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福原正大氏インタビュー

限界を迎える新卒一括採用。人工知能で採用活動は変わるのか

2016/2/20
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。土曜日は、話題の新刊著者インタビューを掲載する。これからの人事は人間に代わって「データが9割」を決める時代となる──。グローバル人材育成事業を手がける福原正大氏は『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』(徳岡晃一郎氏との共著、朝日新聞出版)で、そう予測する。本書では、現行の新卒一括採用の問題提起をしつつ、人事の未来予想図を示す。これからの時代、日本の人材採用、そして育成はどう変わるのか。(聞き手:NewsPicks編集部 佐藤留美)

「就活LOSE×LOSEゲーム」

──福原さんは著書『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』(朝日新聞出版)の中で、人事の未来について語っています。とりわけ今後の新卒学生の就活は、ビッグデータやAI(人工知能)の台頭でどのように変わるのですか。

福原:人工知能を人事活動に取り入れる最大のポイントは、学歴のスクリーニング問題を解消できることです。

昨年話題となった『ワーク・ルールズ!』にもあるように、面接官は相手と会ってたった10秒間で、その人を採用するか否かの判断を下すといいます。

そこからのプロセスはすべて、その最初の認識の確認に過ぎない。だから面接官のバイアスが如実に出てしまいます。

一方、たとえば国連では、「Competency-based interview」という受験者の能力や適性を見極める面接を実施していて、現在、これが世界のスタンダードになりつつあります。

ですが、日本の就職活動ではこうした方式が取られていません。2、3年で人事異動してしまうような頼りない面接官が、しかも10秒の印象で採用を決めてしまう、企業にとっても学生にとってもマイナスしかない「LOSE×LOSEゲーム」をやっているのです。

──「WIN×WIN」の逆ということですね。ちなみに、「Competency-based interview」とは具体的にどんな面接なのですか。

たとえば、コンピテンシー(その組織の優秀者の共通特性)の中で「課題設定力」を重視するとします。その場合、この能力があるかどうかをレベル1、レベル2と要件に分け、その要件を受験者が満たしているのかを質問を通じて見ていきます。

その際、受験者がビデオ(動画)のように話せることが大事です。写真のように切り取られた知識の積み重ねで話すのではなく、あらゆる言葉がよどみなく言えるかどうかを注視します。こうした方式をとらずに、たった10秒の印象で採用を決定するやり方は、明らかに企業にとっての“LOSE”です。

一方、10秒面接をされてしまう学生にとってのLOSEは、「就活塾」で学んだような小手先のテクニックにとらわれてしまうことにあります。

コンピテンシー採用で学業に専念

──確かに学生は、面接時のストーリーづくりや受け答えなどの表面的なテクニックの会得に必死です。

すると、学歴とテクニックさえあれば採用されてしまう。また、現行の就活システムに過度に適応するがゆえに、本来の学業に打ち込むことができなくなってしまうのも問題ですね。

ところが、私が今後の人材選びのコアになると考える人工知能を用いた採用をすれば、面接官の勘に頼らなくてもよくなるため、コンピテンシーに基づいた採用システムを構築できます。

具体的に言えば、応募者の評価情報を面接のみならず、SNSなどあらゆるところから取得し、ビッグデータ化したうえで、企業側の求めている人物像とのマッチングをかけます。

「求める人物は、応募者のような行動をとるか」という判断を繰り返すことで、人工知能の機械学習も進んでいく。そうするうちに、「こういう人材を採ればいい」「こういう回答傾向の人は信じられる」という基準を人工知能が学んでいくわけです。

──すごい反面、恐くもありますよね。

そうですね。ただ、努力をしている人にとってはチャンスです。これは就活塾のテクニックと異なり、毎日の繰り返しの中で積み重なったデータなので、よりフェアに判断できるとも言えます。

たとえば、私たちが手がける人材評価サービス「GROW」では、利用者(就活生)が自分を評価してほしい友人や仲間を指名します。いわば360度人事のようなイメージですね。そうしてお互いで評価しあい、結果を企業側に提出することもできます。

友人や仲間の評価を通じて、自分に足りない部分が提示されることで成長につながるほか、企業にとっても「私はどういう人間か」についての客観的な情報を提出することができるのです。

就活だけうまければ「成功」する日本

──同様の取り組みは、海外では広がっているのですか。

アメリカには元から日本のような就活がありません。自分のできることを前提にインターンに取り組み、その成果で就職先を判断します。

私は塾を経営していますが、生徒には海外の大学に進学することを勧めています。なぜなら日本の大学に行ってしまうと、高校3年までの学力でとまってしまうから。大学ではバイトに明け暮れても、就活を乗り切ればその人は「成功」したことになってしまう。

そうではなく、大学4年間の学びの仕組みをつくることが大事です。そうした学びを、企業が求めるコンピテンシーと直結させるのが、私たちの目指しているところです。

──そうすると受けいれる企業側も変わる必要があります。

ええ。既存の就活は企業にとっても「LOSE×LOSEゲーム」になっているので、企業サイドの意識も次第に変わっていくでしょう。学歴によるスクリーニングはしても構いませんが、その前にコンピテンシーでふるいにかけることは決して無駄ではありません。

学歴の為に大学に行く意味はない

──実際、学歴と仕事の能力に相関関係はあるものでしょうか。

それほど強くはないと思います。もちろん学歴はある種の能力を示していますが、学歴フィルターで落としている中にも優秀な学生はいっぱいいます。

私自身、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行する際、同期の9割方は東大・一橋・早慶の4大学の学生でした。財務省では東大法学部で8割を採っています。

