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要約で読む “The Good Ones”

未邦訳ビジネス書で学ぶ。昇進・成功するために必要な人格とは

2016/2/22
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。毎週月曜日は「10分で読めるビジネス書要約」と題して、今、読むべきビジネス書の要約を紹介する。今回は、社会倫理を専門にニュースコメンテーターなどを務めるブルース・ワインスタインによる、組織を成功に導くための人格性に関する書物を取り上げる。私たちはどうしても、人材評価の場において「何ができるか」というスキル面で評価しがちだ。しかし、ワインスタインが言うように、諸個人が成功していくためにはスキル面よりも根本的な要因としてその人間の持つ人格が寄与する。本書は、本邦未邦訳ということもあり、ほかのビジネスパーソンに先駆けて、最新の人格研究の成果を学ぶことができる。

 【Flier】TheGoodOnes.001

人格の影響

問題のある人格は組織に損害をもたらす

個々の人材が持つ、豊かで幅広い経験と高いスキルは、まぎれもなく企業の財産である。

しかし、人材の人間性が、それらにも増して重要であることを忘れてはならない。たとえば、ビジネススクールをトップで卒業しても、人格的に信頼できない会計士には、仕事の依頼は入らないであろう。

米国では、被雇用者が職務義務を果たさないことによる企業損失は、年間4500億~5500億ドルにものぼるという報告がある。

2014年の公認不正検査士協会の調査では、米国の一般的な企業が不正行為により受けた損失額は、年間収益の5%に相当し、その平均損失額は14万5000ドルという結果が得られた。

調査した企業の実に22%が少なくとも100万ドルの損失を計上していた。また、暴力行為による企業損失は、年間360億ドルに上り、200万人以上の米国人がその被害者となった。

こうした状況があるにもかかわらず、多くの企業は、人格に明確な評価基準がなく、面接試験で評価するのが困難であるという理由から、採用の現場で人格に着目しようとしない傾向にある。

これらの企業は、人格に問題がある社員を抱えることによる経済的損失の可能性に気がついていないようである。

人格の力

企業や組織にとって望ましい10の性質

そもそも人格の土台となっているのは、個人に備わった特徴的かつ持続的な、感情、思考、および、行動の傾向や性質である。

それでは、企業や組織にとって望ましい人格を備えた人材とは、どのような人々を指すのであろうか?

著者が不可欠と考えるのは、「正直」「責任感」「勇気」「思いやり」「公平性」「感謝の気持ち」「忠誠心」「謙遜」「忍耐力」「集中力」という10の性質を持つ人材である。

中でもとりわけ重要な性質は「正直」であることだと著者は強調している。

これらの性質を備えた人材は、職場の士気や生産性を高め、かつ顧客との良い関係を築くので、経済的貢献度が高い。また、企業の評判を高めることにも貢献するであろう。

雇用者の人格と企業の業績は、一般的に考えられている以上に深い関わり合いがあるのだ。

「正直」であること

正直とは、真実を大切にし、そのために行動できることである。

チャリティー・ショップで働くブレンダ・ハリーは、ある日、寄付された洋服を整理している際に、ジャケットのポケットに3100ドルの現金が入っていることに気づいた。この金額は、彼女の2カ月分の給料に相当した。

もし、彼女が現金の発見をショップ・マネージャーに知らせなくても、誰も気づきはしなかったであろう。彼女には、人知れず現金を着服できるチャンスがあったのである。

しかし彼女はそうしなかった。後に、現金の発見を正直に報告した理由を尋ねたところ、「両親から、常に正直であるように育てられた。正直であれば、最終的に報われる。嘘をつくと、その代償を支払う日がくる」と彼女は答えた。

彼女のような優れた人格の持ち主こそ、まさに企業や組織に不可欠である。不正直な人材は、金銭トラブルや顧客とのトラブルの火種になったり、ひいては企業の信頼に傷をつけたりすることもあり得る。

