世界は面白い。鳥カゴから飛び立て

2016/2/22

脳に刺激を与え世界を楽しめ

佐々木 リーダーシップ、教養・哲学・ビジョン、テクノロジー、先見力をテーマにして、合計26回にわたり語ってきた本連載も今回で最終回です。
最後に、読者のみなさん、特に若い人たちに向けてメッセージをもらえますか。
竹中 僕は若い人にいろんなことを言うけれど、真面目に夢を語ってもあまり反応しないんですよね。
でも、これを言うと間違いなく反応する言葉がある。
それは「君はパリのオペラ座に行ったことがあるか。タキシードを着て自分の好きな人にイブニングドレスを着せて、いい男といい女になってパリのオペラ座に行くのは楽しいぞ」というもの。「いい男といい女」というところに反応しますね(笑)。
一番伝えたいのは、世界は面白いし世界を楽しむと人生も面白いぞということです。その面白い人生を楽しんで初めて、時間を超えたいとか空間を超えたいとか、そういう好奇心が出てくるわけです。
脳は刺激を受けて初めて反応する。だから世界の面白さで脳を刺激にしろと。そうすると人生を見る目も変わるんじゃないかということなんですよね。
グローバリゼーションに備えて英語を勉強しろとか、そんなことは小さな話です。面白い人生を描こうと思ったら、英語ぐらい勉強するのは当然のこと。もっと楽しい人生を送るためには面白いことに興味を持つこと。
コーラの瓶は丸いのに、なぜ牛乳パックは四角いのか、という話をしましたっけ?
佐藤 伺ってないです。
竹中 小学校1年生に経済を教える場合、私はこの話をするんですよ。
コーラやジュースの瓶って丸いでしょう。牛乳パックは四角いでしょう。なぜか。理由は一つではないし答えはいろいろあるけれど、飲みやすいとかそういうことではなくて、ちょっと考えると理由がわかる。
こういうと「あっ、わかった。牛乳は冷蔵庫に入れるからだ」という子がいるんですよ。これは正しいですよね。
丸だと重ねたとき隙間ができるでしょう。コーラやジュースは運ぶとき常温でいいけど、牛乳は貯蔵するときも運ぶときも必ず冷蔵しなきゃいけない。
それにはコストがかかるから、無駄な空間をつくらず、できるだけたくさん詰め込むには四角のほうがいい。そう考えると世の中って面白いよね。
アメリカのバーに行くと、水よりビールのほうが値段が安い。なぜなんだろう。置いてあるポテトチップもタダ。なぜでしょうか。
答えはこのバーの収益源はビールで、ビールの売り上げを最大にしたいから。それにはポテトチップをタダで食べさせて喉を乾かせるほうがいいからです。
水を飲まれたらビールを飲まなくなってしまう。だから水を高くするんですよ。そう考えると世の中には面白いことがいっぱいある。人間の社会は面白いぞということを伝えたいですね。

思い込みから抜け出せ

佐々木 日本にいると、海外は恐ろしいものように感じることもありますけれど、面白いものでもありますよね。
佐藤さんはいかがですか。佐藤さん自身が若者ですから(笑)、同世代へのメッセージでもいいですよ。
佐藤 そうですね。ナポレオンが言った言葉で、面白い言葉があるんです。
「人生は取るに足りない夢だ」。
寝て見る夢も醒めて見る夢も一緒なんだと。人間が考えることは結局はその通りになるんだ、ということだと思います。
人間は何にでもなれるもので、自分の思い通りの場所に行って思い通りの人生を送れる。ただ想像力が制約しているだけなんだと。
本当にそのとおりだと思うんです。人間は思い通りに生きられるけれど、逆に言えば自分の思った通りのものにしかなれない。私たちは小学校、中学校と教育を受けていくうちに、思考の制約を受けてしまうので、それを自分でしっかりはずす作業が必要です。
私自身、たくさんの思い込みにとらわれていて、20代前半はそれをはずす作業をずいぶんしました。だから誰でも20代は鳥カゴに入っているような状態なのかもしれません。
この先飼われた鳥として生きるのか、はたまた自由に大空を飛び回るのか。自分で空を飛ぶには多少飛ぶ練習をして筋肉をつけなきゃいけないし、カラスに捕まるかしれません。だからそこはもう選択ですね。どちらへ行きたいか、どういうふうに生きたいか。
竹中 佐藤さんも私も、言っていることは似ていますね。もっと自由に、もっと多様に生きる方法があるんだよということだと思います。
私の同級生で、エリート教育を受けて、政府系の金融機関に入った人がいます。
その人は初めてシリコンバレーに行ったとき、こんな自由な生き方があるのかと思ったそうです。それで仕事を辞めてアメリカに渡った。まさにカゴから外に出て、はばたいたわけです。
海外に出るだけで、人生が変わることがある。そういうきっかけをつかんでほしい気がします。自力で飛ぶのは大変ですよ。
私はみんなに絶対に留学したほうがいいと言うけれど、留学というのはアウェーで勝負することなので、大変なことは間違いない。でもその経験の中で自由に生きる力が身につくんです。
佐藤 日本にいるのは、ずっと部屋の中にいるようなもので快適じゃないですか。
でも本当に面白いことはいつも部屋の外にある。だから飛んでみるのもあり。筋力が足りなくて下まで落ちたとしても、また筋力を身につければ、もっと遠くまでいけるかもしれない。
佐々木 「鳥カゴから飛び立て」。いいメッセージですね。4シリーズにわたって、長時間ありがとうございました。
竹中 いや、本当にありがとう。大変勉強になりました。
佐藤 こちらこそ、ありがとうございました。
(構成:長山清子、撮影:福田俊介)