しかし、ここで測られている能力は、大学を受験した18歳時点のもので、それで判断されるのは変ですよね。そもそも大学受験に必要なのは記憶力ですが、それは途上国が先進国に追いつく過程で求められていた能力です。

「答え」がない時代、仕事の能力と直結するわけではない。だからこうしたゆがみを変えていかなければならないと思っています。

慶應義塾大学経済学部卒業。INSEADにてMBA。グランゼコールHECにて国際金融修士(with Honors)。筑波大学大学院企業科学博士課程修了(経営学博士)。1992年に株式会社東京銀行入行後、2000年に世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズ株式会社に入社。最年少Managing Director、取締役を経て、2010年にグローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Society株式会社設立。

福原正大(ふくはら・まさひろ) 慶應義塾大学経済学部卒業。INSEADにてMBA。グランゼコールHECにて国際金融修士(with Honors)。筑波大学大学院企業科学博士課程修了(経営学博士)。1992年に東京銀行入行後、2000年に世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズに入社。最年少Managing Director、取締役を経て、2010年にグローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Societyを設立

努力している人が報われるために

──いま、企業の人事部はどのような危機感をもっていますか。

このままでは同じような人材しか集まらず、組織が収束していく感覚はあるようです。また、採用の定量化も最近では語られるようになりました。

これまでは誰も採用活動の可否を定量化できておらず、採用と育成とを切り離して管理していました。そこにビッグデータを取り入れれば、一貫した人材評価が実現できる。採用の効果測定をすることで、バイアスのある面接官を排除することも可能です。

学生にとってのメリットはやはり、努力している人が報われることです。時折プレゼンなど「押し出し」がうまい人がいますが、内向的な人にも優秀な人はたくさんいる。そうした学生が拾い上げられます。

企業とのミスマッチをデータで予防

──各社のコンピテンシーを、会社内のハイパフォーマーのデータを元に組み上げる流れは加速するのですか。

ええ。また私たちは、同じような人材ばかりにならないような仕組みも開発中です。一つのコンピテンシーではなく、組織の成長に必要な多様な人材を、バランスよく配分することをお手伝いします。

人工知能の良いところは、今年よりは来年、来年よりは再来年とどんどん精度が高くなる点にあります。早く始めれば始めるほど、有利な状況を生むことができます。

──大手企業からも導入のオファーがあるそうですが、企業サイドも学生のミスマッチに悩んでいるということですか。入社1年目でメンタル不調を引き起こす社員が多いとも聞きます。

「3年3割」などと言われていますからね。メンタルに関しては悩んでいる事実があっても上司に揉み消されることもあるでしょう。そうした現状も、上司のデータを集積し分析することで改善していきたいと思います。

──類似のサービスはありますか。

発想としては「Linkedin(リンクトイン)」が近いですが、あれは転職向きのサービスです。日本では転職活動はおおっぴらにやりづらい現実がありますから、なかなか流行らないのではないでしょうか。逆に私たちはそこがチャンスだと考えました。そして新卒学生も取り込んでいこうと。

また、私たちは教育に過度のお金をかけない仕組みを真剣に考えています。学生からお金をとらずに教育をするためには、企業からお金をもらうほかありませんが、採用に関わるならばお金を出そうとする企業も多い。

──これも新卒一括採用への危機感の表れですか。

要は、新卒一括採用は「楽だから続いてきた」だけなんです。そしてそのまま、デファクトスタンダードになってしまった。終身雇用や年功序列が崩壊しつつあっても、新卒一括採用だけはいまだに残っている。しかし、だからこそ課題も多く、新卒一括採用はいまのかたちでは維持できないと考えています。

これから人事はよりフェアになる

──それはなぜですか。

まず、企業側に人材を長期的に育成する余裕がない。10年、20年と働き続けることをベースに人事制度は設計されているわけですから、それをたとえば3年で辞められてしまうと投資を回収できません。

そうなると企業もほかの方式を模索し始めるはずです。今よりも成功報酬の割合は増えていきますし、面接官の主観で選ぶ面接も減っていくでしょう。

──今後の人事で頼りになる情報は、データベースになる、と。

その通りです。人事はよりフェアになっていく。人事部にひとりはデータサイエンティストを置く時代になっていくと思います。

5年後日本の人事は変わっている

──そのような未来は、何年後くらいに到来しますか。

5年もすれば相当変わると思います。低コストで優秀な人材を精選する点では、人工知能を使った採用はより効率的ですから。

また、日本よりもほかのアジア諸国で早く進むかもしれません。アジア諸国では採用のフォーマットが整っていない「何でもあり」状態ですから、逆に先進的な知見を導入するハードルが低いのです。私たちもベトナムオフィスを立ち上げましたが、案外、日本よりもスムーズに成長するかもしれません。

──「就活強者」と呼ばれる、複数内定を得る学生についてはどう考えますか。

楽して就活をして、企業を甘く見ているところもあると思います。だから内定を複数とって、平気で辞退することができる。

「内定塾」のような業者も終わっています。彼らは「内定とるだけとったら切ればいい」と教えていますが、そんなのウソですよ。辞退者が続出しては企業も日本経済も立ち行かなくなります。この現状には怒りを覚えます。

──今後の展望は?

新卒一括採用にはプラスの面もあるので、一定数残っても構いません。ただ就活という人生最大の「お祭り」に、18歳時点の能力で決められた学歴で参加させられてしまう構図を変えたいと考えています。

そして、もっと挑戦したり失敗したりすることのできる「再チャレンジできる社会」や、それに相応しい就職のモデルをつくっていきたいですね。
 福原書影.001

(聞き手:佐藤留美、編集:野村高文、写真:上田 裕)