不正直な人材を抱えていることは、企業にとっては不利益で危険なことなのである。

正直が生む信頼は企業ブランド

米国の優良調査会社であるギャロップ社では、調査した数字をごまかすなどの不正行為をした社員は即刻解雇となる。不正は、同社が提供する情報への顧客の信頼に直接関わる行為であるという理由からである。

広告業界の伝説的人物、ウォルター・ランドールは、ブランドとは顧客との約束であり、しゃれたデザイン以上の意味を持っているのだという内容の言葉を残している。

信頼が、すなわち企業のブランドとなるのだ。

競争の激しいビジネス環境において、経済的理由や問題の回避を理由として、簡単に不誠実な行動を取ってしまう可能性は大いにある。だからこそ、企業や組織は、誠実で正直であることを、求められる最も基本的な価値観として掲げる必要性がある。

「責任感」と「勇気」

責任感の欠如の顛末(てんまつ)

責任感のある人は、約束を守り、自分の行動の結果に配慮し、自分の間違いには自分で対処する。また、きちんとした勤労倫理があるため、高い労働意欲を持って仕事に取り組む。

「責任感」が欠如した職場に起こる混乱は、2008年と2009年に米国政府から救済処置を受けたゼネラルモーターズ社の事例からよく理解できる。

同社の管理職は、イグニッションスイッチの欠陥について委員会で報告を受けたが、これに対する措置を講ずることがなかった。委員会の議事録の作成はなきに等しく、後に議事の決定者を見極めることさえ困難であった。責任逃れ、責任のなすり合いは管理職の間で常態となった。

社内のコミュニケーションにおいて、「問題」や「欠陥」などの特定の用語の使用は禁止され、それぞれ「注視すべき課題」や「設計外の作動」のように言い換えて使われていた。

GM社のメアリー・バーラCEOは同社の文化や体質の変革の必要性を痛感し、その実行に乗り出したが、結果は今後期待されるところである。

勇気は人命も救う

1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号の事故から、組織内で発揮される勇気とは何かを考えてみたい。

NASAのエンジニアで、同機の固形燃料ブースターの担当をしたアラン・マクドナルドは、外気温に対するブースター試験が十分に行われていないことを知っていた。打ち上げ当日の気温は、事故の危険を排しきれないことを認識していたため、彼は必要書類への署名を拒んだ。

しかし、彼の上司が代わりに署名し、打ち上げは実施され、結果、搭乗者全員が死亡するという悲劇が起きた。

勇気ある行動が阻まれる理由は、失業、肉体的・精神的危害、人間関係、恥への恐れにある。勇敢であろうとすると、肉体的かつ精神的な戦いや上層部との苦闘に挑まざるを得なくなる場合がある。

チャレンジャー号の事例は、個人が勇気を持つこと、また、企業や組織は、その勇気を受け入れることの大切さを訴えるものである。

「思いやり」「公平性」「感謝の気持ち」「謙遜」、そして「忠誠心」

思いやりと公平性の役割

同僚や顧客の状態を気遣うことは、よい人間関係を育て、結果的に企業に利益をもたらすだろう。管理職が雇用者に思いやりを示せば、彼らはより精力的に働いてくれるはずだ。

また、公平性が、雇用や昇進、職務分担や給与決定において欠かせないことは言うまでもない。人権に関わる事柄や、論争の解決に取り組む際も、公平性は極めて重要である。

私たちは、人物や出来事に対して、無意識のうちに偏見を持ってしまう場合が多くあることを、常に念頭に置いておくべきだ。

謙虚な人は感謝できる

感謝できることや、謙虚であることも、非常に大切な性質である。

2012年に、米国心理協会が1700人以上を対象に行った調査では、対象者の半数以上が、感謝されていないという理由で新しい職を探していることが明らかとなった。感謝されることは働く人にとって大きな意味を持っているのだ。

