ほかの学生と違う選択に不安も
本当は起業か留学したいがそれでも就活するべきか
2016/2/24
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。
山崎先生への相談
今大学3年生です。 これから就職活動が始まるのですが、私の周りの人はほぼ100パーセントの人が就職をしようとしております。
私は大学を卒業した後、自分で会社をつくるか、英語を勉強するために留学するかを迷っております。日本の社会でみんなと違う道に外れてから、戻ることができるのか考えるととても不安です。せっかく大学に行って勉強をしたので、まず自分のできる限りのことをしてみたいと思っております。それでも就活すべきでしょうか。
(大学生・20代・男性)
本当に「できる限りのこと」をしているのか?
筆者は、今年度まで6年間にわたって獨協大学で学部生を相手に週2コマ授業を担当していました。相談文を拝読して、一人の教え子のことを思い出しました。
彼は、3年生の頃には既に会社を作ってそこそこに儲けており、4年生の後半には、世界一周旅行に出掛けました。卒業後は大手IT企業に就職し、ちょうど2年間勤めてこの会社を辞めて、現在、NPOを立ち上げて、順調に活動を広げています。
ちなみに、獨協大学は、学部・学科によって少々異なりますが、受験偏差値的には50よりも少々いいかという入学難度の大学です。彼は、東京都内の高偏差値の私立大の入試にみな滑ったと言っていました。
人には、素質の差もあれば、育つペースにも差があるので、相談者が総合的に彼に劣るというつもりは毛頭ありませんが、「大学に行って勉強をした」「まず自分のできる限りのことをしてみたい」といった、相談文の言葉を読んで、言葉が空回りしているような印象を受けました。
例えば、たいていの大学レベルの勉強には英語が必要でしょうし、今や、日本にいても英語は十分勉強できるはずですが、どうして「英語を勉強するため」だけに、留学が必要なのでしょうか。「大学でできる限りの勉強をした」というわけではないような印象を受けますが、いかがでしょうか。
何らかの専門分野で研究者を目指して、その分野の一流大学ないし大学院に入学するというのでなければ、留学はお勧めしません。時間とお金のコストに見合うとは思えないからです。
相談者は、これまでに、自分の価値を上げる武器になるような「勉強」の成果を既に上げておられるのでしょうか。
ちなみに、先の獨協大卒業生は、3年生の時点で既に英語は不自由のないレベルに達していました。ついでに申し上げると、彼は卒業後すぐに会社なりNPOなりを立ち上げることができたと思いますが、新卒で大手企業に就職した理由は、その会社のビジネスの仕組みや、組織の運営の様子を学ぶためでした。就職氷河期でしたが、すんなり大手企業に就職しました。
回答者は、残念ながら、獨協大の学生と、それほど多く関わったわけではありませんが、ここで紹介した彼も含めて、「この人物は、ビジネスパーソンとして総合的に自分よりも優れた資質を持っているな」と思った学生が複数名いたことを付記しておきます。企業の採用担当者は、こうした学生を見逃さずに採用するべきです。
働きながら将来を考えるのが現実的
さて、ご相談に戻りましょう。
今時の学生さんには、いささか厳しすぎる物言いかもしれませんが、相談者の現状は、就活に気乗りがしない、もっと直截(ちょくせつ)に言うと、就活から逃避したいということなのではないでしょうか。
そう推測した上で、回答者は、現時点では「そう思っていてもいい」と思います。大半の大学生にとって、学生の時点で、自分の「適性」や(将来にわたって継続できる)「やりたいこと」を見つけるのは無理だからです。
仕事の内容や会社の良しあしについて、良かれと努力して調べるとしても、何らかの縁に基づいてどこかに就職して「試しに働いて」みて、次に「働きながら」将来の進路を考えるというのが、多くの学生にとって現実的な選択です。
相談者が非凡なまでに優れた人材であるならゴメンナサイというしかありませんが、ご相談を頂いているという事実からして、普通の学生さんなのだろうと推察します。まずは、肩の力を抜いて、ご自身の現実を等倍率で正面から見つめるところからスタートされてはいかがでしょうか。
「本当に自分の会社を持ちたいのなら、直ちに起業に取りかかれ! うまくいくまで、石にかじりついてもがんばり抜け!!」といった、(回答者には不似合いな)「マッチョな」アドバイスも少々考えましたが、たかだか英語のために留学を考えようかという「20歳を過ぎたゆとり君」には、不適切でしょう。
そもそも起業は成功確率が小さく、成功した場合のリターンは大きくとも、平均的な期待値の小さい選択肢です。チャンスとなるビジネスやコネをすでに見つけているか、よほどがむしゃらに働ける人か、いずれにしても「普通の人」の範囲から何かがプラス方向に外れている人が、それでも失敗するケースを覚悟しつつ取り組むような選択肢でしょう。
情報収集の場としての就活・就職
現在、起業できるようなビジネスの種やコネを持っているわけではなく、英会話のために留学するのは時間もお金も無駄だとすると、相談者は、普通に就活に参加してみるのがいいのではないでしょうか。
ただし、主目的は、就活と就職を通じて、自分が関わるべき仕事や職場を見つけるための「情報収集」を行うことです。
就活の、特に採用・不採用が分かれる局面は、学生から見て、現役のビジネスパーソンがはじめてビジネスの一部として真剣に自分に接してくれる場面です。インターンは、しょせん会社にとってお客様なので、むしろ、会社を調べた上で面接に臨む方が短期間で必要なこと(≒一緒に働くに足る人々がいるかどうか)が分かると思います。
会社に対して真剣な興味を示す相手に対しては、ビジネスパーソンの側も誠意のある答えを返します。そして、「ぜひ、確保したい」と思う人材なら、学生が相手でも「本気」を出すはずであり、この時にはじめて、相手の人物としての力量や人格を感じることができます。
つまり、先方に自分が評価されるのと同時に、相談者の側でも相手の人物と、そういった人物を抱えている会社とを評価できるようになります。
一般に、自分自身を評価される立場にさらすところまで踏み込んで、はじめて相手のことを自分が評価できるようになります。
昨今の就活が、必要以上に「めんどうくさい」ものであることは、回答者も同意するところですが、せっかく存在する真剣勝負の場なので、回避しない方が得だと思います。さまざまな、生の「会社」や「ビジネスパーソン」を知る機会ですし、自分自身に関しても新しいことが分かるかもしれない機会でもあります。
「採られる」としても、「落とされる」としても、いい経験でしょう。いい経験が数カ月の期間で集中的にできるのですから、この機会を最大限に利用してみてください。
今後就職する会社で得られる経験と共に、将来、起業するにせよ、サラリーマンを続けるにせよ、貴重な経験が得られると思います。
相談者は、「まず自分のできる限りのことをしてみたいと思っております。それでも就活すべきでしょうか」とおっしゃっていますが、まず就活で「自分のできる限りのこと」をしてみるのが正解でしょう。
最後にもう一つ「日本の社会でみんなと違う道に外れてから、戻ることができるのか考えるととても不安です」というご質問に答えておきましょう。
ビジネスの世界で、「違う道に外れ」ることは、普通の道に戻る上で不利であることは否めません。「経歴」は人が他人を評価するときの重要な情報なのだから、自然です。
ただし、他人から見て非凡な能力を感じさせるビジネスパーソンであれば、「戻る」ことは難しくありません。つまりは、人によるということです。
相談文を拝読して、回答者は、相談者が非凡であるかもしれないという根拠を一つも見つけることができませんでした。「不安」ならやめておかれるのがいいかと思います。相談者には、「その不安を克服せよ」とは申し上げにくい。
山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。
*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。