hawksbanner.001

ホークスの経営戦略【12回】

大盛況ホークス春季キャンプ。“ただの練習”に数万人来場の理由

2016/2/17

今年も、宮崎市で行われているホークス春季キャンプは連日大盛況だ。

日曜日だった2月14日には3万900人が来場。また、9日(火)、10日(水)、15日(月)は平日だったが1万人超(それぞれ1万100人、1万2700人、1万400人)を記録した。

だが、これは驚く数字ではない。過去には1日で4万人以上が訪れた日が何度もあった。

スポーツ新聞には各球団のキャンプ来場者数が日々掲載されているが、数百人か、多くても1000~2000人がいいところという球団がほとんどだ。

ホークスのキャンプは、桁が1つ以上違う。

なぜか。

チームが強く、柳田悠岐や松坂大輔ら「人を呼べる」スター選手が多いから。

それはある意味大前提である。

12球団一と評判の施設

さらに、キャンプ地の生目の杜運動公園は12球団一と評判の充実の施設を誇る。徒歩圏内に2つの球場と2つの広大なグラウンドが整備されており、選手側の利便性はもちろん、ファンからも「見学しやすい」「移動する選手と近くで触れ合えて、写真を撮ったりサインをもらえたりできる」などと好評で、たまらない環境が整っているのだ。

だが、その2つだけでは、この集客は実現できないだろう。ただの練習に、なぜ何万人もの人々が来場するのか。

「われわれホークスは、ファンサービスやエンターテインメントを提供するのが務めです。常に、お客さまの期待を上回るもの、飽きられないものをご提供する。それが根底にあります」

そう語るのは営業戦略部戦略企画課の若山鉄兵さん。2月は宮崎キャンプでのイベント企画や運営などに携わっている。

選手と同じマウンドで投球体験

極端かもしれないが、ホークスのキャンプは、球場の中に入らなくても、またはかなりライトなホークスファン(野球ファン、もしくは野球に興味がなかったとしても……)でも、十分に楽しめる仕組みが出来上がっている。

生目の杜運動公園内の「ホークスビレッジ」には地鶏炭火焼や肉巻おにぎりなど宮崎グルメを堪能できたり、宮崎土産を買えたりする屋台が26店舗もそろっている。さらに足湯があり、トークショーやダンスなどを見ることができるイベントステージがあり、「日本一宮崎牛」の振る舞いがあり……(イベントの詳細はホークスウェブサイト参照)。

週末には、子どもが中に入って遊べる「ふわふわ人形」も登場する。そういえば、過去には気球を飛ばして、それに乗ることができる体験イベントもあった。

「今年は初の試みとして親子ブルペン投球体験を行い、『プロの選手が使うマウンドで投げることができてうれしかった』というお子さまの声や、『こんな場所で、一緒にキャッチボールができるなんて感激でした』と保護者の方からの言葉を頂戴しました。現場の監督やコーチ、グラウンドキーパーの皆さんのご理解とご協力には感謝しきりです」(若山さん)

女性ファンに手厚いサービス

また、チームを熱く応援してくれる女性をターゲットにした「タカガール」向けの新企画も今年は多かった。

「タカガール応援アイテムとして『オリジナルシュシュ』を1500個配布したり、2月14日のバレンタインデーには、ホークスの選手たちから女性ファンの皆さまへ『逆チョコ! 選手からバレンタイン』を実施し、3000個のチョコレートを手渡しさせていただきました」

だが、ふと疑問に思うことがある。

キャンプ見学は入場無料だ。それなのに、球団としてはコストをかけて、人員を割き、それでもキャンプ集客に力を入れる。

なぜなのか。

2月14日、松坂大輔ら選手たちが練習の合間に「逆バレンタイン」のイベントを行い、女性ファンにチョコをプレゼントした

2月14日、松坂大輔ら選手たちが練習の合間に「逆バレンタイン」のイベントを行い、女性ファンにチョコをプレゼントした

キャンプだからできることがある

「キャンプは、ホークスのことをより知ってもらったり、近くに感じてもらったりする機会だと考えています。シーズン中は時間なども限られますが、キャンプは1日中長い時間、ホークスの選手たちを間近に感じることができます。その中でシーズン中とは違う選手の表情が見えたり、彼らが最高のパフォーマンスを発揮するための努力をする姿を知っていただいたり。ホークスというチーム、そして野球に親近感を持っていただけるのが宮崎キャンプだと考えています」

「また、本拠地の福岡以外の地域にホークスの魅力を直接お伝えする機会は、われわれとしても限られています。キャンプ地の宮崎をはじめとした九州一円、そして全国の皆さまへホークスの魅力を発信することで、ヤフオクドームへ足を運んでいただけるきっかけが生まれれば、私たちはうれしく思うのです」

パ・リーグ3連覇と日本一V3へ、王者の鷹が翼を磨いて爪を研ぐ宮崎春季キャンプ。その裏側では、ヤフオクドーム開場以来、今年で24年連続となるパ・リーグのホーム観客動員数1位を継続するために球団職員やスタッフらも必死な日々を送っているのである。

(写真:©SoftBank HAWKS)

<連載「ソフトバンクホークスのダントツ経営戦略」概要>
プロ野球では読売ジャイアンツが長らく「盟主」とされてきたが、現状をよく見ると、実質的にその座を担っているのは福岡ソフトバンクホークスだ。売上高は12球団トップで、選手への年俸総額も球界最高。三軍制を敷く独自メソッドで自前の若手選手を育て上げ、12球団随一の戦力で白星を重ねている。ソフトバンクホークスが強いのは、親会社の資金力だけではない。卓越した経営戦略について、現地在住ライターの田尻耕太郎が隔週水曜日にリポートする。