感謝の念と謙虚さは深いつながりがある。謙虚さはしばしば自分を過小評価することと見なされるがそうではなく、自分の限界を知っていることである。謙虚な人は、自分一人で結果を出したと思わず、他者の助力に素直に感謝できる。

また、昇進には野心よりも謙虚さが必要であるといえる。謙虚な態度は、同僚を鼓舞し、上司の信頼を得ることができるからである。

双方向の忠誠心

社員が忠誠心を持って働く企業の離職率は低い。また、そうした企業は、より優れた応募者を集めることもでき、業績もよいという調査報告がある。

2014年の夏、米国ニューイングランド地方にある、スーパーマーケットチェーンの従業員2万人が、同チェーンのCEOの解雇に抗議するストライキを起こした。

このCEOは、従業員の給与を上げ、株主配当金を縮小しようとしたために、取締役会で解雇されてしまったのである。スーパーマーケットの顧客までストライキに賛同し、同チェーンの損失は日に100万ドルまで及んだ。

雇用者と雇用される側の間で双方向に忠誠心が働き、強められた具体的な例といえる。

「忍耐力」と「集中力」

諦めないことの報酬

忍耐には、受容の精神、柔軟性、粘り強さ、報酬を先延ばして待てることという4つの要素が含まれている。

が、苦境に立たされたとき、その事態を受け入れ、柔軟に対処し、粘り強く、状況が好転するまで待つというのは、たやすいことではない。

「ハリー・ポッター」シリーズの著者として一躍名声を得たJ.K.ローリングに、こうした忍耐の資質を見ることができるだろう。

彼女は、離婚して無職のシングルマザーになり、うつ病を発症するという困難な時期を過ごしていたが、夢を失わずに小説を書き上げた。さらに、出版社と契約をするまでには1年間という月日を要した。だが、その後の成功は知っての通りである。

怒って短気になること、急速に成果を求めることが結果に結びつくこともあるのは否めない。しかし、それらは、職場や人間関係に悪影響を及ぼすので、長期的には大きなコストを伴う。

心を注ぐ

集中できることは、ほかの9つの性質と異なり、道徳または倫理的なものではない。しかし、この性質なしにはほかの9つの性質を実行するのに難しさを伴う。

そして、一定の時間に、一つのことに集中できる能力は、多くの状況において不可欠である。

出社しても、ソーシャルメディア・サイトに気を取られている社員、過労で頭脳が働かない状態にある社員は、あまり役に立たないのは言うまでもない。

複数の事柄を同時進行して行うと、作業の能率は非常に低下してしまう。昨今のテクノロジーの発達や過剰な仕事量、あるいは、上層部からの締め付けなどで、一つの物事に集中して当たるのが容易ではない場合もあるが、これらは、越えられない障壁では決してない。

組織、個人ともに、集中することの大切さを強く認識する必要がある。

人格は成功のための不可欠要素

改めて人材の人格を考える

個々の性格から生まれる人格や品性は、観察し、評価することができる。望まれる性格は、自己努力や環境により育てられることを忘れてはならない。

優れた人格を持った人材により、企業は絶対に成功するとは断言できないが、その傾向が高まることは間違いない。採用する側も、応募する側も、また、企業内で自己アピールする際にも、人格により重きを置くべきときが来ているのではないだろうか。
 一読のススメ

世の中には、一見当たり前すぎて深く考えることがないが、実際はとても重要なことが多々ある。本書では、そんな当たり前なことにスポットライトが当てられていて、読者はそれらを実行するのが思いのほか容易ではないことに気づかされる。

個人の持つ性格や品性が、企業の収益や損失までにも影響するという著者の主張は、本書中の多くの事例を読み進めるうちに、決して誇張ではないと理解できる。各章の末尾に、人格を見極め、評価するための、具体的な質問例が記載されているので、ぜひご活用いただきたい。

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本の要約サイトflier(フライヤー)
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