20150115_特別編_ペップグアルディオラ

特別企画・前編

【動画解説】グアルディオラの練習から思考を読み解く

2016/2/21
サッカー界において世界最高の監督は誰か? もし指導者の間でアンケートを行ったら、最も票を集めるのはペップ・グアルディオラだろう。バルセロナで2度欧州の頂点に立ち、現在バイエルンで史上初のブンデスリーガ4連覇に挑戦している。なぜグアルディオラは勝ち続けられるのか? 44歳の名将の哲学を練習動画から読み解く。

グアルディオラには、メディアに対して2つのルールがある。1つ目は「個別のインタビューを受けない」こと、そしてもう1つは「戦術練習を見せない」ということだ。

バイエルンでは練習が公開になる日もあるが、試合翌日のクールダウンといったさしつかえない日ばかりである。チームのやり方がわかるようなメニューは、ほとんど目にできない。

だが、唯一の例外が「合宿」だ。

ブンデスリーガでは合宿をファンサービスのイベントと考えており、実際、バカンスを兼ねて大勢のサポーターが訪れる。旅行ツアーを主催するクラブもあるほどだ。さすがのグアルディオラも慣習を無視するわけにいかず、合宿では練習を公開することを認めた。

そのチャンスを逃すわけにはいかない。筆者はバイエルンのドーハ合宿に、2年連続で足を運んだ。

そのときに撮影した動画をもとに、2回に渡ってこの名将の思考を読み解きたい。前編となる今回は、2015年1月のドーハ合宿の動画を4本取り上げよう。

爆発的なプレスを身に付ける

まずは守備者3人(ラフィーニャ、ベナティア、ユース選手)が、「プレス」と「ステップバック」を繰り返すメニューだ。

グアルディオラ監督がパスを出し、攻撃者3人(シャビ・アロンソ、コーチ、リベリ)がパスを受けたら、そこに守備側の1人が猛然とプレスをかけ、残り2人が横にスライドして後方のスペースをカバーする。

【連続的なプレスの練習】
 1. ペップがパスの「出し手」になって、3人が「受け手」になる。
 2. 3メートルほど離れて、他の3人が「プレス役」になる。
 3. ペップがパスを出したら、受け手に最も近い「プレス役」が詰め寄り、他の2人の守備者は背後をカバー。
 4. 受け手がペップにボールを戻したら、守備者3人は元いた位置に素早く戻る。
 5. これを繰り返し、コーチが笛を吹いたらペップが守備者のひとりにパスを出し、受け手だった3人がそこに素早く詰める。

このメニューには「ボールに最も近い選手がプレスをかけ、他者が後ろをカバーする」という守備の基礎が凝縮されている。

体に爆発的な動きを覚えさせる「フィジカルメニュー」であると同時に、ボールの位置に応じて3人が連動する「戦術メニュー」でもあるのだ。

注目してほしいのは、最後にわざとグアルディオラ監督がパスをミスして、イーブンな状態をつくっていることだ。

ルールが伝わっておらず、攻撃側が簡単にボールを拾って終了しているが、本来であれば両者が反応して、ボールを奪いあうことを意図している。

いわゆる切り替えの場面だ。いつでも場面転換に体が反応するように、油断できない状況をつくり出しているのだ。

口で「切り替えを速くしろ」と言っても、あまり効果はない。グアルディオラ監督はルールを工夫することで、選手の切り替えの意識を高めている。

正しいタイミングで爆発的に動く

次はパスを引き出す動きを身に付けるメニューだ。

パスを出す役目の選手4人が外側に立ち、内側に2人(ロッベンとシュバインシュタイガー)が入り、キュッと動いてコースに顔を出し、パスを受けるというものである。

【パスを引き出す動きの練習】
 1. パスの出し手4人が十字形に立ち、その真ん中に受け手が入る。
 2. パスの出し手の前には遮蔽物を置く。
 3. 受け手はステップを踏んでパスコースに顔を出し、ワンタッチで戻す。
 4. 受け手はいろんな方向に動いてパスをもらい、あとはそれを繰り返す。

ここでカギになるのが、先ほどと同じく「爆発的な動き」、そしてもうひとつが「タイミング」だ。

爆発的な動きの大切さは、ロッベンを見れば一目瞭然だろう。ロッベンは静から動へ、実に鮮やかな身のこなしでコースに顔を出している。

しかし、ただ素早く動けばいいというわけではない。いつ動き出すかという「タイミング」が極めて重要だ。

それをグアルディオラ監督が自ら実演しているのが次の動画である。

味方がパスを出すタイミングに合わせて、受け手が敵(このメニューでは人型のパネル)の背後からキュッと飛び出る。

早すぎるタイミングで動くとマークが寄ってきてしまうし、遅すぎると味方はパスを出せない。

「正しいタイミングで!」

このメニューに限らず、グアルディオラ監督がよく口にする言葉の一つだ。

基礎を統合した応用練習

そして最後に紹介するメニューは、GKからのビルドアップだ。

GKの前にアンカー(シャビ・アロンソ)、センターバック(ボアテン)、右サイドバック(ラフィーニャ)がいて、それに対して2人の守備者がパスカットを狙う。さらに前方に攻撃者と守備者が1人ずついる。

GKを除くと、「4人の攻撃者」対「3人の守備者」という構図で、必ずどこかにフリーの選手がうまれる。そのフリーマンを発見して、ビルドアップするのが練習の目的だ。

攻める側は「パスコースに顔を出す」動きが基礎となり、守る側は「爆発的なプレスとステップバック」を求められる。つまり、ほかのメニューで取り組んだ基礎を統合した応用編のメニューだ。実に理にかなっている。

グアルディオラ監督の下で練習すると、技術がうまくなるだけでなく、戦術的な賢さも向上すると言われている。理論と直感が融合した上記のような練習に、その秘密の一端があるのだろう。

*後編は2月28日に掲載する予定です。