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シグマクシス柴沼氏×セールスフォース・ドットコム小出氏

前例なきデジタル変革。UberやAirbnbはなぜ今生まれたのか

2016/2/26
テクノロジーを活用し固定概念を打ち破って既存産業に変革をもたらしたプレーヤーが続々と登場している。中小企業でもベンチャーでもデジタルテクノロジーの利用方法次第で急成長できる時代──。そんな今を、この2人はどうみているのか。クラウドで頭角を現したセールスフォース・ドットコムの会長兼CEO、小出伸一氏と、セールスフォース・ドットコムがここ数年キーワードにする「デジタル・トランスフォーメーション」の重要性を説くシグマクシスのマネージングディレクター、柴沼俊一氏の対談で読み解く。

年率10倍の成長も夢ではない

──テクノロジーの力で、過去にはなかった価値を商品やサービスにもたらす「デジタル・トランスフォーメーション」。「Uber(ウーバー)」や「Airbnb(エアビーアンドビー)」は、まさにこのコンセプトを実現して一躍注目を集めました。

小出:ビジネスや個人の生活においてテクノロジーが欠かせない存在であることは、言うまでもありません。これまでは常に新技術が登場し、それが人々の仕事を楽にし、個人の生活を豊かにしてきました。

ですが、ここ最近では、たとえ汎用的なテクノロジーでも使い方を工夫してユーザーの利便性を劇的に上げたサービスが続々と登場しています。

ウーバーやAirbnbはその代表例です。この2つは、先進的なテクノロジーを利用したからこそ実現できたというサービスでは決してないでしょう。

需要と供給をきめ細やかにつなぎ、アナログではできないことをテクノロジーを使って実現し、タクシー業界や宿泊業界にイノベーションを起こした。もともと眠っていたニーズをテクノロジーを使って掘り起こしたと言えます。

柴沼:デジタル化の波に乗った企業は、飛躍的な成長を遂げていますよね。前年比10%成長どころか、10倍で成長することだってあり得る。

すでにある商品やサービスでもテクノロジーと融合させることで、価値を何倍にも上げられるのが、デジタル・トランスフォーメーションです。変化に乗れる企業と乗れない企業の差は激しくなってくるでしょうが、この流れはしばらくとまることはないでしょう。

小出:確かに、10倍成長も決して夢ではありませんよね。デジタル・トランスフォーメーションには過去にはないビッグチャンスが眠っていると思います。

ITを利用する目的が変わった

──すでにある商品やサービス、産業をITと組み合わせることで価値を増大させようという動きは以前からありましたよね。それなのに、今になって具体的なヒットサービスや成功企業が複数出てきたのはなぜでしょうか。

小出:いろいろな側面がありますが、テクノロジー、ITの導入目的が変わってきたことが大きいと思います。

ここ最近まで企業がITを導入する主な目的は、生産性向上や業務の効率化、コストの削減。つまり「今ある仕事をITによって変えること」だったんです。それが企業にとって競争力につながったから、みんな躍起になって取り組んだ。

でも、今は違う。なぜなら、大きく言えば、やり尽くしたから。ITが広く企業に普及するようになって約40年、企業規模や産業によって多少の違いはあるものの、生産性向上やコスト削減のためのIT改革はもう終わったんです。たとえるなら、乾いた雑巾を絞り、さらに乾燥機にかけた状態。これ以上絞っても水一滴も出てこない。

そうなったことで、新たなサービスを生んだり、今ある商品を改良したりするためにテクノロジーをどう活用するか、真剣に考え始められるようになったんだと思います。

柴沼:確かに、そうですね。加えて、私はデジタルテクノロジーが個人にとってより近い存在になったことも大きいと思います。

数十年前であれば、資金力のある大企業しか使えなかったテクノロジーが、今は個人が簡単・安価に使えるようになりましたよね。テクノロジーを活用した新たなサービスを生むチャンスを、組織力に関係なく一人ひとりが手にすることができるようになった。

ハードウェアとソフトウェアが多様化して、スペックも急速に上がり、通信環境も整備されてきました。特に個人はクラウド環境を使うことにも慣れてきましたから、大抵のことは少ない初期投資でスタートすることができる。

個人や小規模な事業者がテクノロジーの恩恵を受けながら、自分たちのアイデアを事業として次々に繰り出すことができる環境が日々整ってきたんです。それが、デジタル・トランスフォーメーションを後押しする背景にあると思います。

