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生涯拠出上限の導入で一気に恒久化

個人の資産形成のためには、NISAの改良が不可欠だ

2016/2/25
金融市場の波乱で投資を断念した人は多いのだろうか。フィデリティ退職・投資教育研究所が行ってきたアンケート結果では、相場の上昇につれて「投資をしている」と回答する人が減っていました。もしかすると相場水準が下がれば、「投資をする」人が増えているのではないかとも期待をしています。しかし、本当に大切なのは相場つきで投資をする人が増えるか増えないかよりは、どんな変動のもとでも着実に資産形成をする人が増える仕組みが必要だと思います。その最たるものが、NISAでその恒久化はこうしたときだからこそ、実現に向けて大きく動き出すべきだと思います。

2月13日は語呂合わせで、NISA(ニイサ)の日でした。金融関係者主催のセミナーが各地で開催されたことと思いますが、私も金融庁が後援する、東京でのセミナーを聴講しました。

株式市場は大荒れで、翌週の月曜日にこそ日経平均は1000円以上上昇して16000円台を回復しましたが、セミナー当日は厳しい状況でした。円高は進むし、日銀のマイナス金利導入実施も直後に控えており、ある意味で現在の金融環境の「霧ヶ峰」で開催されたセミナーだったのかもしれません。

NISAの恒久化を

私のような業界人が散見される中、初心者向けだったこともあり、若い人たちも参加していました。彼らがNISAをどう使おうとしているのか本当に興味のあるところです。

昨年12月末でNISAの口座数は987万口座に達し、現状では1000万口座に達しているだろうと思いますが、しかしその過半数は60歳以上です。そのため、若い世代の利用拡大が叫ばれており、今年スタートするジュニアNISAもその一環として注目されています。

しかし、さらに利用者が増えていくためには、NISAの制度設計自体をより使い勝手のいいものに変えていく必要があります。

その中でも重要なのは、「5年の非課税期間」の恒久化と、スタートから10年後の2023年に制度が終了してしまう、「10年の制度設計期間」の恒久化でしょう。そのセミナーの中でも、NISAの恒久化への要望が登壇者からも出されていました。

ところで、相場が急落するといつも検討されるのが、「個人投資家の市場参入を促す施策」です。こういう時に限って……。本当に失礼な話だと思いますが、これを逆手にとってNISAの恒久化を進めるチャンスかもしれません。
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グラフは、NISAの概要を示したものです。改めて、NISAで期間設定がなされているものが2つあります。「5年の非課税期間」と、「10年の制度設計期間」です。私が行ってきたNISAに関するセミナーでも、「5年経ったら資金はどうすればいいのか」「10年では長期投資に向かないと思うけどどうか」とよく聞かれます。

専門家の中で、後者の「10年の制度設計期間」の恒久化は、「ここまで口座開設者が増えてきたので、いつかはできるだろう」との見解が徐々に広まっています。しかし、前者の「5年の非課税期間」の恒久化は「金持ち優遇批判が大きくて簡単ではない」と言われています。

生涯拠出上限という考え方

なぜ「金持ち優遇」と批判されるのでしょうか。NISAは年間の拠出上限が120万円に制限されているので、「金持ち」を優遇しているとは思えません。どちらかといえば、NISAは「金持ちを優遇」しているのではなく、「金持ちになろうとする人を優遇」しているのではないでしょうか。

もちろん、5年間継続して120万円を非課税で投資できるので合計600万円が非課税投資対象ですから、恒久化することで累計では相当な金額の投資ができる人が出てくるという批判もわからなくありません。

そこで少し視点を変えて、年間拠出上限だけでなく、累計の拠出上限も設けるという制度にすればこうした批判を跳ね返すことができるのではないでしょうか。

英国に同様の制度設計があります。個人が企業年金や個人の年金制度に対する拠出を所得控除する際に2つの上限が設定されています。1つが年間の拠出上限(Annual Allowance) で、現在4万ポンドです。

1ポンド=160円で計算すると、640万円です。大きな金額ですが、実はこれでも2014年4月までの5万ポンド、2011年4月までの25万5000ポンド(なんと!)と比べると大きく減額されています。それでも、日本の確定拠出年金の年間上限より桁違いに大きいですね。

もう1つが、生涯拠出上限(Lifetime Allowance)です。こちらは年間の拠出上限を累計して計算する上限額でという意味です。現在の上限125万ポンドです。1ポンド=160円で計算すると、2億円です! 計算を間違えたのではないかと思うほどですが、英国では、公的年金から民間の年金(企業年金や個人での年金)へシフトさせるためにかなり大胆な政策を取っている結果です。

生涯拠出上限とマイナンバー

話が英国の年金制度にいってしまいましたが、この生涯拠出上限の考えをNISAに導入することで、5年の非課税期間の恒久化も10年の制度設計の恒久化も一気にできるのではないかと思います。

英国の年金への年間拠出上限はNISAで言えば年間拠出上限の120万円です。一方、生涯拠出上限は、120万円×5年間で計算される600万円です。

NISAの生涯拠出上限として当面600万円を設定すれば、NISAの非課税期間5年を恒久化しても、総額は現状と同じなのですから「金持ち優遇懸念」は解決できるはずです。

今が底値だと思う人は一気に600万円まで投資できますが、その人はその年だけの拠出で、それ以降のNISA投資ができません。しかし、毎月2万円ずつ積み立て投資をする人は25年間継続(600万円=2万円×12カ月×25年)することができます。積み立て投資の大きな力とも言えます。

若年層にとっては、制度が恒久化されることで安心した長期投資ができますし、「ここが底値だ」と思う人は一気に資産を動かすこともできるというわけです。

さらにマイナンバー制度の導入で、これまでは難しい点があったかもしれない拠出額の管理も、より簡単にできるようになったのではないでしょうか。

生涯拠出額上限を設けることでぜひともNISAの恒久化を実現してほしいものです。

ところで、今回のコラムで70回を数えた「30年後に備える資産運用」は今回でいったん休載とさせていただきます。長らく、多くのコメントをいただきました方々には本当に感謝をしております。また違う場所で、意見を交換できることを楽しみにしております。