20160212-EX-consulting

3人のEXコンサルによる覆面座談会

元コンサルが本音で語る“転職の正解・不正解”

2016/02/15
素性を明かさないから話せることがある──。戦略コンサルタントとして経験を積んだ後にキャリアチェンジし、新たなステージで活躍している“EXコンサル”のキャリアプランとは? コンサルが転職する際の市場価値や、実際の転職事情について、それぞれ立場の異なる3人のEXコンサルが本音で語り合う覆面座談会。

コンサルファーム勤務のリアルな仕事事情

──コンサルタントといえばハードワークという印象がありますが、当時はいかがでしたか?

B男:うーん、プロジェクトの種類とマネジャーによりますね。

C郎:その2つが悪く組み合わさると、過労死が見えますね。深夜に帰れたらまだいいけど、朝から翌朝7時まで仕事をすることもザラ。ひどいチームだと徹夜3日目とかあった。

B男:中小規模のコンサル会社の場合、大手とコンペになると、案件を獲得するために安くする、スコープを広げるといった道を取る傾向が高い。「我々はここまでやります、そして値段は6割です」と。お客さんはハッピーだけど、手を動かすのは僕らなわけで。

A子:私も、最初の2〜3年は休日の概念がありませんでした。プライベートといえば、せいぜい金曜の夜0時に仕事が終わったら、同業者と飲みに行くくらい。タフな人は忙しい中でも遊んでいましたけど、みなさんプライベートはどうでした?

B男:コンサルタントって合コンの場だとモテるから、僕は結構行きましたね。若い頃は調子に乗っていました。

C郎:僕の場合は、フットサルしたり、日帰りでスノボに行ったり。金曜の夜まで働いたら、土曜から日曜午前までの1日半は遊ぶと決めていました。でも、プライベートの時間はそれだけだったので、転職して平日の夕方から新橋で飲んでいるサラリーマンを見たときは驚きましたね。

──それだけ大変だと、給与面は期待できると思うのですが、そこは満足していましたか?

B男:会社によりますね。

A子:金融よりは少ないよね。

C郎:あまりに忙しかったとき、時給に換算すると1000円になったことがありました。これはまずいと上司に伝えると「僕の下で働けるんだから、むしろお金を払ってもいいくらいだ」と言われて。納得しましたけどね。

B男:納得したんですね(笑)。

【登場人物:A子さん】30代前半、コンサルタント歴4年半。消費財の販売戦略コンサルを経験後、食品メーカー、飲料メーカーの経営企画に従事。

【登場人物:A子さん】30代前半、コンサルタント歴4年半。消費財の販売戦略コンサルを経験後、食品メーカー、飲料メーカーの経営企画に従事。

コンサルの仕事で得た経験とスキル

──みなさん、なぜ新卒の就職先にコンサルファームを選んだのでしょう?

A子:私は学生時代、世の中に影響ある仕事がしたいと思って就職活動をしていました。大企業も受けていたので迷いましたが、他の企業よりもショートカットで“ビジネスの最前線”を学べるのではないかと思ってコンサルを選びました。

それに当時は、「絶対にこの仕事をやりたい」というものがなく、何となく影響力のある仕事がしたいと思っていたので、コンサルの仕事を通じて自分のキャリアパスを見つけようと思ったのも理由のひとつです。

B男:僕も同じような理由です。大企業に入ると配属リスク、地域リスクがありますよね。自分のキャリアは自分でデザインしたいので、コンサルとして広く社会をみて、そこから本当にやりたいことを見つけようと思いました。

C郎:僕は理系の大学院でIT系の研究をしていたので、その道に進もうと思っていたんです。だから、大手の研究職や外資系金融のIT部門など、かなり多くの選択肢の中で迷いました。

そんなとき、「コンサルを3年くらい経験して、研究者に戻る人もいる」という話を聞いたんです。最初から研究者になるのではなく、コンサル会社でスキルを身につけることがプラスになると。3年後、レベルアップした状態で自分の進路を選べるなら、より良い選択肢かもしれないと思いました。

──入社後、実際に働いてみての実感はいかがでしたか?

B男:僕は想像以上に面白かったです。リーマン・ショック後の入社だったから日本に仕事がなくて、すぐ海外拠点に派遣されました。そこで、東南アジアのプロジェクトに参加して、世界中のコンサルと働いて。日本人は意外と戦えることがわかったし、勉強になった。

スキルの観点でいうと、基本的な統計処理のスキルと、その結果の数値を実践的に読み解くスキルが身についたことは大きかった。それに加えて、経営の意思決定に必要な情報の粒度への感覚だったり、マネジメント層や交渉相手に物怖じしないハートが鍛えられたことも価値がありましたね。

C郎:本当に毎日勉強させてもらえた。深夜に乗るタクシーの帰路で、「今日も学びがあったなあ」と常に成長を実感していました。具体的には、課題を分解・構造化・整理することで自分自身でやるべきことを整理する「問題解決のスキル」が身についた。これって意外と事業会社では身につきにくいので、差別化もしやすいですね。

A子:私は上司に恵まれたおかげで、入社2年目から「海外で消費財の販売戦略コンサルをやりたい」という希望が叶って。忙しいけど充実していましたし、プロジェクトが終わったとき達成感は得難いものでした。

【登場人物:B男さん】20代後半、コンサルタント歴6年半。海外で経営コンサルを経験後、現在は外資系企業の日本拠点で経営企画に従事。

【登場人物:B男さん】20代後半、コンサルタント歴6年半。海外で経営コンサルを経験後、現在は外資系企業の日本拠点で経営企画に従事。

コンサル退職。キャリアチェンジの理由は

──その後、みなさんは転職という道を選ばれたわけですが、その理由は何だったのでしょうか?