柴沼俊一(しばぬま・しゅんいち)シグマクシス マネージングディレクター 1995年、東京大学経済学部卒、2003年ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクール卒。1995年、日本銀行入行。調査統計局、国際局、考査局にてエコノミスト・銀行モニタリングに従事。途中、2年間、経済産業省産業政策局に出向。その後、マッキンゼー&カンパニーを経て、国内ファンドにて投資先企業再生に携わり、2009年シグマクシスに入社。2015年より現職。同社投資先のグローバルセキュリティエキスパート株式会社取締役(兼務)。グロービス経営大学院教授(企業再生・変革、イノベーション、国家政策)。著書に『知られざる職種 アグリゲーター』(日経BP社)、『「コンサル頭」で仕事は定時で片付けなさい! 』(PHP研究所)

柴沼俊一(しばぬま・しゅんいち)
シグマクシス マネージングディレクター
1995年東京大学経済学部卒業、2003年ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクール卒業。1995年日本銀行入行。調査統計局、国際局、考査局にてエコノミスト・銀行モニタリングに従事。途中、2年間、経済産業省産業政策局に出向。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、国内ファンドにて投資先企業再生に携わり、2009年シグマクシスに入社。2015年より現職。同社投資先のグローバルセキュリティエキスパート取締役(兼務)。グロービス経営大学院教授(企業再生・変革、イノベーション、国家政策)。著書に『知られざる職種 アグリゲーター』(日経BP社)、『「コンサル頭」で仕事は定時で片付けなさい!』(PHP研究所)

顧客の先のお客さまの成功を意識する

──デジタルテクノロジーの活用によって、変革を遂げた企業の共通点は何だとお考えですか。

柴沼:ユーザーが直接触れるインターフェースにテクノロジーをうまく溶け込ませていること。たとえ、優れた技術を活用しても、最終的な利用者の満足度を考えていない企業は、これまで以上に厳しい戦いを強いられると思います。

小出:同感ですね。ITを提供する側としても、2010年ぐらいまでは優れたテクノロジーを生み出した企業が、それだけでマーケットをとることができた時代だと思います。でも、これからは違う。

テクノロジーをサービスに転換させることが重要。私たちはBtoB企業ですが、常にお客さまの先のお客さまへサービスを提供できるか、新しい価値を提供できるかを念頭に置いています。IT企業であっても、そのテクノロジーを売っているだけでは淘汰(とうた)されていくでしょう。

──日本では、ウーバーやAirbnbのような世界的な新興企業が生まれていません。

小出:シェアリングエコノミーにおいては法規制が日本ではありますね。

日本のお客さまからも「ウーバーのような仕組みをほかの分野で使いたいけれど、できますか」という相談を受けることがあるんです。

たとえば、お年寄りの見守りサービス。こういうサービスを提供している企業では、今すぐ介護サービスを必要とする人と、その人の一番近くにいて手が空いている介護士をマッチングしたいというニーズがあります。高齢化社会にますます突入する日本には必要で、ぜひ支援したいサービスです。

これはウーバーと同じ仕組みですから、技術的には問題もなくできます。ところが日本の場合は健康保険の診療報酬制度の問題などがあって、すぐに実現できない壁があります。

そこはもう少し行政側での整備も必要でしょうし、われわれ企業もそれらを支援する姿勢をもっと示していって、社会インフラとして広げていきたいですね。

柴沼:先日も現地で改めて実感しましたが、アメリカではデジタルテクノロジーによって医療分野の利便性が急速に上がっています。すでに、かなりの部分で遠隔医療を実現している。

検査結果や過去の治療歴などが載ったカルテを送ると、手の空いているお医者さんがそれをチェックしてコメントを返してくれるとか、別のクリニックにその情報を転送して無駄な検査を省く、という仕組みも動いている。

日本でも近々に遠隔医療ができるようになると言われ続けていますが、スピード感が違います。規制産業の医療でもシェアリングエコノミーの世界が生まれている。われわれが「できたらいいな」と思うようなことは、アメリカではすでにほとんどが現実になっているんです。

日本でも早くこうした動きを受けとめて、デジタル・トランスフォーメーションを社会として受け入れる素地をつくる必要があるでしょうね。

スピードと俊敏力のレベルが違う

柴沼:激動の進化を遂げているIT業界の中で数十年、小出さんは数々の企業に籍を置いて事業を手がけてきました。かつて在籍したIBMや、社長を務めたヒューレッド・パッカードと、現在のセールスフォース・ドットコムでは、経営するにあたって何が違うのでしょうか。

小出:時代が違うので経営の視点も違ってきます。IBMに籍を置いていたときと、今とでは同じITでもお客さまから求められるものがまったく違います。

たとえば、スピード。IBM在籍時は開発に費やすことができる時間が今よりも長かった。銀行などは数年に1回、大きなシステムの入れ替えをするので、それに合わせてIT企業はビジネスをプランニングしていました。

