があった。

横浜高校から2014年ドラフト3位で入団した浅間はルーキーイヤーに一軍で46試合に出場、打率2割8分5厘の成績を残した

横浜高校から2014年ドラフト3位で入団した浅間はルーキーイヤーに1軍で46試合に出場、打率2割8分5厘の成績を残した

こうして露出を増やし、さらに「面白いことをやっている」という声が上がるようになり、北海道から鎌スタにやって来るファイターズファンが増えてきた。東京ドームでの主催試合やロッテ、西武とのビジターゲームに合わせ、ファームの観戦に足を運んでくれるようになっている。

2軍は実戦を積ませる場と考え、集客に力を入れる球団は多くない。だが、ファイターズは年間約7万人とファームにすれば多くのファンを集めている。

その裏にあるのが、壮大な実験精神と「深夜番組」目線だ。ファームは確かに若手育成が主要目的だが、球団は安くない給料を払っているのも事実。ならば、経営側も積極的に手を打っていくべきではないか。

そうした野心が、鎌スタを“面白い場所”にしている。

鎌スタのファンを楽しませるDJチャス

鎌スタのファンを楽しませるDJチャス

(写真:©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS)

<連載「北海道日本ハムファイターズの革新的球団経営」概要>
2004年に札幌へ本拠地を移転して以来、グラウンド内外で好成績を収めている北海道日本ハムファイターズ。チーム編成やスカウティングで独自の方法論を持つ球団は、SNS活用や女性ファン獲得など経営面で球界に新たなトレンドをつくり出している。いかにして北海道でファン拡大しているのか、ビジネス面の取り組みを隔週金曜日にリポートする。