A子:私は事業会社かつ海外で、食品に関わる仕事をしたいと思ったのがきっかけです。コンサルとしてではなく、ビジネスの当事者として関わってみたいと思うようになって。

でも、実際転職活動を始めると、“元コンサルの市場価値”は、ファームのネームバリューに左右されることを実感しました。大手ファーム出身で転職先候補の会社にアルムナイの方がたくさんいたりする場合はともかく、あまり知られていない会社だと、「ああ、一応コンサルなんだね」といった感じ。「コンサル出身だから次のキャリアの選択肢が多い」というのは、必ずしもそうとは言えません。

特に30歳以下の若手だと、専門性がないジェネラリストだと見られます。ある事業会社に応募したとき、「君には経験が足りない」と言われたこともありました。

B男:僕の場合は、本当はずっとコンサルをやろうと思っていたんです。でも、日本に帰るタイミングで、知人のヘッドハンターから「アメリカの成長企業が日本に上陸するから、立ち上げメンバーとして働いてみないか?」と誘われたのが、キャリアチェンジのきっかけになりました。

コンサルの仕事は好きだけど、成長産業で働くということに興味があったし、彼らが持つ技術のレベルも高かったので、その一員になるのは面白そうだと思ったんですね。

A子:じゃあ、コンサルに戻る可能性がある?

B男:なくはないです。でも今の生活に慣れたら戻れないかもしれない(笑)。今は朝9時に出社して、 19時には帰ります。健康的な生活です。

C郎:僕の場合、詳しくは言えませんが、外的要因によって入社3年後の転職を最初から見据えていました。もともと投資ファンドの仕事に興味があったので、コンサルとして経験を積みながら、機が熟したタイミングで行動したという感じです。

【登場人物:C郎さん】30代後半、コンサルタント歴3年。外資系コンサルを経験後、投資ファンドに転職し、経営ボードで活躍中。

【登場人物:C郎さん】30代後半、コンサルタント歴3年。外資系コンサルを経験後、投資ファンドに転職し、経営ボードで活躍中。

「EXコンサル」の転職市場における価値とは

──では、実際に違う業界・職種に転職した結果はいかがでしょうか。コンサル時代のどんな経験が生きていると感じますか?

A子:いい判断をしたと思っています。今の会社では、さまざまなスキルを持つ人と一緒に働けるし、自分の仕事の幅がずっと広がったことが面白い。コンサルの経験で培ったスキルとしては、経営戦略の仮説構築からPDCAを高速で回すノウハウは、今の仕事に大いに役立っていると感じます。

C郎:ただ、コンサルはP/L改善の専門家だから、会社経営に必要な知識を幅広く身につけられません。僕は知識の幅を広げたいと思って投資ファンドに転職して、自分の領域を大きく広げことができたので、成功だと思っています。

B男:僕も転職してよかったです。インターネット系の事業会社だから、自分が考えた戦略をすぐに実行できて、その効果がダイレクトにわかるのがなにより面白い。学びのサイクルが早いんです。そうやって自分たちで新しいビジネスと世界観をつくっていけるところがいいですね。

C郎:コンサルから転職すると、ビジネスへの関わり方が変わりますよね。簡単にいえば、世界が広がった。僕も上場企業の役員を経験できたし、最近ではエンジェル投資やベンチャー企業の手伝いをしたり、やりたいことにどんどん挑戦できている。

コンサル時代は大企業がクライアントだったので、プロジェクトも多く、歯車の一部という感じがしていました。でも今は、これまでに培った問題解決スキルを生かしながら、自分が主体となってビジネスをしている実感があります。

B男:もうひとつ転職して実感したのは、コンサル時代のネットワークが生きるということ。ビジネスの相手探しや欲しい情報があったときに、コンサル時代の横のつながりが使えるのはありがたい。

A子:そうですね。コンサルの時間感覚で、連絡するとすぐに返事が返ってくるのはコンサル&EXコンサルネットワークならではだと思います。経営の意思決定に必要な情報を迅速に集められて、分析も必要最低限で済むから効率がいいですよね。

──最後に、コンサルから転職を考えている読者にアドバイスをお願いします。

A子:転職することで新しい世界が広がるのは事実です。でも、本当にやりたいことが定まらないうちは、まだ転職しないほうがいいですね。自分が他の人と何が違うのか、何をやりたいのかを伝えられなければ、元コンサルでも差別化できません。パッションは大切です。

C郎:同感です。コンサルとしての最低限のスキルに加えて、どこかの業界にすごく詳しいとか、特化したスペシャルティーが身につくまでは、コンサルで修行するのがいいと思います。それができたらコンサル経験が生きる仕事がたくさん見えてくる。事業計画策定関連のスキルを生かすなら、事業会社の経営企画。常駐型のプロジェクトマネジメントスキルを生かしたいなら、ターンアラウンドマネージャー/社内改善チームのような職種が選択肢に入ってくるはずです。

B男:確かに、少なくとも普通の人であれば、コンサルを3年程度やらないと、基本的な問題解決のスキルは身につかない。でも個人的には、本当にやりたいことが見つかったら、すぐに動いた方がいいんじゃないかと思います。一度外の世界を知ると、ビジネス観やスキルの幅が想像以上に広がることは確かなので。

A子:最後に付け加えるなら、「失敗しても案外大丈夫」ということ。一度転職すると、コンサル以外の人脈がものすごく増えるので、新しい道が見えてくる可能性も高まります。もし、自分が進みたい方向性が見えているなら、チャレンジすることにちゅうちょは要らないと思います。

(聞き手:呉 琢磨、構成:田村朋美、撮影:福田俊介)