1年くらいかけて要件定義をし、その後に設計して開発、テストをして本番環境を用意するという段階を踏んで進めていました。今もそういうシステムが残っているでしょうが、当時に比べればこうしたサイクルでの仕事は相当減ったでしょう。

「早く商品化したい、柔軟にテクノロジーを改変し、ITリソースを確保したい」というニーズが年々高まっているんです。ITを提供する側は、その要求に応えなければならず、私たちの経営そのもののスピードも何十倍、場合によっては何百倍も早めなければならなくなったんです。

柴沼:スピードの速さと柔軟性の高さを合わせ持つ商品・サービスが不可欠なわけですね。

小出:そう、つまりクラウドです。

今、弊社のお客さまで、モゲチェックというサービスを提供されているMFSさまという企業があります。住宅ローン(mortgage)を借り換えたい人、借りたい人が、どういう条件で借りられるかをシミュレーションできるアプリを提供している会社です。

アプリのユーザーは、条件を入力すると最も好条件の商品が瞬時に出てきます。ユーザーからすると、わざわざ店舗に問い合わせをすることなく、アプリで全部済んでしまうから利便性が高い。

このようなアプリは、日々バージョンアップしなければいけない。こうしたサービスを支えるシステムは、重厚長大なシステムではない。スピードとアジャイル(俊敏性)が求められます。だから、モゲチェックで私たちのクラウドを活用してくれたのだと思います。

小出伸一(こいで・しんいち)セールスフォース・ドットコム 会長兼CEO 1981年、日本アイ・ビー・エム入社。ハードウェア、アウトソーシング、テクニカルサービス、ファイナンシャルサービスの各事業の責任者を務め、2002年に取締役就任。日本アイ・ビー・エムに24年間在籍後、日本テレコム(現・ソフトバンクテレコム)に入社、副社長兼COOに就任。2007年より6年4カ月間、日本ヒューレット・パッカードの社長として、同社のハードウェア、ソフトウェア、サービスの各事業ならびに全業務を統括。14年4月から現職

小出伸一(こいで・しんいち)
セールスフォース・ドットコム会長兼CEO
1981年日本アイ・ビー・エム入社。ハードウェア、アウトソーシング、テクニカルサービス、ファイナンシャルサービスの各事業の責任者を務め、2002年に取締役就任。日本アイ・ビー・エムに24年間在籍後、日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)に入社、副社長兼COOに就任。2007年より6年4カ月間、日本ヒューレット・パッカードの社長として、同社のハードウェア、ソフトウェア、サービスの各事業ならびに全業務を統括。2014年4月から現職

消耗戦からの脱出、エコシステム形成へ

──小出さんはIBMでキャリアをスタートし、そのあと、日本テレコム(現ソフトバンク・テレコム)に入って、ヒューレット・パッカードというコングロマリットで経営のかじ取りを経験し、セールスフォース・ドットコムに移りました。小出さんのキャリアを見ると、これから伸びる業界がわかる気がします。

小出:伸びる産業を見極めるというより、もっと面白い仕事を探そうという意識はありますね。やっぱりそういう意味では、「日の出前」とか「午前中」の会社のほうが面白い。なので、私はセールスフォース・ドットコムを選んだんです。

今弊社は、クラウドの提供だけでなく、投資事業も手がけ、ベンチャー25社に投資しています。IT系では唯一ベンチャーキャピタルを事業としてやっているんです。

やっぱり有望な若い人たちを育てて、業界にエコシステムをつくるのがわれわれの仕事だという気がします。私たちだけでは限界がありますから。

IT産業はある意味成熟してきました。限られたパイを競合といわれるIT企業同士で奪い合うだけでは成長はない。消耗戦に疲弊し、日本のIT産業はダメになってしまう。そうではなくて、せっかく育ててきたクラウドをもっと大きくしていかないといけない。そうしないと、日本において右肩上がりの成長曲線は描けません。

柴沼:クラウドは、デジタル・トランスフォーメーションを実現するためには欠かせないテクノロジーだと思います。そういう意味では、経済全体を活性化させるためにセールスフォース・ドットコムが目指す「エコシステムづくり」「ITの民主化」という世界観はとてもメッセージ性が強い。期待を持って注視していきます。

小出:おっしゃっていただいた通り、デジタル変革にクラウドは不可欠。従来のように一部の大手企業しか使えないITリソースではなくて、私たちは規模が小さい企業にも大企業並みのコンピューティングリソースを安価に提供できます。たくさんの企業にデジタル・トランスフォーメーションを実現するための支援をしていきたいのです。

成熟した産業をさらに活性化させることが私たちの使命だと思って、これからも取り組んでいきます。ぜひ、期待してください。
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(撮影:是枝右恭)